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知取気亭主人の四方山話
 

『桐の箱』

 

2018年10月17日

13日の土曜日、長女の嫁ぎ先から大きな荷物が届いた。ただ、“届いた”とは書いたが、私は丁度留守にしていて、直接受け取った時の感動を体験した訳ではない。家に帰ると、上がり框に見覚えのある大きさの段ボール箱が置いてある。予想しながらも、「何だ?」と中を覗くと、紙で一つ一つ丁寧に包まれたたくさんのリンゴが見える。嫁ぎ先、安曇野からの贈り物だ。申し訳ない事に、嫁いでから毎年この季節になると送ってくれる。ただ、申し訳ないとは思いつつも、もうちゃっかりと期待をするようになってしまっている。我ながら浅ましいものだ、と恥じてはいるのだが…。今回もそうしたいつもの贈り物、と思っていた。

居間に入ると、「お帰り」の声に続いて、家内の嬉しそうな、そして高揚した調子の声が響いてきた。「○○さんから凄いものが届いたよ!」と言う。「玄関にリンゴがあったけど」と答えると、「それだけじゃなく、これもそう」と言って、産院で撮った孫娘の1カ月健診の時の大きな写真と、出産から凡そ2か月間の成長を記録したアルバムを見せてくれた。娘と孫が嫁ぎ先に帰る前にも見てはいたのだが、何回見ても可愛い。すっかり目じりを下げて眺めていると、他に立派なタオルケットも贈ってくれたという。「まだあるの?」と言いながら、置いてあるという仏壇の前に行ってみた。

「内祝い」と書かれた熨斗が貼られた厚紙の下に、大きな桐の箱が見える。桐の箱入りの贈り物はこれまでにももらった事はあるが、こんなに大きな箱は初めてだ。おおよそ縦50㌢×横38㌢×厚さ16㌢もある。箱の表には、墨で「今治 来島海峡波文様 紋織タオルケット」と立派な文字が書かれている。見るからに高級そうだ。「そうか、お宮参りの内祝いだ」と気が付いた。「家内はタオルケットと言ったが、桐の箱に入っているタオルケットとはどんなものだろう?」と、興味津々で蓋を開けてみた。

暖かそうな色合いのタオルケットが二つ入っている。しかし、日常使う寝具が桐の箱入りとは初めてだ。桐の箱に入っている贈り物でもらった記憶があるものと言えば、カステラ、そうめん、羊羹ぐらいしかないから、ビックリ仰天だ。すごい立派なものを支度してくれたものだと感心していると、突然、「しかし、なんで桐の箱に入っていると高級だと思うのだろう」の思いが頭を巡り始めた。時代劇で悪代官に差し出す饅頭の下に忍ばせた小判入りの菓子箱も桐だったかな、と他愛もない事を考えてみても、「でも何でだ?」が直ぐ蘇る。こうなるともう、私の「何でだ?」はおいそれと引っ込まない。そこで、私なりに「桐の箱に入っていると何故高級品だと思うのか」を解明し、自分を納得させることにした。

贈り物を入れる箱と言えば、まず真っ先に思い浮かべるのが紙製のものだ。厚紙や段ボール紙など硬さや厚みも、それに色や色彩なども極めて豊富だ。恐らく、贈り物を入れる箱の殆どがこの紙製だと思う。それ以外としては木箱と金属製の箱もあるが、くだんの桐の箱に代表されるように、お目に掛かることは極めて少ない。金属製の箱は、「柿の種」や「煎餅」などの焼き菓子を大量に販売する時に使われているように思うが、これも紙に比べれば遥かに少ない。いずれにしても、今も残る贈答用の代表的な箱としては、紙、桐、金属の三種類が使われている。そこで、これらを比較してみたい。

まず、桐の特徴、優れた点を列挙してみる。

型崩れしにくく、軽くて持ち運びしやすい。
通気性が良く、カビが生えにくい
柔らかく、衝撃を吸収する
多少の傷やへこみを復元する力が、他の二つに比べて極めて高い
断熱性が高く、比較的火にも強い
金属に比べて温かみがあり、吸音能力も高い

こうして挙げると、他の二種類に比べて確かに優れた点は多い。しかし、これだけでは、「だから高級感を感じる」という説明にはならない。他にも何かある筈である。そこで、桐の木が持つ“いわれ”について調べてみた。すると、どうやら桐の木はめでたい木で、天皇家にも通じるということが分かってきた。

WEB家紋帳(http://kamondb.com/plant/kiri.html)によれば、古代中国では、桐の木は想像上の鳥「鳳凰」が止まるめでたい木とされていたらしい。そのため桐は、日本の皇室でも菊の紋章と並んで副紋として使用され、菊紋に次いで名誉ある紋として尊重されるようになったらしい。古くは、後醍醐天皇が足利尊氏に下賜されたという。それ以来なのか、政権担当者も紋章として使用する様になり、豊臣秀吉の家紋も桐だったらしい。知らなかったが、今では内閣総理大臣・日本国政府・内閣府が政府の紋章として使用しているという。

そうした“いわれ”を聞くと、日本人は古くから桐そのものに畏敬の念を抱いていたことは想像に難くない。そうした古くから受け継がれてきた日本人の感性は、皇室に通じる木で作られた箱を見ただけで高級感を感じ取ってしまうのだ。結果、上記のような紋章のいわれを知らない我々も、桐の箱に入った品は高級品、と刷り込みされてしまっているのだろう。恐らく、売り手の方は、それを上手く利用しているのだ。

以上、この説明であれば何とか納得できると思っているのだが、如何だろうか。最後に、日本人が桐に畏敬の念を抱いている証拠を一つ。500円硬貨の表を見ていただきたい。そこに描かれているのは、そう桐の絵柄である。

【文責:知取気亭主人】

今治 来島海峡波文様 紋織タオルケット

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