2014年12月10日
12月の声を聞くと同時に日本列島に南下してきた寒波が、各地に時ならぬ大雪を降らせ、準備不足の地域を慌てさせている。ここ金沢でも、それまでは暖冬の様相だったのに、水曜日(3日)頃から急に荒れ始め、金曜日の夜から本格的な雪になった。「エルニーニョが発生したから今年は暖冬だ」という巷の噂を信じたのか、スタッドレスタイヤに交換しないままのドライバーも結構いたらしく、金曜日の夕方という事も加わって、金沢市内の幹線道路はノロノロ運転の車が溢れどこもかしこも大渋滞となった。そして、日曜日(7日)の朝には、「12月としては12年振りに20センチを超える積雪となった」と報じられ、市内各所に除雪車が出動し、朝早くからエンジン音を響かせていた。動けなくなった車も結構いたらしい。雪に慣れている筈の金沢でもこの有様なのだから、滅多に雪が降らない四国の徳島は、さぞかし往生している事だと思う。
四国山地の山間部は、温暖なイメージと違い、冬は意外と寒く、しかも結構雪が降ることを、地元出身ではないけれど昔の体験で知っていた。1975年から1976年に掛けての約1年間、高知県を中心に仕事で滞在していたことがあるからだ。その時、四国にもスキー場(愛媛県と高知県の県境付近だったと記憶している)があることを知ったし、吉野川の上流では流れる川面が凍っているのを見て、南国とは程遠い、想像を超える寒さに大変驚いたものだ。四国でも寒い日には路面がツルツルに凍ることを、その時初めて知った。
しかし、寒さは尋常ではなかったものの、雪で集落が孤立するなどということは、そのシーズンは一度も無かった。また、それ以降もつい先日まで、四国で大雪による被害が出たなどという事は、聞いた記憶が無い。ところが、今回の大雪では、徳島県の西部山間地に大きな被害をもたらし、孤立する集落が相次いでいる。孤立している原因は、時ならぬ大雪と生活道路を塞ぐ大量の倒木だ。
NHKラジオから流れて来た専門家の話に依れば、今回西日本で大雪となっている雪は、零度程度で雪となっているもので、温度の低い雪よりくっ付き易いのだという。そのため樹木の枝や葉っぱにより多くくっ付き、倒木を引き起こしているのだという。その上、毎年雪との戦いを強いられる雪国と違い、四国の樹木は、演歌の歌詞ではないが、風雪、中でも雪に耐えた経験が乏しかったのだろう。毎年の様に雪を経験していれば、弱い木は倒れ、強い木だけが生き残っていたことが考えられ、テレビで放映されているあれ程大量の倒木は無かったと思う。更に、ここ金沢の雪もそうだった様に、水分を多く含んだ重い雪だった事も、倒木を助長しているのだろう。毎年今回の徳島以上の雪を経験している金沢でさえも、樹齢100年を超すとみられる兼六園の赤松の大木が、今回の雪で倒れた。樹勢が元々衰えていた可能性もあるが、今回の雪が如何に重いかを表す事象ではないだろうか。では、雪の重さは一体どれ位あるのだろう。
雪国で道路構造物などを構築する時には、軽そうに見える雪も沢山積もると無視できないため、積雪荷重を考慮しなければならない。社団法人日本道路協会から「道路防雪便覧」という専門書が出版されていて、多くの場合、技術者はこれを参考に設計している。それに依れば、最大積雪深4メートルまでであれば、雪の平均単位体積重量は0.35tf/㎥としてよい、としている。つまり、水の0.35倍の重さということになる。大したことない様に思うかもしれないが、水を入れたバケツの重さが持つ手にずしりと来る様に、雪と雖も沢山積もると、これが結構重い。そして、頑丈な構造物を倒してしまうことさえある。
“雪の重み”ということで思い起こすのが、「56豪雪(昭和55年12月から翌56年2月に掛けての豪雪)」の時に頻発した鉄塔被害だ。「56豪雪」は北陸地方から東北地方に掛けて大雪をもたらしたが、東北地方を中心に送電鉄塔が相次いで倒壊し、長期の停電を余儀なくさせた。送電線への着雪と強風が倒壊の原因だと言われていて、地震や地滑りなどではなく、一見すると軽そうな雪の影響で、あの頑丈そうな鉄塔が倒壊するとは衝撃であった。
今回の倒木も、NHKラジオに出演した専門家の見立てに依れば、樹木への着雪が主な原因だという。とかく雪の積雪量ばかりに目がゆきがちだが、着雪がこれ程猛威を振るうとは、改めて雪の恐ろしさを思い知らされた気がする。その着雪と倒木による影響で、鉄塔ではないが今回も電柱が倒れ、停電が続いている。そして、その事で思わぬ落とし穴が浮き彫りになっている。IP電話の普及による連絡網の脆弱性だ。
固定電話や携帯電話と違い、IP電話は通話料金が安いのが魅力だが、停電すると使えない。今孤立している集落は、殆どがIP電話だといい、停電の今は通信網が遮断された格好だ。孤立した集落では、防災の連絡網も寸断されていて、住民の安否の確認さえできないでいた。便利さの裏に潜む思わぬ落とし穴だ。
我が社でもIP電話を導入しているが、緊急時への対応として旧来の固定電話回線も残してある。特に、災害時に孤立する可能性が高い地域の防災連絡網は、万が一を考えて輻輳化しておく事が重要だ。今回の徳島県西部山間地の被災ニュースを聞いていて、そう感じた次第である。
【文責:知取気亭主人】】
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7日、雪に埋もれた車(積雪深は30cm程か?) |
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