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知取気亭主人の四方山話
 

『古代へのロマン』

 

2017年6月21日

ヒトは、見たことも経験したこともない遥か遠い昔に、憧れや畏敬の念を抱くことが多い。ロマンとも言われる感情だ。ギリシア神話に登場する伝説の都市トロイアが実在すると考え、実際にそれを発掘によって証明したドイツの考古学者ハインリッヒ・シュリーマンなどは、ロマンを抱き続けた典型だろう。

こうした新たな発掘や発見によってその時代への思い入れはより一層強くなり、少しずつではあるが、空想の世界だった遠い昔の世界をリアルに再現できるようになってくる。そして、また新たな未知の部分に光が当たると、ロマンは一層か掻き立てられることになる。更には、「他にも同じような歴史的価値のある大発見ができるのではないか」という期待感も掻き立てられる。幻の都市と言われた楼蘭の発見もそうだし、近くの農民によって発見されたという秦の始皇帝陵なども、中国中にそんな期待感を広めてくれたのではないだろうか。これこそがロマンだ、と言ってもいい。

日本でも、古くは登呂遺跡がそうだったし、その後の三内丸山遺跡の発掘も、大いにロマンを掻きたててくれた。また、遺跡そのものではないが、高松塚古墳の壁に描かれた色鮮やかな飛鳥美人や玄武は、現代に住む我々を、千年余の時空を超えて当時の飛鳥時代へと誘ってくれた。その後に発見されたキトラ古墳の壁画も、同じようにロマンあっての発見だったと言っていい。ただ、歴史への興味があるか無いかが、こうした歴史的発見にロマンを掻き立てられるか否かに係わっている。

そういう意味で言うと、男の子が恐竜に興味を抱くのも同じなのかもしれない。男の子特有の“強いモノへの憧れ”があることに加え、その強さや大きさが半端ではないこと、更には今の地球上では生きている彼らを見ることができないことが、ロマンを掻き立てられる最大の理由だろう。また、見られないからこそ、「恐竜が闊歩していた時代の地球はこんな感じだったのではないか?」と自由に空想を働かせることができるのも、魅力の一つだ。

そうした気の遠くなる様な遥か昔に大繁栄を謳歌した、恐竜へのロマンを掻き立ててくれたのは、これまで数多く発掘されてきた骨格の化石や、足跡の化石、あるいは卵の化石などだ。これらによって、草食恐竜と肉食恐竜がいた事、今見られる陸上の最大動物であるアフリカゾウやキリン、あるいは地球上の最大生物であるシロナガスクジラを遥かに凌ぐ巨大恐竜がいた事などが、分かってきた。そして、化石から得られた新たな知見を積み重ねることによって、繭から生糸を紡ぐように、少しずつ恐竜の世界が明らかになり始めている。

と言っても、骨格以外はまだまだ不明な点が多く、例えば皮膚の色一つを取ってみても、分かっているわけではない。図鑑に書かれている恐竜の肌は、「こうだったのではないか?」という空想の色だという。それにしてもリアルである。肌の色も皮膚の状況も、図鑑に書かれているのを素直に受け入れられるのは、誰も実際に生きている恐竜を見たことがないからだ。ところが、ひょっとしたら皮膚の色が分かるかもしれない、という“奇跡の化石”が発見されていた。尤も色が分かるというのは可能性の話で、 “奇跡の化石”と呼ばれる所以は、皮膚の様子が当時のまま化石化されていたからだ。まるでついこの間まで生きていたような、すばらしく保存状態の良い化石が発見されたのだ。「ナショナル ジオグラフィック」の2017年6月号に、恐竜ファン垂涎の、その記事が掲載されている。

「鎧をまとった 奇跡の恐竜化石」のタイトルのその記事の見開きには、まるで映画から飛び出してきたような恐竜化石の写真が、でかでかと載っている。お見せできないのが残念だが、少し横を向いたその顔は、ワニそっくりだ。目の位置もハッキリと分かる。首や肩の突起は荒々しいし、背中を覆う装甲はワニそのものだ。足の裏に残った鱗は、何枚あるか数えられるほどハッキリしていて、現在の鳥類や大型のトカゲのものに良く似ているという。

記事によれば、突起や背中を覆う装甲は、たいてい腐敗の初期段階でバラバラになってしまうものらしい。ところがこの化石には見事にそれが残されている。また、もともとの体の色を示す痕跡が見つけられるかもしれない、との期待もかけられている。B4サイズの見開き一杯に印刷された写真を見れば、その可能性にも納得だ。

この化石は、草食恐竜の鎧竜に分類されるノドサウルス類の新種だという。全長は5.5メートル、体重は1.3トンあったとみられている。無傷で発掘できたのは、鼻先から尻までの前半分だけらしいが、それだけでも世紀の大発見だ。発掘されたのは、もう6年も前になる2011年だったという。カナダ西部にあるオイルサンドを採掘するミレニアム鉱山で、オイルサンドの層を目指して掘り続けていた時に、周りの岩石と固さが違うことに気が付き、偶然発見されたらしい。気が付かずに掘り進められなくて本当に良かった。人類の宝を失うところだった。

記事には、掘り出された岩塊から化石を取り出す作業は間もなく終わるそうだが、化石の研究にはあと何年もかかるだろう、と書かれている。次はどんな驚きの発表があるのか、楽しみに待つことにしよう。

ところで、返す返すも写真を紹介できないのが残念だ。ただ、まだ書店にはおいてあると思う。そこで、恐竜ファンのお子さんがいる方は、是非本雑誌をプレゼントしてやってほしい。お父さんの株が一挙に倍増すること請け合いである。

【文責:知取気亭主人】

  

 


『NATIONAL GEOGRAPHIC
(ナショナル ジオグラフィック)
日本版 2017年 6月号』


【出版社】 日経ナショナル ジオグラフィック社
【発売日】 2017/5/30
【ASIN】 B06XZRHFF9
【ページ】 140ページ
【本体価格】 1010円(税込)

 

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