2019年8月7日
「年寄りの冷や水」という諺がある。手元にある三省堂の「故事ことわざ・慣用句辞典」(1999)では、「(年寄りが冷たい水を飲むということから)老人には不相応な危ないことをすることのたとえ」と説明されていて、多くは、老人が自分の年齢や体力を考えないで無茶をしてしまうことを指す。ただ、これほど熱中症への注意喚起が叫ばれている最近の日本では、冷たい水を飲むのは老若男女を問わず危ないこととは見なされず、逆に積極的に水分を取ることを奨励するぐらいだから、夏に限って言えば、この言い方は現代の実情にそぐわないかもしれない。
しかし、表現がマッチしているか否かは別にして、年齢に不相応な無茶なことをする老人は今も昔もいるもので、若い頃体力自慢であった年寄ほど、「まだまだそこら辺の若いもんには負けん」などと過信していて、無茶をしがちである。そうした過信が実は間違った思い込みであることに気が付かないから、なおのこと都合が悪い。周りでいくら注意しても、痛い目に合わない限り過信は治らない。かく言う私もそうだ。若い頃から体力には自信があって、特に夏の暑さには強いと思い込んでいる。
事実、4歳年下の仲間と二人でやった昨年夏の会社の草刈りでは、仲間は軽い熱中症になったのに私は何ともなかった。仲間を日陰で休ませ、応急手当てをした後も、一人作業を続けることができた。そんなこともあって、過信が無くなるどころか、逆に一層自信を深めてしまった。深めたのにはもう一つ理由があって、古希を迎えた昨年の秋ぐらいから、スマートフォンの基本機能にある「ヘルスケア」を使い、出張した時は10,000歩を、社内にいる時も5,000歩以上歩くことを目標に、体力維持に努めているからだ。加えて、昼休みには2sのダンベルを両手に持ち歩いている。そんな“あれやこれや”があって、古希が過ぎたとは言え「まだまだ!」、と思っていた。ところが、である。
8月3日の土曜日、伸び放題になっていた駐車場の草刈りをした。空地を3軒で借りているのだが、我が家以外の2軒が借りている駐車スペースは、小まめに草刈りをしているらしく、そんなに見苦しくない。ところが、我が家の所は、今年になっていまだ1回しか刈っておらず、伸び放題になっていて見苦しい。暫く前から気になり出してはいたのだが、何やかやとタイミングが合わず、とうとうこんな時期になってしまったという訳である。そして最悪なことに、暫く前から続いている猛暑はこの日も衰えることを知らず、最高気温は33℃を記録した。外に出た瞬間に熱を感じてしまう。それほどの暑さである。よせばいいのに、そんな中始めてしまった。
思い立ったが吉日とばかり、「中途半端になっても良いから午前中だけ」と決め、鎌を片手にやり出した。8時30分頃のことだ。帽子をかぶり、首には湿らすことで気化熱を奪い冷やしてくれるグッズを巻き、氷とスポーツ飲料を入れた保冷水筒を携え、準備万端整えての出陣だ。
いつも駐車場の草刈りは、年に何回もやることが嫌なので、極力短く刈り込むことにしている。尚且つ、繁殖力が強く成長が早い雑草は、出来る限り引き抜き、根絶を目指している。事実そうすることによって、時間は掛かるのだが草刈り回数は少なく済んでいる、と思い込んでいる。ただ、そうすると姿勢がきつい。腰も痛くなるし、“ふくらはぎ”と“太もも”が張ってくる。丁度相撲の「蹲踞(そんきょ)」の姿勢を保ったまま作業を続けるからだ。また、その姿勢から立ち上がって度々水を飲んだり、汗を拭いたりしていると、気が付かないうちにスクワットを何回もやっているのと同じで、結構な運動をしていることになる。しかも炎天下で。
13時近くになり、3分の2ほど綺麗にしたところで、いよいよ諦めることにした。腹も減り、たっぷりと汗もかいた。途中梅干しを何個かほおばり、塩分もちょくちょく取っていたから熱中症にも罹らず無事終わった、と安堵しながらシャワーを浴びた。心地よい疲れを感じながら、昼食を食べた。食べ終わって暫くすると眠くなってきた。2、3年前から休みの日の午後になると堪らなく眠くなって、20〜30分昼寝をしているのだが、それと同じ症状が現れたと思い、いつもの通り昼寝をすることにした。そして、いつもの通り、30分ほどして目が覚めた。
ところが、いつもならすっきりとした目覚めになる筈なのに、何だか体だるい。一向にスッキリしない。体が重い。それどころか、25年ほど前に靭帯を痛め自然治癒させた右膝の古傷が疼く。ちょっと頑張り過ぎたかな、と口には出さないが一人反省しきりだ。行くつもりだった孫たちの夏祭りも諦め、家内と二人御留守番を決め込んだ。これで少し休めば体力は回復する、と思っていた。しかし、炎天下での草刈りは、どうやら年寄りの冷や水だったらしい。
夕方になると、右膝痛に加え、右足の“ふくらはぎ”と両足の“太もも”が痛くなってきた。筋肉痛だ。二階から降りるのがしんどい。そして、左足の親指の付け根も痛い。蹲踞の姿勢で左足に体重を乗せた状態が長かったらしい。痛みと体のだるさは、結局次の日の夕方まで続き、日曜日も日がな一日ゴロゴロする羽目になってしまった。年寄りの冷や水など認めたくはないが、家族には言われそうだ。ただ、やり始めの時間がまずかった、と思っている。次はもう少し涼しいうちか、短い時間で片づけるようにしよう。さすれば、年寄りの冷や水などと言われることもあるまい…。
【文責:知取気亭主人】
ナイトズーで泳ぐアシカ
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