2019年7月31日
ネットを見ていて、面白い記事に行き当たった。子供が大好きな稲荷寿司、その稲荷寿司の形が東西で違い、東は俵型、西は三角形だという。そしてその違いの境界が、どうやら関ヶ原辺りだというのだ。どこが境界かは別にして、違いがあるのは確かである。というのも、私が子供の頃食べていたのは三角形のお稲荷さんだったのに、今我が家で妻が作るのは俵型だからだ。私と妻、お互いが育った所は、直線距離で30qも離れていない。そんなに近いのに確かに形が違う。記事を読むまで考えたことも無かったが、我々の故郷が凡そ200q弱関ヶ原から東に行った所であることを考えると、育った辺りが丁度モザイク状に東西の文化が入り混じった地域だったのかも知れない。
こうした日本における東西での違いは他にもあって、今丁度スーパーマーケットのチラシを賑わしている鰻も、“関東の背開き”に対し“関西の腹開き”の違いが有る。開いた後の、蒸す、蒸さないもある。江戸と京阪の主導権争いだった訳でもあるまいが、とにかく東西で違う。その境界はと言うと、必然的に江戸と京阪の中間のどこかを境にしていることになり、それは丁度北陸から東海地方にかけての地域に当たる。そして、稲荷寿司の場合は「関が原」という訳である。こうした食文化の違いではないが、「関が原」と聞くと思い出すのが、東西モグラの攻防である。
記憶の源は、随分前に聴いたNHKラジオだ。日本に住むモグラには、東日本に住むモグラと西日本に住むモグラの2種類がいて、関ケ原辺りを中心に攻防を繰り広げており、(何年前か忘れたが)その当時は西日本のモグラが徐々に勢力を拡大している、というのだった。そんな記憶を頼りにネットで調べたところ、2018年3月2日の「神戸新聞NEXT」に行きついた(https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201803/0011032008.shtml)。
それによれば、記憶に間違いはなく、東日本を中心に本州に幅広く生息していた“アズマモグラ”を、西日本勢力の“コウベモグラ”が、ほんの少しずつ東へ追いやっているというのだ。ただ、人間同士が争った「関ヶ原の戦い」のように一挙に方が付くという様なことはなく、勢力を拡大していると言ってもほんの少しずつで、数十万年という気の遠くなるほど長い間勢力争いは繰り広げられていて、一進一退を繰り返しながら少しずつ東に進んでいるらしい。上記サイトに掲載されている勢力図を見ると、現代の戦いの最前線は、石川と福井の県境付近から岐阜県の南半分と長野県の南端付近を通って、静岡県の三島市付近を結んだ線上にあることになっている。勿論凸凹はしているのだが、まさに関ヶ原付近も前線に近い。これを見ると、“稲荷寿司の攻防”も同じ様な位置で行われているのではないか、と思えてくる。石川県の店に並んでいる稲荷寿司は、東の俵型だからだ。
生物に関する東西での違い、と言えばもう一つある。出所は、同じくNHKラジオだ。何年前の情報だったかはすっかり忘れたが、ホタルの光り方に関する東西の違いである。但し、この場合の境界は、「関ヶ原」ではなく糸魚川〜静岡構造線、いわゆる「フォッサマグナ」である。違いは、ゲンジボタルの光り方で、点滅する間隔の違いだ。これより東のゲンジボタルは4秒に1回、つまり1分間に15回光るのに対し、西ではその半分の2秒間隔で点滅して、1分間に30回光るのだという。こうした違いは、「ホタルの方言」として、知られるようになったという(http://www.saitama-u.ac.jp/ohnishi/jikken/Firefly.htm)。
しかも、上記サイトに掲載されている「朝日新聞 2006年6月18日」によれば、東西の2種類に分かれているという単純な話ではないらしい。同サイトの「ミトコンドリアCOU遺伝子でみたゲンジボタルの系統関係」の図(以下、分布図)には、遺伝子レベルで区別された6つもの地理的集団が示されている。ただ、点滅は2種類に分かれていて、境界より東側の2グループが4秒型、西側の4グループが2秒型だという。だとすると我が石川県のゲンジホタルは2秒型、ということになる。本当にそうなのだろうか。そこで、子供たちが小さかった頃、家族全員でホタルを見に行った時の様子を思い返してみた。
辺り一面田んぼの現場に着き、全員車から降りた。ところが、暫く待ってみたがたまにしか光ってくれない。しかも、数は僅かばかりである。そこで、車のハザードランプを点滅させることにした。すると、どうだろう。「こんなに沢山どこにいたんだろう」とビックリするくらい、辺り一面で点滅し始めた。恐らくハザードランプに同調してくれたのだ。
調べてみると、車のハザードランプは、道路運送車両法における保安基準で、「毎分60回以上120回以下の一定の周期で点滅するものであること」と決められている。あの時の点滅はそんなに忙しなくなかったから、肌感覚では恐らく1分間に60回の点滅だったと思う。そして、その点滅に違和感なく同調していた。えらくゆっくりしているな、という感覚はなかった。そうした記憶から判断すると、恐らく2秒型だったのではないかと思う。曖昧な感覚だけでの判断だが、分布図は正しかった、と言えそうである。
しかし、こんなに狭い国で同じ種類のホタルなのに光り方に違いがあるとは、まるで電気の様だ。しかも、境界まで似通っている。日本は、「50Hz」と「60Hz」、2種類の周波数の電気が使われている、世界でも不思議な国らしい。もっと不思議なのは、ホタルも電気も、西日本が気ぜわしくて、東日本は西ほどではないことだ。まるで、発電機を輸入する時にホタルの点滅を参考にしたみたいである。まさかとは思うが…。
【文責:知取気亭主人】
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