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知取気亭主人の四方山話
 

『組織罰』

 

2018年10月31日

先週の日曜日(21日)、台湾北東部で8両編成の特急列車が脱線事故を起こした。報道によれば、18人が死亡、190人がけがをする大惨事となっている。この列車事故は、多数の死傷者を出す大惨事だったこともあるのだが、事故を起こした列車が日本製だったこともあって、地元の台湾ばかりでなく日本でも注目されている。原因に関しては、当初、事故の前に運転士から列車の異常を知らせる連絡があり列車に何らかのトラブルがあった可能性がある、との報道がある一方で、事故当時列車を安全に走行させるための装置が切られていた疑いがある、とも伝えられている。どちらにせよ、真相究明には今暫く時間を要するだろうが、原因を徹底究明して、二度とこのような事故が起こらないようにしなければならない。と同時に、そのための責任の所在を明らかにすることも重要だ。

事故から1週間が過ぎた29日現在、ネット頼りではあるのだが、どうやら、どちらかと言えば安全装置が切られていたことによる可能性が高いらしい。要するに、人為的なミスによる事故の可能性が高い、ということである。仮にそうだとすると、JR福知山線で起きた脱線事故(2005年4月25日)がそうだったように、台湾でも、運転士の自己責任で片づけられてしまう可能性がある。そうなると、経営陣や組織全体の当事者意識はさほど高くならず、必然的に、一時的にせよ高まった危機意識の持続が難しくなってしまう。それでは駄目だ。たとえ人為的ミスだったとしても、安全教育やミスを防ぐ仕組みづくりなど、組織として取り組まなければいけない事がたくさんあるからだ。

そんな思いは13年前のJR福知山線断線事故の際にも強く抱き、四方山話の第97話「危機の予知」でも取り上げた。その中で、アイアン・ミトロフ著「危機を避けられない時代の クライシス・マネジメント」(徳間書店)の中の言葉を借りて、福知山線のような重大な事故を無くすには、
 ・ 発せられたシグナルを無視するな
 ・ 危機を知らせるシグナルの伝達が途中で止まらないようにせよ
 ・ 警戒のシグナルを発することに対して報奨を与えよ
と記した。こうしたことを確実に実践していくには、組織全体が同じ方向に向かっている必要がある。つまり、経営陣を含めた組織が、危機感を共有し、危機の撲滅に向けて常に行動しなければならないのだ。

しかし、責任を個人だけに帰するようでは、それは難しい。組織の責任を問えなければ、組織を挙げて危機意識を醸成・共有することができないのは、火を見るよりも明らかだ。台湾の列車事故に関する報道を聞いてそんなことを考えていたら、先週の木曜日だったか金曜日だったか記憶は定かでないが、通勤のカーラジオから、JR福知山線脱線事故の遺族らがそうした組織の責任を問う法律の整備を求めて約1万人分の署名を提出する、とのニュースが流れてきた。いつも聞いているNHK第一放送からだ。

そのニュースによれば、現状の日本の刑法では、大事故であっても個人の責任しか問えないのだという。何とも理不尽な話だ。そのため、26日に山下法相に提出する署名は、大事故を起こした企業の刑事責任を問う「組織罰」の立法を求めているのだという。多数の死傷者を出す事故を起こした企業には巨額の罰金を科す特別法らしい。何故そうした署名を提出しなければならないかと言えば、個人の責任だけを問うても、現実的には多数の死傷者を出す悲惨な事故が後を絶たないからだ。

脱線事故後、JR西日本の歴代社長4人が業務上過失致死傷罪に問われたが、いずれも無罪が確定した。こうした司法の限界を肌で感じたことにより、多数の死傷者を出した重大事故(乗客と運転士合わせて107名が死亡、562名が負傷)にも拘らず誰の刑事責任も問えない不条理さを訴える声が遺族らから上がり、「組織罰」を考える勉強会が2014年に発足したのだという。その後、東日本大震災(2011年3月11日)による東京電力福島第1原発事故の被災者や、2012年12月に発生した中央自動車道笹子トンネル事故(9名死亡)の遺族らとも連携し、活動を続けてきたという。そうせざるを得なかった、遺族のやるせない気持ちが痛いほど伝わってくる。

ニュースによれば、海外でも企業の責任を追及する動きはあって、英国では2007年、企業の刑事責任を問える法律が制定されたという。この法律の制定後事故件数が減少したというから、一定の抑止効果があったとみられている。やはり、企業が処罰の対象になれば、処罰されないように企業はこれまで以上に安全対策を実行するようになるのは自明の理だ。一日も早い法整備を願うばかりである。

最近、東京電力の旧経営陣3人が津波による福島第一原発事故を防げなかったとして、検察審査会の議決によって強制的に起訴された裁判の被告人質問が始まった。3人の答弁を聞いていると、一日も早い法整備が絶対に必要だと思えてくる。被害者や遺族は、いつまでこうした思いを持ち続けなければならないのだろう…。

【文責:知取気亭主人】

こんな本を読んだこともあるのだが… 「危機を避けられない時代の
 クライシス・マネジメント」


【著者】 ミトロフ,アイアン〈Mitroff, Ian I.〉
【訳】 上野 正安・大貫 功雄
【出版社】 徳間書店
【発行年月】 2001/10/31
【ISBN】 4198614326
【ページ】 219p (19cm)
【販売価格】 \1,575(税込)

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