2019年6月26日
ヒトには、どうしても忘れられない日がある。嬉しかった事、悲しかった事、そうした自身にとっての経験は、強烈であればあるほど記憶に残り、中にはその日にちさえ覚えているものもある。そして最初は身の回りの狭い範囲の出来事だったものが、やがて家族や恩師など大切な人との出来事へと、どんどん広がっていく。そうして人生経験が豊かになるにつれその数は増えていくことになるのだが、やがて古い記憶は曖昧になり、仕舞いには、記録しておかないと覚えられなくなってしまう。
例えば、結婚前であれば兄弟や父や母、祖父母など家族の誕生日だけで済んでいたものが、結婚すればパートナーの誕生日、子供が生まれるとその子の誕生日と、増えていくことになる。月日が経ちやがてその子が結婚すると、相手の誕生日が加わる。更に孫が生まれるとその誕生日も忘れてはならない日となり、例えば、今の私には記憶に留めなければならない誕生日だけで十指に余っている。そうやって齢を重ねて行くと、これまでどちらかと言えば目出度い日が主だったものが、徐々に父母などの大切な人が亡くなった日など悲しい思いでも増えてくる。そうした忘れてはならない日を、何かの拍子にうっかり忘れてしまうと、とんでもないことになる。
特に男性はその傾向が強いと思われるから敢えて言うのだが、結婚間もない頃は、決して嫁さんの誕生日や結婚記念日を忘れないことだ。忘れようものなら、それから数日間はヒンヤリとした空気が漂い、手痛いしっぺ返しを食うことになる。ただ、子供が増えたり仕事が忙しくなったりして、毎日振り回されていると、たまにうっかり忘れることがある。ある意味、それは致し方ない事だと思う。そうした言い訳が言えるのは、たまたま思い出せなかっただけで、忘れてはいないからだ。
もっと言えば、「忘れてはならない日」として記憶しているからだ。ところが、端から覚える気持ちがなければ、そうした言い訳はできない。それはこれまで述べてきたような個人に関する日もそうだが、当然のこととして、国家或いは国民として、決して忘れてはならない日がある。勿論、我が日本国にもある。それを教えてくれたのは、いつも通勤時に聞いている朝のNHKラジオである。
先週の金曜日、NHKラジオのリスナーから、こんな便りがあった。
「私は父から、日本人には忘れてはならない四つの日がある、と教えられた。」
「一つは、広島に原爆が投下された日。二つ目は、長崎に原爆が投下された日。三つ目は、終戦記念日。そして四つ目が、沖縄慰霊の日である。」
それを聴いて“成程な”と思ったのだが、同時に、何年か前のニュース映像を思い出した。街頭で「今日は何の日か覚えていますか?」とインタビューしているニュースだった。確か、どちらかの原爆の日か終戦記念日だったと思うが、放映された半数近くの人が正解を言えず、ショックを受けたことを思い出したのだ。多くは若者だったのだが、中には40、50代と思しき人たちもいて、ここまで風化してしまったのかと思うと、先達の犠牲や苦労は何のためだったのか、悲しみと怒りが込み上げてきたのを覚えている。
確かに、戦争が終わり今日まで、74年間も日本国内での戦争はなく、平和な時代が続いている。そして、経済的発展も手に入れた。しかし、四つのどの記念式典でも繰り返し述べられてきたように、今日の平和と繁栄は先の大戦で亡くなった多くの人たちの犠牲の上に成り立っているのである。そういう意味では、リスナーの方が親から言われてきたように、少なくとも前記四つの日は、日本人として決して忘れてはならない日だと思う。ところが、悲しいかな、先の街頭インタビューがそうだったように、平和ボケが蔓延し始めているのか、記憶の風化が確実に進んでいるように感じる。
どうしたらこれ以上の風化の進行を止めることができるのだろうか。そのためには、小・中・高で明治以降の近代史をしっかりと教育することが必要だと思う。尚且つ、世界と日本の関係を世界の視点からも見つめる、そうした教育を合わせて行うべきだろう。そうすることによって、日本人として忘れてはならない四つの日が持つ重要な意味を、より深く認識できるのではないかと思っている。「喉元過ぎれば…」などと言われてはいけないのだ。その上で、心新たに反戦を誓いたいものである。
さて、ここまで書いてきたが、これまで具体的な日にちを明記してこなかった。皆さんにとっては「今更!」の感もあるだろうが、改めてここに記しておく。
広島原爆の日は、74年前の8月6日、長崎原爆の日は8月9日、終戦の日は8月15日、そして沖縄の人たちにとって忘れられない沖縄慰霊の日は6月23日である。県民の四人に一人が亡くなったという沖縄戦、その沖縄戦の組織的戦闘が終わった日とされているのが、6月23日である。沖縄県民にとっては、決して忘れることができない特別な日であるにも拘らず、他の三つの日に比べてメディアでの取り上げ方が寂しいような気がする。必然的に風化速度も速いのではないか、と思っている。是非、「日本国民として忘れてはならない日」の一つとして、二度と戦争を繰り返さない決意を新たにする日としてほしいものである。
因みに、今年の6月23日は、父の66回目の命日でもある。 【合掌】
【文責:知取気亭主人】
孫たちの誕生日も忘れてはならない日
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