2015年8月19日
お盆の帰省で自然の神秘を再認識させてもらった。熱中症が心配される灼熱の今の季節とは少し違和感があるものの、見方を変えると、旬と言えば旬の話題でもある。一大産地の静岡で食べ頃の旬を迎えるのはまだまだ先のことだが、沖縄ではそろそろ出回る頃らしい。ただ私の中では、冬のイメージが強い。さて、何の話題かお分かりだろうか。一般的には「炬燵に…」のイメージが定着している感の強い、ミカンを含む柑橘類の話題である。
文部省唱歌「鯉のぼり」の中で、「♪甍の波と雲の波 重なる波の中空を 橘かおる朝風に…♪」と詠われている「橘(たちばな)」についての記事が、帰省先の地元新聞(静岡新聞)に載った。「柑橘類」という表記にまで使われているほどなのに、「橘(たちばな)」と言われても、今の若い人は殆ど知らないだろう。近ごろでは耳にすることさえ滅多に無いし、ましてや柚子ぐらいしか栽培されていない北陸の金沢辺りでは、店先に出回ることもない。ところがこの橘、日本にある約1200種類ものミカン科植物の中で、沖縄のシークワーサーとともに、貴重な日本の固有種だという。約1200種類もあってたったの2種類しか日本固有種でないというのも驚きだが、絶滅危惧種に指定されているというから、果物でありながらその人気の無さが浮き彫りになる。人気が無いのは、実が3センチほどとキンカンを少し大きくした位しかないのと、苦みが強いためだという。そう聞けば、確かに、甘い物が好まれる現代人には口に合いそうもない。
そんな記事を読んでいたこともあって、厄介になった家内の実家の玄関横に、米粒ほどの白い花が咲いている柑橘類の小さな木に気が付いた。「してやったり、もしやこれが橘か?」と義理の妹に意気込んで聞くと、するりとかわすかの様に、「近所のおばさんにもらったもので良く分からない」と言う。だとすればくれた本人に直接聞くしかないと、前の畑にいたおばさんに聞いたところ、ミニチュアのミカンで、多分橘とは違うとの回答だ。実も小さくて、キンカンほども無いという。棘だけは立派なものが付いていたのだが、きっと盆栽用に品種改良されたものなどだろう。
「早速絶滅危惧種とご対面か」と心躍ったのだが、そうは問屋が卸してくれない。ただ、少々がっかりはしたものの、四方山話の題材に苦慮していたこともあって、ここで簡単に諦めるわけにはいかない。橘ではないにしろ、今花を付けているという事はひょっとしたらキンカンも花の時期かもしれないと、少し離れたところに植えられているキンカンの木を見に行った。すると、辺り一面に咲き誇っているという訳にはいかなかったが、白い可愛らしい花がチラホラと見える。先程見た花よりも僅かだが、明らかに大きい。これから想像しても、確かに、キンカンの方が先程の木より大きな実を付けそうだ。
「ひょっとしてもっと小さな花があるのでは」と探していたら、花の横で、小指の先ほどの実を見つけた。こんな時期に突然変異ではないかと調べてみると、キンカンの花は春、夏、秋の3期に咲く性質を持っていて、夏に開花したものが一番結実しやすいのだという。開花期間は4~5日で、最初に咲いた花ほど、結実すれば大きな実に育つらしい。道理で一斉開花していなかった筈だし、この時季に実がなっていても不思議はない。ネットで紹介されている写真にも花と実が一緒に写っているものもあって、目の錯覚でも、このところの暑さによる突然変異でもなかった。
そんなキンカンの実を見ていたら、義母に生前良く頂いたアマナツの木があるのを思い出した。“ナツ”が付くのだからもう既に実を付けているかもしれない、と勝手な想像をしながら見に行くと、案の定テニスボール大の青い実が、幾つも実っている。植物は、何と正直なことか。しかしこうしてみると、同じ柑橘類でも、花や実を付ける時期、花や実の大きさがこれだけ違う。元をただせば同じ科なのに、である。これこそ長い年月かけて築き上げた、自然の神秘なのだろう。ただただ感心するばかりである。
そこにいくと、にわかに騒がしくなってきたオリンピックのエンブレムに端を発した問題に関しては、同じ「元をただせば…」でもねぇ…。
【文責:知取気亭主人】
アマナツの花(開花時期は春)
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