2019年6月12日
これを書き始めた6月8日の金沢は、真夏を思わせるような暑さだった2、3日前とは打って変わって、夏服では肌寒いほどの露寒状態だった。墓標の移設立ち合いがあり、礼服を着用し、ネクタイもしていたのだが、全く暑さを感じず驚いている。このまま秋まで、と思っているのだがそうもいくまい。あとひと月余もすれば、恐らく梅雨も明け、本格的な夏がやってくる。そうなると、「夏バテ防止に」との宣伝文句で賑やかになるのが、土用の丑の日のウナギの蒲焼だ。今年は7月27日がその日に当たる。
このウナギの蒲焼、ご存知のように暫く前から稚魚の不漁が続き、「いずれ食べられなくなる」とさえ言われている。しかし、「蒸し暑い日本の夏の国民食、風物詩だから何としても食べたい」との要望が余程強いのだろう、代替品が登場し始めた。まず、数年前に話題に上ったのがナマズだ。このナマズ、そっくりとは言わないまでも、姿形や生息している所もウナギに似ていて、“ウナギの代替品”と言われてもそんなに違和感はない。
ところが、先日耳にした代替魚の名前には驚いた。大手スーパーのイオンが、サケをウナギの代替品として売り出すというのだ。サケと聞けば、サケ弁や塩ジャケがすぐ思い浮かぶぐらい焼き魚が定番、のイメージが強い。それだけに、ウナギの代替品になるなんて想像もつかない。しかし、情報源であるNHKラジオに依れば、試行錯誤の末に、やっと出荷できる味や触感になったという。そうと聞けば是非食べてみたいと思うのが人情だ。以前食べたことのある、見た目そっくりだった「豆腐とノリで創られたウナギの蒲焼」、それ以上の感激が得られるのではないかと期待している。
だが、こうした食品の代替品、ウナギの代わりとしてのサケぐらいで驚いていてはいけない。数年前から肉にも登場し始めたのだ。しかも、「畑の肉」と言われる大豆など、自然由来のものではない。人工的に培養した肉が登場し始めているのだ。「培養肉」とか「人工肉」などと呼ばれているらしいが、2013年英国のロンドンで、牛の幹細胞をシャーレで培養して製造された肉を使ったバーガーの試食会が、世界で初めて開かれたという。それからやがて6年。素直に受け入れられるかどうかはその時になってみないと分からないが、普通に店頭に並ぶ日も近いと思われる。
こうした培養肉の利点は、大量の水や餌を消費することなく生産できるため、環境負荷が極めて小さく済むことだ。自然保護の視点からすれば、理想の食材確保の方法かもしれない。また、家畜を殺す必要がない事も、動物保護団体からすれば優れた点のひとつだろう。この培養肉と同じ様に環境負荷が少なく、尚且つ栄養価の高い食材として今注目されているのが、「昆虫食」だ。
「昆虫食」と聞くとギョッとするかもしれないが、日本では、各地でイナゴが食べられていた時期もあり、田舎育ちの年寄りには比較的馴染みの食材である。今もお土産として出回っている地域もある。それが今再び食卓に上ろうとし始めているのだ。イナゴやコオロギなどの昆虫は、家畜などに比べると、大きな飼育施設は必要なく、飼料も雑草などで済むためコストがかからず、糞尿などによる環境負荷も殆どない。その上タンパク質の含有量が高く、ビタミンやミネラルも豊富だというから、培養肉以上に普及する日は近いのかもしれない。
こうした食品の代替品が考えられる背景には、乱獲や地球環境の悪化によって、①食生活に欠かせない、②食の伝統文化として根付いている、③美味しくて要望が高い、などの食材の確保が難しくなってきたことがある。それに加え、このままいけば今は大丈夫な食材もやがては確保することが難しくなる恐れがあるため、「環境への負荷低減」や、「途上国などが抱える食糧難問題の解決」などへの対応に迫られていることもある。それらの根本原因は、食に対して贅沢になってきたことや人口の爆発的な増加、そして何と言っても人間自身が蝕んできた地球環境の悪化だと言って良い。一言で「原因は人間のエゴ」とは言い過ぎだろうか。実は、それが過ぎると、意図せぬ代替食品を食べざるを得なくなる場合もある。日本人は、そんな辛い経験を過去にしたことがある。戦中戦後の混乱期である。
私自身は戦後生まれだから知る由もないのだが、大正10年生まれの母から聞いた話では、当時は腹を満たすためにいろいろな食材を食べたという。栄養価を考える余裕などないほど欠乏していた食糧事情の中で、満腹感を得るために、とにかく増量を図ったという。今考えれば、増量のため入れられたイモや野草などは、コメや麦の代替品だったのだ。こうした笑えない悲しい思い出の代替品もあった。ところが、その対極にある、笑い話のような代替品もあった。中国での話だ。
今から12年前(2007年)、中国で、細かく裁断した段ボールをカセイソーダで溶かして柔らかくした後、豚肉を少量練り込んで作った代替肉を使って製造していた“偽装肉まん”を販売していた店が摘発された。日本でも大々的に報じられたから、覚えている人もいるだろう。俄かには信じがたいビックリ仰天のニュースだったが、これなどエゴによる代替食材の典型事例、と言ってもいいだろう。
このように、代替品が登場する背景には人間のエゴが渦巻いている、と思えてしまうのだが、皆さんはどのように感じられるだろうか。飽食の時代、今は食品ロスも問題になっている。エゴが顕在化しないよう、身の丈に合った生活をしたいものだが…。
【文責:知取気亭主人】
ヤマモモ(赤紫に熟した実は、おやつ代わりだった)
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