いさぼうネット
賛助会員一覧
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
知取気亭主人の四方山話
 

『こんなところにも・・・』

 

2019年7月3日

大阪の街が世界の注目の的となったG20大阪サミットが、懸念されたテロなど大きな混乱もなく、(1年間は議長国としての役割は残されているそうだが)無事閉幕した。安倍首相を始めとする政府関係者も、発表された首脳宣言に対する評価はともかく、各国首脳を迎えるホストとしての役割を無事終え、ホッと胸をなでおろしていることだろう。

ネットの「G20サミットとは」(https://g20.org/jp/summit/about/)によれば、G20サミットは1997年のアジア通貨危機を契機に創設されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議が基となっていて、当時の構成メンバーは、現在と同じ(経済規模の大きな)19カ国とEUの計20の国と地域だったとある。その後、リーマンショックで世界経済が大打撃を受けた2008年11月、落ち込んだ世界経済を何とか立て直しをしようとして、それまでの閣僚級の会議を格上げする形で始まったものらしい。

こうした発足の背景もあって、正式名称を「金融・世界経済に関する首脳会合」と言い、議論のテーマは経済が中心であった。ただ近年では、経済活動に大きく影響を与えるテーマも取り上げられることが増え、今回のG20大阪サミットでは、世界経済、貿易・投資、イノベーション、環境・エネルギー、雇用、女性のエンパワーメント、開発、保険が主要テーマとして議論された。その一つ、環境・エネルギーの分野では、世界各地で頻発するようになってきた異常気象などの“気候変動問題”と、その気候変動に大きな影響を与える“エネルギー問題”、そして最近とみに話題になることが増えてきた“海洋プラスチックごみ問題”が重要なテーマとして議論された。

こうしたテーマは、日本でも大変身近な問題として顕在化してきており、特に気候変動問題に関しては、毎年のように頻発する土砂災害が年々激しさを増していて、主に被災した地域に限定はされるものの、持続可能な経済活動を阻害する大きな要因になっている。また、熱中症に代表されるような、新たな脅威も多発し始めている。そうした急激で過度な気候変動は、伝統的な文化活動にも影響を与え始めていて、ここ金沢でも、ある伝統行事の持続が危ぶまれる事態になっている。

金沢には、「氷室開き」と呼ばれる江戸時代から伝わる恒例行事がある。藩政時代の加賀藩は、将軍家に氷を献上するために、「氷室(ひむろ)」と呼ばれる小屋に大量の雪を貯蔵していたのだそうだ。雪国だからこそできた行事で、この貯蔵されていた雪氷を切り出すことを「氷室開き」と呼んでいて、例年6月30日がその日に当たる。ただ、他の地域の伝統行事と似た様な運命を辿っていて、氷室小屋も一時姿を消していた時代があり、私が金沢に来た頃は見たことも話題に上ることも全くなかった。そうした中、観光資源として、画家の竹下夢二が長逗留していたことで知られる金沢市郊外に位置する湯涌温泉の一角に、氷室小屋が復元され、1986年に「氷室開き」の行事が再開されるようになったという。ところが今年、その恒例行事に思わぬ事態が発生した。

6月29日の北陸中日新聞朝刊によれば、例年だと氷室には60トンほどの雪を入れ圧接するのだが、今年は極端な暖冬で雪が少なく、僅か12トンしか貯蔵できなかったという。例年の1/5だ。そのため、行事を再開して以降初めて、「氷室開き」の前に全て解けてしまったらしい。これまでにも、雪が足りず白山の雪を足したことはあったそうだが(2008年)、今回のように開く前に全て解けてしまったのは初めてだという。

ただ、12トンしか溜められなかった時点で、解けてしまうことを想定し、行事に必要な量を別に集め、近江町市場の冷凍庫に保存してもらっていたというから素晴らしい。ナイス危機管理である。とは言うものの、例年通り氷室から直接雪氷を切り出すことができないため、冷凍庫から運んできた雪氷をわざわざ一旦氷室に入れるというひと手間を掛けた後、これを切り出し、近くの薬師寺に奉納するのだそうだ。湯涌の雪だけでこの行事を行うことにこだわった結果らしい。その後7月に入ると、加賀藩邸のあった板橋区や目黒区などに贈るらしい。今はもう贈っていることだと思うが、暖冬による影響が、もう梅雨も明けようかというこんな時期の、こんなところにも出ているのだ。これから先、この伝統行事はいつまで続けることができるのだろう。

地球温暖化によって、北陸地方など豪雪地帯では、雪の降り方が極端になるという。確かに、一年前(2018年)の冬は、金沢市内でも一時交通マヒが出るほどの大雪だったのに、今年の冬は一変して小雪で、路肩に雪の無い時間が長かった。こうした極端な降雪状況がますます顕著になると、いずれ湯涌の雪だけで行事を続けるのは出来なくなってしまうのは目に見えている。折角再開した伝統行事が危ういのだ。

G20サミットという世界の首脳が一堂に会して議論する会議、その重要テーマのひとつが、こんな身近なところにまで影響を及ぼしている。そんな事を思うと、「G20サミットなど遠い世界の話」などと“我関せず”を決め込まないで、もっともっと世界の動向にセンサーを働かせておく必要がありそうだ。そして、気候変動に与える影響を抑えるべく、なるべくエコな生活を送るよう、日々の生活を見直したいものである。

【文責:知取気亭主人】


金沢市近郊では7月1日に「氷室万頭」を食べる風習がある
金沢市近郊では7月1日に「氷室万頭」を食べる風習がある

Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.