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知取気亭主人の四方山話
 

『カニが食べられなくなる?』

 

2014年12月03日

11月も終わり、いよいよ本格的な冬の到来が間近となって来た。ここ金沢では、今週初めまで平年より高い気温の日が続いていたが、2日になって今冬一番の寒波が押し寄せ、とうとう初雪を観測した。3日の今日も荒れ模様だ。金沢の台所と称される近江町市場の店頭に並ぶ食材も、すっかり冬の様相だ。私好みで申し訳ないが、“ズワイガニ”と白子の美味しい“白子ダラ”(マダラの雄)が店頭に並ぶようになると、いやが上にも冬の到来を実感させられる。中でもズワイガニ(地元ではカノウガニと呼び、ブランド化に躍起になっている)の赤い甲羅が並ぶと市場は俄然華やかになり、これから来春まで、このカニ目当てに訪れる観光客も多い。しかし、冬の味覚はカニばかりではない。他にも新鮮な魚介類が店頭に並び、今の季節、兎に角日本海の食材が美味しい。

寒ブリ、タラ、ズワイガニ、カキ、ヤリイカ、甘エビ等々、食卓に並んでいる姿を想像しただけで、食い意地が張っている事もあってか、堪らず生唾が出て来てしまう。どれもこれも、北陸地方の今の宴席には欠かせない物ばかりだ。勿論、酒の肴にも相性バッチリ、私も大好きだ。これから最盛期となる忘年会でも、多分食材のメインキャストになっている筈で、多くの人が舌鼓を打つに違いない。また、今が旬のこれらの食材は、忘年会などの外食ばかりでなく、家庭で作る正月のおせち料理として重箱を飾る物も多い。北陸に住む者ばかりでなく、多くの日本人にとって、結構馴染み深い食材なのだ。

その馴染み深いこれらの魚介類は、「海の幸」と一言で言い表されるように、“海あってこそ”の生物ばかりである。と言うか、これらの食材に限らず全ての海の生物は、海の環境に即して生息している訳で、環境をある程度力ずくで変えられたり、季節に合わせて衣服を取り替えたりできる人間とは、環境への依存度や急激な変化への適応能力が決定的に違う。海の生物は、急激な環境変化への適応が苦手、と言うよりか基本的には出来ないと言うべきで、環境が大きく変わると、生息できなくなってしまう可能性すらある。それ程環境に依存しているのだが、その海の環境が暫く前から何かおかしい。

ここ数年、地球温暖化の影響で海水温が上昇し採れる魚介類の種類が少しずつ変わってきた、との報告が増えてきた。例えば、この四方山話でも取り上げたことがあるが(第486話「危ない生物北上中」)、ヒョウモンダコの様に、日本近海では、これまで見られなかった南洋に生息する危険な生き物が捕獲されるようになったという。また、サンマなどの漁場が北の方に移動してしまった、といった報道もされるようになって来ている。これらは何れも、これまでに何度も取り上げている海水温の上昇が原因だ。日本の近海で台風が発生する様になって来たのも、同じ原因である。しかし、そういった海水温の上昇ばかりに目が行きがちだが、それ以外の“海の異変”も少しずつだが着実に進行している、との報告が先日気象庁から発表された。海洋の酸性化が進んでいる、というものだ。

海洋の表面海水は、一般的に弱アルカリ(pH≒8.1)を示しているという。指標となるpH(水素イオン濃度指数)は「水素イオン(H+)濃度の逆数の対数」として定義されているから、水素イオン濃度が上昇すれば、pHは逆に低下することになる。さて、人間活動で大量に排出される二酸化炭素(CO2)は、勿論地表の植物でも吸収されているが、海洋も吸収していて、溶け込んだ二酸化炭素と海水とが化学反応を起こし、海水の水素イオン濃度を上昇させているのだという。頭が痛くなるが、その化学式は以下の通りだ。

@ 二酸化炭素が海水に溶けると、【 CO2+H2O → H2CO3 】と炭酸になる。
 A その炭酸は分解されて、【 H2CO3 → H++HCO3- 】の炭酸水素イオンや
 B 【 H2CO3 → 2H++CO32- 】の炭酸イオンとの間で平衡状態になる。
 
結果、水素イオン(H+)が発生することになり、pHを下げる、つまり酸性化が進むことに繋がる訳である。気象庁のホームページに依れば、気候変動による政府間パネル(IPCC、2013)は、「1750年から現代までに全海洋平均でpHが0.1低下しており、今世紀末までにさらに0.065から0.31低下する」と予測しているという。

では、海洋の酸性化が進むとどんな影響があるのだろうか。第一は、「海水の化学的性質が変化し二酸化炭素を吸収する能力が低下する」と指摘されていて、地球温暖化の加速が懸念されることだ。

第二は、海洋資源に大打撃を与える可能性が指摘されていて、酸性化が進むと、動・植物プランクトン、サンゴ、貝類、甲殻類など、様々な海洋生物に深刻な影響を及ぼし、海洋の生態系を激変させる恐れがあることだ。例えば、カニやウニなど様々な海の生物は、海水中のカルシウムイオン(Ca2+)と炭酸イオン(CO32-)から、水に溶けにくい炭酸カルシウムイオン(Ca CO3)の骨格や殻を形成しているのだが、海水の酸性化が進むと、炭酸イオンの濃度が低下し、その形成が阻害されるのだという。形成が阻害されれば、当然絶滅することになる。今が旬と書いたズワイガニも食べられなくなるのだ。勿論、ウニ丼も海鮮丼も危ない。

孫子の代までこれらの食材を今と同じ様に楽しむためには、そう、二酸化炭素を始めとする温暖化ガスの排出をこれ以上増やしてはいけない。今の便利を少し我慢して美味しい魚介類を楽しむ生活を持続させるか、便利さと引き換えに魚介類も無く厳しい気候の中での暮らしを受け入れるか、それはあなた次第である。

【文責:知取気亭主人】】

  
那谷寺の紅葉
 

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