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知取気亭主人の四方山話
 

『三原色』

 

2014年10月15日

今年のノーベル賞が決まった。その中で、嬉しいニュースが二つある。一つは、「平和賞」を、子供たちの未来ために活動している二人のアジア人が受賞したことだ。一人は、武装集団に襲われながらも女性の教育権を訴え続けている、パキスタン人の17歳の少女、マララ・ユスフザイさんだ。史上最年少に加え、未成年者の受賞は初めてだというが、彼女の真っ直ぐな思いと強い意志、そして類まれなその行動力には、本当に頭が下がる。女性蔑視ともとれる低俗な野次を飛ばす日本の議員の先生方に、彼女の爪の垢でも煎じて飲ませたい位だ。

「平和賞」のもう一人は、児童労働に反対する世界的な運動をしているインド人のカイラシュ・サティアルティ氏(60)だ。新聞に掲載されたマララさんの受賞決定スピーチに依れば、マララさんはイスラム教の、カイラシュ氏はヒンドゥー教の敬虔な信者だという。どちらの宗教にも過激的な思想を持つ集団がいて、武力闘争を繰り返している。そんな中で、二人は、「本来の宗教はもっと慈愛に満ちたものだ」ということを世界にアピールしてくれた。世界が何となくキナ臭くなって来ている時だけに、二人の受賞が平和への光明となってくれればいいのだが…。

さて、もう一つの嬉しいニュースは、言わずと知れた、三人の日本人の「物理学賞」受賞だ。日本人のノーベル賞受賞は、一昨年の山中伸弥京都大学教授以来、今回の三人で22人となった。ここで改めて、三人の名前を確認しておこう。名城大学教授の赤崎勇氏(85歳)と名古屋大大学院教授天野浩氏(54歳)、そしてカリフォルニア大サンタバーバラ校教授中村修二氏(60歳)の三人だ。受賞理由は、知っての通り、青色発光ダイオード(LED)の開発・実用化が評価されてのことだ。既に実用化されていた赤色と緑色に加え、実用化が難しいとされていた青色が実用化されたことで、光の三原色が揃い、フルカラーの薄型テレビやコンピュータのカラーディスプレイ等が実用化された、というのも皆さんご存知の事だと思う。今回の四方山話は、その三原色について学び直してみたい。

三原色には、“光”と“色”があるのを覚えておいでだろう。多分中学生頃に習った、と記憶している。今回受賞理由となった青色LEDが一翼を担うのは、光の三原色の方だ。繰り返しになるが、確認しておくと、光の三原色は、赤(Red)と緑(Green)、そして青(Blue)だ。この三原色の強度を変えて混ぜ合わせると、ほぼ全ての色を再現できるという。その最後の関門となっていた青色LEDを世界に先駆けて実用化したのだから、三人の功績は極めて大きい。また光の場合には、三原色を全て混ぜると白色光になる(実際には、スペクトル分光で均一にすべての波長が揃っているときに白色光になる)のだが、これで蛍光灯に替わるLEDの照明器具が実用化される事になる。

一方、色(色材)の三原色は、遥か昔に、黄色(Yellow)と赤(Red)と青(Blue)と習った。ところが、調べてみると、これはどうやら間違いで、正しくは黄色(Yellow)と赤紫(Magenta)、そして空色(Cyan)らしい。三色とも、インクジェットプリンターのカートリッジでお馴染みの名前だ。これで、何となく身近な話になって来た。

元々、色材の色とは、白色光が色材に当たった時に、反射または透過された光の色のことを指し、白色光に含まれている他の色は吸収されてしまうもので、光と極めて密接な関係にある。そこで、光の三原色を二色ずつ混ぜ合わせてみる(下の図1参照)。まず、赤と緑を混ぜ合わせると、色材の三原色のひとつ“黄色”になる。赤と青では“赤紫”に、青と緑では“空色”にと、何れも色材の三原色になるのである。つまり、三原色が混じる白色光の当たった“黄色”の色材は、赤と緑の光を反射し、青の光を吸収していることになる。同じように、“赤紫”の色材は、赤と青を反射し、もう一つの緑を吸収している。また、“空色”は、青と緑を反射していて、赤色を吸収していることになる。

では、今度は出来上がった色材の三原色を混ぜてみる(下の図2参照)。黄色と赤紫を混ぜると“赤”になり、黄色と空色では“緑”に、そして空色と赤紫を混ぜると“青”になる。つまり、光の三原色に戻るのだ。そして色材の三原色全てが混ざると、光の三原色全てを吸収することになって、黒になる訳である。同じ三原色でも、三原色を混ぜ合わせると“光”は白に、“色材”は黒になるとは、何とも面白いものである。光の場合を「加法混色」、色材の場合を「減法混色」と言うらしいが、その混色関係を次の図1、2に示した。

こうしてみると、光と色材の関係が分かり易い。我々がお世話になっているインクジェットプリンターのカートリッジは、色材の方だが、一般的に、最低でも三原色に黒を加えた4色のインクが装着されている。これは、原理的には理想的な反射特性を持った原色であれば3色の混合で黒になる筈なのだが、実際のインクは理想的な反射特性にはなっていないため、3色を混ぜ合わせても黒にできず、特別に黒インクを追加し、合計4色で実用化されているのだという。単純に色と言っても、なかなか難しいものである。光の場合は、三原色の強度を変えて混ぜ合わせることができないと、全ての色を表現できないというから、更に難しい。

そう言った難しい難問の数々を見事クリヤーしたのだから、三人の功績は見事と言うしかない。やはり世界に誇る偉業だ。

ところで、色のもう少し詳しい解説を知りたい方には、ウェブサイトの「光と絵の具の三原色(色とは何か)」(http://fnorio.com/0074trichromatism1/trichromatism1.html)がお勧めだ。たまには、受験生気分を思い返すのも、刺激になっていいかも知れない。

【文責:知取気亭主人】

  
 

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