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知取気亭主人の四方山話
 

『雷様も音を上げた?』

 

2018年12月5日

気が付けば、今年も早いものでもうひと月を切った。天候は年末らしからぬところがあるものの、会社帰りの車窓から見る繁華街の街路樹は綺麗にイルミネーションが飾られ、何となく年の瀬の華やいだ雰囲気になって来た。商店街は、お歳暮、クリスマス、年末年始と続く一年で最大・最長の商戦期間突入とあって、何とか財布のひもを緩めてもらおうと、あの手この手で雰囲気づくりに励んでいる。金沢の台所、近江町市場も同じだ。

12月1日の土曜日、久しぶりに近江町に行ってきた。お歳暮を贈るためだ。いつも通りの賑わいだが、商品に貼られた“お歳暮と書かれた熨斗”がいつもと違う雰囲気となって彩を添えている。客層も違う。いつもなら圧倒的に観光客が多いのに、やはりお歳暮やおせち料理の材料を買い求める客らしく、地元の夫婦連れらしきカップルが結構出ている。店先で店員とやり取りしている私たち夫婦の隣で、「お歳暮の贈り先だけど…」と話すカップルが目立つ。そんな会話があちこちから聞こえて来るのだ。

店員とのやり取りを妻に任せ、人間ウォッチングをしていると、買う、買わないは別にして、観光客はズワイガニに、地元客はブリに注目していることが分かる。共に冬の北陸を代表する味覚の一つだが、地元客がブリなのは、本人が好きなだけではなく北陸特有の風習によるところも大きい。福井県のことは詳しく知らないが、少なくとも石川県と富山県には、嫁の実家が嫁ぎ先に“寒ブリ”を贈り、お返しに半身が嫁ぎ先から嫁の実家に贈り返されて来る「半身返し」という風習があるのだ。北陸の人たちにとって、出世魚のブリは縁起物、そして何よりのご馳走だったのだろう。

石川、富山ばかりではない、海の無い長野県も、今頃の季節になるとブリを堪能していたらしい。長女が嫁いだ長野県の西部には日本海の町“糸魚川”から塩や魚などの物資が運ばれた道があって、その道は古くは「ぶり街道」と呼ばれていたらしい。松本城の敷地内に建てられている資料館にそんな説明書きがあった。恐らく、内陸にある信州の国の住民にとって、ブリは冬の貴重なご馳走、そして貴重な蛋白源だったに違いない。

そんな貴重だったブリも、今では養殖技術が発達して、回転寿司に行けばいつでも食べられるようになった。しかし天然物はそうはいかない。NHKラジオからの情報によれば、5月から6月にかけて東シナ海から日本海へ入り北上したブリは、夏から秋にかけて北海道周辺で過ごし、その後11 月に入り水温が下がると南下を始め、12月から1月には九州北部海域に達する。そして、4月から5月にかけて九州西方の東シナ海へと移動して暖かい海域で産卵活動を行い、その後再び日本海へ戻り北上を開始するのだという。こうした回遊の中で、日本海を南下するブリを“寒ブリ”と呼んで珍重するわけだが、北陸地方には、「そろそろ寒ブリが獲れる頃だぞ!」と合図してくれるものがある。「ブリ起こし」とも呼ばれる、初冬に鳴る雷である。

北陸では、丁度ブリが南下し始める11月に入ると、例年“みぞれ”や“あられ”が降る荒れた天気の日が多くなり、その時に窓ガラスを震わすほどの低く大きな雷鳴が轟くのだ。能登半島周辺でブリが獲れ始める時期と重なるため“ブリ起こし”と呼ばれるのだが、金沢に来て最初に冬の雷を聞いた時には、本当に驚いた。静岡県出身の私は、「雷は夏にしか鳴らない」と思い込んでいたからだ。静岡の冬は乾燥していて、雷が発生するような雲は、全くと言って良いぐらい発生しない。同じ静岡出身の妻も、ビックリ仰天だった、と今でもよく言う。嫁入り道具を運んで来た時に“みぞれ”と“冬の雷”の洗礼を受けたのだから、驚いたのは無理もない。ただ、それから二人とも徐々に慣れ、いまでは冬の雷が鳴ると、ズワイガニとブリが思い浮かぶようになってきた。

そう、この季節の雷は、ほぼ毎年の恒例行事なのだ。ところが、今年は11月を過ぎ、12月に入ったというのに、雷鳴が轟かない。暖冬のせいで、とうとう雷様も音を上げたらしい。何せ12月4日には、北陸の金沢で最高気温が20℃を超えたのだ。ビックリ仰天だ。冬の季節を運んでくる寒気が一向に南下してこないからだが、そのせいで冷たい“みぞれ”も降らないし雷も鳴らない。

12月2日の北陸中日新聞朝刊の第一面には、「金沢11月雷ゼロ」の大きな文字が躍っている。そして記事によれば、11月に一回も鳴らなかったのは、2000年以来18年ぶりの事だとある。また、1981年〜2010年の30年間の平均を取ると、11月に雷が鳴る平均日数は5.6日だという。多い年は3日に一回は鳴る勘定なのに、今年は全く聞こえてこない。エルニーニョが発生していて今年は暖冬だろう、と言われてはいたが、ここまで暖かいとは思ってもみなかった。ただ、天気予報によれば、今週の金曜日(7日)ぐらいから冬型の天気になるというから、有り難くはないのだが、恐らく今年初のブリ起こしが聞けるだろう。

しかし、地球温暖化に歯止めが掛からず海水温が上昇し続ければ、ブリの産卵場所が北上して行き、やがて能登半島周辺まで南下しなくなる可能性はないのだろうか。そうすれば、ブリ起こしどころではない。トランプ米大統領は、米政府の地球温暖化に関する報告書の内容について「私は信じない」と語っているらしいが、そんな都合の良い事を本当に信じているのだろうか。信ずるべきは、欲望で感度の鈍った人間センサーよりも、ブリなど海洋生物を始めとする環境変化に敏感な生き物センサーの方だと思うのだが…。

【文責:知取気亭主人】

随分前の近江町
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