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知取気亭主人の四方山話
 

『モラルハザード』

 

2014年10月1日

9月27日の土曜日、御嶽山が突如噴火した。9月30日現在、10人を超す人の死亡が確認され、まだ多数の心肺停止者が出ている模様だ。しかし、まだ噴火が続いていることもあり、捜索に入れない個所もあって、被害の詳細は把握できないでいる。地元の警察や自衛隊が救助活動をしているが、秋の紅葉を楽しみに登った人達が沢山いたらしく、犠牲者の数はまだ増える可能性がある。被災された方々にお見舞い申し上げると共に、犠牲になられた方々に衷心より哀悼の意を表したい。また、救助活動に参加されている皆さんが、二次被害に遭われないよう願うばかりである。

さて、本題に入ろう。今回のタイトルは、「モラルハザード」である。暫く前から、何時かこのテーマで書こう、と思っていた。その切っ掛けは、7月に報道された、盲導犬が何者かによって刺されケガを負った、というニュースだ。盲導犬と言えば、目の不自由な人にとっては自分の目の代わりとなってくれる大切な相棒だ。しかも、どんな時でも他人に危害を加えないよう、極めて従順に訓練されている。それを、盲導犬の主人の目が見えないのを良いことに、抵抗しない盲導犬を刺してケガをさせるとは、犯人にはモラルのかけらも感じられない。この破廉恥なニュースを聞いて、大多数の日本人が犯人に怒りを覚えた筈だ。「なんてヒドイ事をする奴だ!」と怒りに震えた人もいただろう。私もそうだ。

そして、それから2カ月近くたった9月には、今度は、全盲の女子生徒がJR川崎駅で通学中に脚をけられて負傷した、という何ともいたたまれない事件が起きた。このニュースを聞いた時、「またか!」と怒りを覚えると同時に、「本当にそんな事をする奴がいるのか?」と一瞬唖然としてしまった。これで、「モラルハザード」をテーマにすることが決定的になった。加えて、昨年世界文化遺産に登録された富士山、その富士山の登山口のひとつ須走口で、登山者が捨てたとみられる多数の汚物が見つかった、というニュースを知り、もう書かずにはいられなくなった。また、これら以外にも次から次へと、アングリとさせられる出来事が報じられていて、日本人のモラルハザードもここまで来たか、と正直呆れ果てている。

“盲導犬の刺傷事件”と“女子生徒が蹴られた事件”は、どちらも他人の理解と介助が必要な人を狙った、許し難い犯行だ。我々は、社会に出る準備として、家庭生活や学校の教育現場を通して社会のルールを学び、道徳や倫理感を身に付け育って行く。そしてそういった中から、小さなものやか弱いものへ手を差し伸べる愛情も育んできた筈である。育まれてきたからこそ、人間ばかりでなくどんな動物の赤ちゃんにも「可愛らしい!」という感情を抱くのであり、ペットや植物などを愛でることが出来るのである。  

しかし、この二つの事件は、そんな愛情を根底から否定している様に見える。今回のこの犯人達は、四方山話の第581話「怒りをコントロールできますか?」で書いたように、多分怒りをコントロールできずに犯行に及んだのだろう、と想像はできる。しかし、例えそうであったとしても、周りを信頼しきって生活している、無防備な人達に怒りのはけ口を向けては、絶対にダメだ。そうでなくては、日本の社会から、先人が育んできた“思いやり”という美徳が無くなってしまう。

もう一つの“富士登山口の汚物問題”も、情けない行為だ。恐らく、汚物を捨てて行った人達は、ペットの飼い主が散歩に連れ出した時に彼らの糞を処理しないのと同じ程度にしか思っていないのだろう。また、自分の住まいや車は驚くほどきれいにしているのに、そうでない場所を汚す事には何の抵抗も無いのだろう。先の2件の事件の様に人や犬を傷つけた訳ではないから実は些細なことなのだが、些細なことだからこそ、モラルの基本として気を付けなければいけないのだ。

ところが、そういったモラルの基本が、率先して範を示すべき人達にも欠けている現実を見せられて、溜息の日々が続いている。まずは、議員の先生方だ。その余りの情けなさに、「議員先生がこの体たらくでは仕方ないな」と諦め節も言いたくなってしまう。記者会見で子供の様に泣き叫んだ野々村元議員の有り得ない姿を忘れかけていた矢先、今度は、同じ兵庫県会議員がインタビューを求める記者から逃げ惑う姿が報道され、庶民を再び呆れさせている。更に、政務活動費の支給額を月額50万円から1割減の45万円にすることでお茶を濁した兵庫県議会にも、ほとほと呆れてしまった。どこの世界に、毎月の経費を前払いする民間企業があるだろうか。民間企業の常識は、経費は請求書が来て初めて支払う、だ。こんな当たり前のことが議員先生達の間では通らないのだから、嫌になってしまう。モラルハザードもいいとこだ。

そして決定的なのが、テレビや新聞の報道姿勢だ。テレビのやらせ問題、品位の無い番組、真偽を確認しないで報道する特ダネ至上主義、こういったものがはびこっていて、報道のモラルも地に落ちたものである。特に、朝日新聞を取り巻く一連のごたごたはヒドイ。担当記者の暴走、という捉え方もあるようだが、池上彰氏のコラム掲載を拒否した時点でアウトだ。言論の自由を標榜する報道機関としては、自社の批判記事を敢えて載せてこそ真価を発揮できたのだが、真逆の事をしたのは頂けない。体制に組みしない見方・捉え方を知る、という事で長年購読してきたのだが…。

こうしてみると、日本人のモラルハザードは根が深い。何故そうなってしまったのだろうか。私には、勝者・敗者の判断基準に原因の一端があるように思えてならない。今の日本人は、これまでの結果だけを重視する価値観から、結果に至る過程も重要視する価値観に変えないと、モラルの大切さに気が付かないのかもしれない。

【文責:知取気亭主人】

  
キクイモ
 

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