2019年10月9日
今開催中のラグビーワールドカップ(W杯)日本大会での、日本代表チームの活躍が目覚ましい。第二戦で世界ランキング2位のアイルランドを撃破した勢いそのままに、5日に行われたサモアとの第三戦を38―19で退け、ボーナスポイントも獲得して、無傷の3連勝とした。まだ日本よりも試合数の少ないチームもあって単純には比較できないが、6日の日曜日現在、1次リーグA組のトップに躍り出た。残すは、強豪のスコットランド戦のみだ。そのスコットランドとは前回大会でも対戦し、10−45で完敗している。したがって全く予断は許さないが、悲願の1次リーグ突破、史上初の8強入りが俄然現実味を帯びてきている。
初戦のロシア戦こそ硬さが見えたが、アイルランド戦とサモア戦では硬さも取れ、チームワークの良さが存分に発揮されたのではないかと思う。体格とパワーで劣る分をチームワークで補い互角以上に戦う、一言で言えばそんな戦い方だ。そしてもう一つ、高温多湿な日本の気候に慣れている、というのも大きなアドバンテージのひとつであろう。
史上初となる大会三連覇を狙うニュージーランドの監督は、圧倒的な強さを見せながらも、「湿気は信じられないくらいのひどさだった」と完勝したカナダ戦後に語ったという。BBCの「NEWS JAPAN」(https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-49914395)に依れば、日本の多湿対策として、ボールをシャンプーに浸したり、ベビーオイルにつけたりして練習を重ね、滑り易さ対策をしてきたチームもあるらしい。日本の湿気はそれほどまでにひどいのかと、耳を疑ってしまう。
がしかし、そこまで準備をしてきても、いざ開催してみるとパスのキャッチミスが目立つ試合が多いという。そうした状況を考えると、異常なほどのこの日本の高温多湿が、ひょっとしたら大事な試合を左右することになるかもしれない。ずっと日本に住んでいる我々からすると、今のこの時季は一時より随分過ごし易くなったと思っているのに、それでも高温多湿に閉口しているとなると、今より数段高温多湿な真夏に開かれる来年の東京オリンピックは、一体どんなことになってしまうのだろう。ラグビーが終わらないとオリンピックどころではないのだが、「シャンプーやオイルまで使って準備してきたのに…」となると、不安は増すばかりだ。そんな不安を一層掻き立てたのが、中東カタールの首都ドーハで6日まで開かれていた、陸上の世界選手権である。
このドーハでの世界選手権、開催前から懸念されていたのが、東京オリンピックでも懸念されている異常な暑さと湿気だ。日中の最高気温は40度前後まで上がり、余りの暑さに、街中を歩く人は少ないという。そんな条件下で競技をしなければならないのだから、他国の選手やコーチなどが不安に感じるのは当然だ。国際陸上競技連盟と現地の大会組織委員会はそうした不安の打ち消しに躍起になっている、と報じられていたが、始まってみると案の定不安は的中してしまう。
女子マラソンは、深夜に行われたにも拘らず途中棄権の選手が続出した。しかも、記録も相当低調だった。後日同じように深夜に行われた競歩でも、気温30度超、湿度70%超で高温多湿に苦しむ選手が目立った、と報じられている。恐らく、8月の東京も、昼間は似たようなものだと思う。
表-1は、気象庁の過去のデータから作成した、8月の東京における直近3ヵ年の「気温」と「平均湿度」の最高と最低を表にしたものだ。最低気温は25℃を下回る日も時にはあるようだが、最高気温は過去3年間いずれも35℃を超えている。最近熱中症予防として用いられることの多い「暑さ指数(WBGT)」に照らし合わせれば、8月に開かれる東京オリンピックでは、大まかに次の様な指針を示すのが良いのではないかと思う。「日中は原則屋外の競技禁止、朝と夕方も激しい競技や持久走などの禁止、そうした競技は日没から夜明け前にかけて行う」、である。その根拠は、下に示す表-2にある。
表-2は、環境省「熱中症予防情報サイト」(http://www.wbgt.env.go.jp/wbgt.php)に掲載されている、「運動の指針」から抜粋したものだが、これを見ると、ほぼ確実に気温が30℃を超えるであろう日中は激しい競技を避けるべきだ、ということが分かって貰えると思う。また、私は毎朝7時20分ごろ家を出るのだが、8月は殆ど毎日、既にその時点で車の温度計は25℃を超え、30℃近くになっている。中には、30℃を超えている日さえある。
それを考えると、命の危険さえあるのではないかと心配されているマラソンは、男女とも当初の計画から1時間早めて午前6時スタートとはなったが、気温の上昇に向かって走っていくスタイルは如何なものだろう。ゴールの時間帯は8時を過ぎることから、30℃を超えている可能性が極めて高い。湿気も半端ではない。いっそのこと、涼しくなっていく19時頃のスタートに変えられないものだろうか。もっと言えば、前回の東京オリンピックと同じように10月の開催、というのが一番理にかなっていると思うのだが…。
しかし、第784話「日本で開くオリンピックなのに…」でも書いたように、東京大会のテレビ放映権をアメリカの放送局NBCが落札していて、開催時期も競技時間も放映権者の意向が強く反映されることになっている。したがって、純粋にアスリートファーストの立場で意見を言っても、おいそれと通る見込みはない。実におかしな話である。事故が起こってからでは遅いのに…。
なお、暑さ指数(WBGT)とは、人間の熱バランスに影響の大きい、「気温」、「湿度」、「日射・輻射熱など周辺の熱環境」の3つの要素を取り入れた温度の指標で、【暑さ指数=気温の効果:湿度の効果:輻射熱の効果=1:7:2】の比率で算出されるものらしい。興味のある方は、上記サイトに詳しく書かれているので、覗いて見ていただきたい。
【文責:知取気亭主人】
キンモクセイ
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