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知取気亭主人の四方山話
 

『復興災害』

 

2015年3月11日

未曾有の被害をもたらした東日本大震災の鎮魂の日が、また今年もやって来た。早いもので、今日でちょうど丸4年になる。いまだに福島原発の汚染水問題がメディアを賑わしているのに、津波の凄まじい破壊力に日本中がテレビの前で立ちすくんだあの日は、もう4年も前になるのだ。「光陰矢のごとし」とはよく言ったものである。これまでに「被災自治体、被災集落が完全復興を成し遂げた」との喜ばしいニュースがひとつでも報道されれば、“矢のようなスピード”を感じることはないのだろう。しかし、残念ながらそのような報道は一向に聞こえてこない。この4年という月日の過ぎ行くスピードに、復興事業がついて行けていないのが実情だ。復興事業の遅れは、避難生活を送っている人がいまだに22万9千人にも上ることからもうかがい知れる。

復興庁発表資料に依れば、2011年(平成23年)3月11日の発災からほぼ1年経った2012年3月8日時点での避難者数は、344,290人であった。地方の中核都市クラスの人口にも匹敵する、ものすごい人数である。その集計時点から約3年経った今年(2015年)の2月12日現在では、当時の凡そ3分の1に当たる約11万5千人が避難生活から解放された一方で、いまだに約22万9千人もの人たちが避難生活を余儀なくされている。この膨大な人数は、石川県の中で2番目に人口の多い小松市の凡そ2倍に相当し、「減った」と胸を張るにはまだまだ多い。

この多さ故に、避難先は日本全国にわたり、県内避難も含めて全国47都道府県の1,162もの市区町村に散らばっているのは、必然なのだろう。では、県内と県外、避難先としてはどちらが多いのだろうか。勿論、故郷での復興を期待しているからなのだろう、県内避難者が圧倒的に多い。ただ、慣れ親しんだ故郷を離れ県外に避難している人もたくさんいる。“福島県から他県へ”が47,219人、“宮城県から”が7,198人、“岩手県から”が1,589人と、避難者総数の約4分の1に当たる合計56,006人が県外避難者だ。そして、何と言っても原発事故の影響を受けている福島県が突出して多いのは、無理からぬことであろう。

避難生活者数の現状を紹介したが、では死者・行方不明者はどうなっているのだろうか。4年経った現時点での最新データによる死者・行方不明者数は、次の通りだ。総務省消防庁に依れば、2014年(平成26年)9月1日現在、死者の数は19,074人、行方不明の方はいまだに2,633人もいるという。心が痛む。

死者の中には震災関連死も含まれていて、復興庁が平成26年12月に発表した「東日本大震災における震災関連死の死者数(平成26年9月30日現在)」では、1都9県で3,194人にも上るという。そのうち、発災から3年以内に亡くなったのが3,193人となっていて、震災関連死のほぼ全ての方は、発災から3年以内に亡くなっている。その中には、復興という光が見え、近い将来に希望が持てていれば、亡くならずに済んだ方もいたのではないかと思う。そう思うと、なお一層心が痛む。また、最近読んだ「復興<災害> ―阪神・淡路大震災と東日本大震災」(塩崎賢明著、岩波新書)に依れば、関連死の中には誰にも看取られることなく亡くなった孤独死もいるというが、何ともいたたまれない話だ。

塩崎に依れば、東日本大震災で設置された応急仮設住宅で発見された孤独死は、2014年4月末時点で122人だという。これほどの方が、地震で被害を受け、そして誰に看取られることなく亡くなっている。20年前に発災した阪神・淡路大震災では、仮設住宅と復興公営住宅における孤独死が2013年12月までの19年間で1,057人に上るというが、果たして、この教訓は生かされたのだろうか。

このように、大震災後の復興は思うに任せないでいる。折しも、今年は阪神・淡路大震災から20年の節目の年である。我々日本人は、20年前のあの大震災から多くの事を学んだはずなのに、今回の東日本大震災に生かされているのは意外に少ないように見える。それどころか、塩崎は、復興という名の下で行われる様々な取組が、被災地の現実を好転させるどころか悪化させている場合が多々ある、と指摘している。誰もが一時も早い復興を願っているのに、そして計画した復興が実現されれば再び元の生活が戻ってくると多くの被災者が信じていたのに、現実はそうなっていない。それは何故なのか。問題はどこにあるのか。二つの大震災を通して様々な問題を提起し、考えさせてくれるのが、先に紹介した、塩崎による「復興<災害> ―阪神・淡路大震災と東日本大震災」である。

「復興災害」とは聞きなれない言葉だが、これは著者の造語らしい。2006年に初めて使ったとある。本書の帯には「復興という名の災害が被災者を追いつめる」と書かれているが、本書に書かれている様々な問題・課題は、これからなお10年以上は掛かると思われる東日本大震災の復興にとって、常に考えていかなければならない事ばかりである。

そういう意味では、復興に携わる政治家や官僚の方々には是非読んでもらいたい1冊である。また、南海トラフや首都圏直下地震など、巨大地震の被害が想定されている地方自治体の方々にも、事前の準備としてお薦めの本である。

最後になりましたが、犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々に一日も早く安寧した生活が戻ることを願ってやみません。        【合掌】

【文責:知取気亭主人】

  

 
復興〈災害〉―阪神・淡路大震災と東日本大震災

【著者】塩崎 賢明
【出版社】 岩波書店
【発行年月】 2014/12/20
【ISBN】 978-4004315186 (4004315182)
【頁】 新書: 240ページ
【税込価格】 842円
 

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