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知取気亭主人の四方山話
 

『嘘だけど隠蔽ではない?』

 

2019年3月6日

1974年に発売された中条きよしのヒット曲「うそ」に、こんな歌詞がある。「♪折れた煙草の吸いがらで あなたの嘘がわかるのよ 誰かいい女出来たのね…♪」。実にうまい表現だ。作詞をしたのは、銀座で高級クラブのママとしても活躍していた故山口洋子である(作曲は故平尾昌晃)。女の情念と感の鋭さを巧みに表現した、女性ならではの歌詞だ。ただ、「折れた煙草の吸いがら」と詠っているところは、実際は煙草を消すその仕草に嘘をつき通そうとする男の狡さが見えた、のではないだろうか。いずれにしても、惚れた女性は、いつもとのチョットした違いで嘘を見抜いてしまうらしい。

見抜いた女性は、その後どうするのだろう。さすが作詞家、山口洋子は怒りをぶつけるなど、絵にならない情景は描いていない。しかし、「どんなに巧みな嘘でも、いずれは分かるものよ」と詠っているように聴こえる。その通りだと思う。そして、白日の下に晒された時、たわいもない嘘や可愛らしい嘘ならばさほどでもないが、多くの場合は“非難と言い訳のバトル”が勃発することになる。勿論男女の仲のみならず、である。ただ、バトルと言っても大概は夫婦や家族、或いは友人同士などの場合が多い。

ところが、今年になって明らかになった「毎月勤労統計の不正問題」は、日本国民全てに嘘をついていたという前代未聞の大嘘であることがばれ、今年度予算を審議する国会で大バトルとなっている。当初指摘されていた「法律で決められた方法で調査をしていなかった」までならここまで大騒ぎにならなかったのだが、産業構造や労働者数などの変化を統計に反映させる「ベンチマーク更新」と呼ばれる手法を2018年1月から変更し、このことによって賃金の伸び率が一挙に上がったことが明らかになったため、大騒動になっている。

具体的には、2013年〜2018年の6年分の上振れを均等割りすることなく、全て2018年に上乗せするやり方に変えたのだ。その結果、2013年から2017年に掛けては統計の賃金データが実態よりも低くなり、雇用保険などで過少給付が生じることになってしまった。詳しくは新聞・テレビに譲るが、一体なぜ変えたのだろう。

28日の木曜日、車を運転しながら国会中継を聴いていた。野党からの質問の多くは、政府の失敗をアピールする絶好のチャンスとばかりに、「毎月勤労統計の不正問題」に関連するものばかりだ。そんな中、気になったのが“組織的な隠蔽があったのではないか”とする野党の追及に対する政府の回答だ。質問した野党議員と、答えに立った根本匠厚生労働相とのやり取りは、まるで禅問答だった。同じやり取りを何度聞いても、分かったようで結局は分からない、何だかはぐらかされた気分だ。「嘘はついたが、でも隠蔽ではない」というのだ。素人考えでは、「嘘をつくというのは、事実と違うことを言ったり報告したりすること」で「事実を隠蔽すること」に他ならない、と思っていた。しかし、行政府の人たちの解釈(言い訳)はどうやら違うらしい。

そこで、我々一般人が言葉の定義として頼りにしている国語辞典で、まず「嘘」と「隠蔽」の定義を確認してみることにする。岩波書店の「広辞苑 第四版」(1991)では、それぞれ次のように説明されている。
     【 嘘 】 真実でないこと。また、そのことば。いつわり。
     【隠蔽】 人または物が目につかないようおおうこと。かくすこと。
もうひとつ、旺文社の「国語辞典」(第八版、1992)での説明は以下の通りだ。
     【 嘘 】 ①事実でないこと。②正しくないこと、③不適当なこと。
     【隠蔽】 おおい隠すこと。

二つの辞典の説明では、確かに「嘘」と「隠蔽」には関連性がないようにも見える。しかし、単語の意味としては説明通りだとしても、“嘘をつくのは事実を隠すため”であることに間違いはない。すると「嘘をつく=事実を隠す=事実の隠蔽」の等式が成り立つことになり、“嘘をつく”という行為そのものが“隠蔽”に当たる、と解釈できる。ところが、行政にとってこの解釈は受け入れ難いらしい。

「毎月勤労統計の不正問題」を検証してきた厚生労働省の特別監察委員会は、再調査報告書を公表したが、その中で「今回の不正で組織的隠蔽は認められなかった」と結論づけている。その上、「組織的隠蔽」の定義を示し、「その定義から明らかなように、今回の件は隠ぺいではない」と強調している。どのようにしたらそんな結論に達するのか、身内をかばうためだ、と疑念を持たれても仕方がない苦しい論理だ。どだい、嘘をついている厚生労働省の不正を、同じ厚生労働省の監察委員会が調査すること自体、普通の感覚とはずいぶんかけ離れている。普通は外部に頼むのが常識だと思うのだが…。

ところで、山口洋子はくだんの「うそ」の中で、相手を「♪…冷たい嘘のつける人♪」とか「♪…優しい嘘の上手い人♪」と詠ったが、さて厚生労働省はどちらのタイプになるのだろう? 雇用保険などの過少給付を考えると、とても「優しい嘘…」とは思えないのだが…。

【文責:知取気亭主人】


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