2019年5月29日
既に大々的に報じられている通り、今年の4月から働き改革法案と呼ばれる改正労働基準法が施行され、日本企業にとっていよいよ、残業規制や有給休暇の取得義務化など、生産性向上に向けての取り組みがスタートした。これまでのように、「いずれ何とか…」とか「我が社の業態ではちょっと難しい…」などと、先延ばしはできない。我々のような中小企業でも1年遅れるものの2020年から始まるし、建設業など適用除外業種でも、5年後にはその適用除外も外れることになっている。待ったなしなのである。
しかし、どの業界も似たり寄ったりで、手放しで受け入れられる企業はそんなに多くないと思う。恐らく、どこもかしこも苦心惨憺しているに違いない。と言うのも、これまでのやり方に慣れきっているからだ。いわゆる“茹でガエル現象”である。ただ、その現象が蔓延しているのは、我々民間企業に限ったことではない。国会も同じなのではないかと思っている。いやむしろ、「国政を預かる国会こそ働き方改革を実行したら如何?」と、声を大にして言ってやりたい気分である。議論が噛み合わない国会中継を見ていたり、とんでもない失言が報じられたりするのを見聞きすると、とても諸外国に胸を張って、「どうです、日本の国会議員の優秀なこと、羨ましいでしょ!」とか、「議事進行を見れば、内容の濃さや効率の良さが分かりますよ!」などとは、口が裂けても言えない。
まず、目に余るのが、大臣による国会答弁のお粗末さである。それまで党の要職を担って来た、いわゆる名の通った“できる政治家”はそうでもないのだが、(叱られるかもしれないが)順番待ちで大臣になられた方々は、官僚が作文した答弁書を読むのが精一杯、の感じがしてならない。質問する野党議員が枝葉末節にこだわり過ぎている、という点もあるかもしれないが、自分の言葉で答弁していない大臣が結構目につく。もっとも、後で述べるが、官僚が書いたものでないと失言してしまう、という怖さがあるのかもしれない。
冗談はさておいて、実は、働き方改革の本丸はここ、国や県などの議会にあるのではないかと思っている。と言うのも、霞が関以外の都道府県庁でも同じだと思うが、議会が開催されている時や予算要求の時には、どこの庁舎も深夜まで煌々と明かりが点いていて、不夜城となっているのだ。そうやって、答弁する内容に間違いがないようにしているのだが、当の大臣は、答弁書を用意してくれるこうした官僚の働き方をご存じなのだろうか。
少なくとも、大臣席に座る議員は、担当部署のプロフェッショナルであるべきだと思っている。その分野で諸外国との交渉に当たる事がある筈で、そうした時自らの言葉で自らの考えを述べなければ、国益を損なってしまう可能性がある。そう考えると、細かな数値や日時については、確かに調べてもらう必要があると思う。しかし、その部局がこれまで解決してきた課題や施策などの歴史、あるいはこれからの目標や方針、それに向けての課題や重要施策などは、全て頭の中に入っていなければ、大臣としては甚だ心許ない。また、「大臣になりたい!」と熱望する人は、順番待ちではなく自らの力で勝ち取るべきで、そのためには得意とする分野を持たなければいけない。日々の勉強を怠ってはいけないのだ。政党もそうしたことを指導している筈なのだが、国民から「大臣の任にあらず」と思われてしまう国会議員が多いこと。その引き金の一つとなっているのが、失言である。
昨今、失言で格好のニュースソースを与えている国会議員は少なくない。与野党を問わずメディアを賑わしていて、「こんなことを言う人が、良く国会議員になれたものだ!」と、半分呆れている。特に、安定多数に安心しきっているわけでもあるまいが、圧倒的に与党自民党議員が多い。党としては、目前に迫った夏の参院選を見据えて、こうした状況を看過できないと判断したのだろう、所属議員にとんでもないマニュアルを配布したという。話題となっている「失言防止マニュアル」である。
このマニュアルに対しては、党内からも「レベルが低い」とか「恥ずかしい」という声さえ出ているという。もっともな話で、本当に、こんな事をしないとダメな議員がそんなにいるのだろうか。党内どころか、国民に対しても、ましてや諸外国に対してなど、恥ずかしくてとても言える代物ではない。今の国会議員は、「国家・国民の為に」という政治家の矜持を、どこかに置き忘れてしまったのではないか。よもやとは思うが、「元々そんな崇高な考えは持っていない」なんてことは…。
しかも、百万歩譲って一般の国会議員ならまだしも、大臣や副大臣にもこのマニュアルが役立つとしたら、日本の将来は真っ暗だ。先にも書いたが、大臣や副大臣の席に座る議員は、担当部署のプロフェッショナルであるべきだと思っている。働き方改革で言えば、賛否両論が激しく戦わされた高度プロフェッショナル制度(以下、高プロ)が適用される、その道に長けた人材であるべきだ。そう考えると、民間企業がそうであるように、高プロへの登用はもっと能力を吟味すべきである。その方法として、国会における当該部門の委員会や外部委員会でその資質を見極める過程を設ける、というのは如何だろう。そうすれば、少なくとも、「大臣の任にあらず」の声は聞こえてこないような気がする。
いずれにしても、「隗より始めよ」ではないが、民間企業に“働き方改革”を強制する前に国会改革があってしかるべきだ、と思っているのだが…。
【文責:知取気亭主人】
ワトソニア(ヒオウギズイセン)
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