2019年11月6日
その昔、「おそ松くん」という人気漫画があった。当時の子供に絶大な人気があり、私も学生の頃よく読んでいた。登場人物の一人であるイヤミが見せる「シェー!」のポーズは、一世を風靡し、50年以上経った今でも、時々テレビでこのポーズをするお笑い芸人を見かけるほどだ。その「おそ松くん」、一度聴いたら忘れられない秀逸なネーミングだと思っている。恐らく、「お粗末な事をしでかすキャラクターたち」の意味が込められていたのではないかと思う。とにかく、支離滅裂のドタバタ劇を繰り返すギャグ漫画だから、そんな風に思い込んでも不思議はなのだが、最近報じられたニュースを聞いていて、どうした事か突然「おそ松くん」を思い出した。漫画の題材にしてもいいような“お粗末なお話”が続いたから、なのかもしれない。何しろ、関係者ばかりでなく、世の中の多くの人が唖然としてしまう、とんでもなくお粗末なお話だからだ。
具体的な話に入る前に、本家本元の「お粗末」の意味をおさらいしておく。手元にある旺文社「国語辞典[第八版]」(1992)では、「質が悪く、不手際なものを皮肉ったり、謙遜・自嘲などの気持ちをこめて言う語」と説明されている。後半の「謙遜・自嘲など…」とは、手土産などを『お粗末な物ですが…』と言いながら差し出す時の使い方を指している。それ以外は、「質が悪く、不手際なもの」を指していて、今回の「お粗末な顛末」も全くもってその使い方をしている。
さて、そろそろ本題に入ろう。話題は二つあって、一つ目は、来年の東京オリンピック(以降、東京五輪)でのマラソンと競歩の開催地変更問題だ。この四方山話でも何回か取り上げたし、関係競技団体からも、早くから暑さに対する懸念の声が出ていた。にも拘らず、敢えて言うならスポンサーの“我が儘”(意向とも言う)を押し通し、懸念の声には耳を貸すことなく真夏のレースを強行しようとしていた国際オリンピック委員会(IOC)が、開催まで9カ月を切るこの時期になって突如、開催地変更を決めた。準備に奔走する開催地のことも、夏の東京に照準を合わせてきた選手のことも、蚊帳の外に置いて。
報道によれば、来日したジョン・コーツIOC調整委員長は「アスリートの健康のため」と強調していたそうだが、ドーハで行われた世界陸上の想定外の酷い状況を見て危機感を抱いたのは、紛れもない事実だろう。気温が30℃を優に超え、湿度が極めて.高い状況の中で激しい運動をすれば、トップアスリートといえども命の危険があることは、やる前から分かっていたことだ。そういう意味では、夏のドーハで強硬開催した世界陸上のお偉方も、アスリートファーストとは程遠い。
思い返せば、2020年のオリンピックが東京に決まった時から、真夏での開催を懸念する声は上がっていた。日本の真夏を知っている人なら、「8月にオリンピックをやろう」なんて言わないからだ。私のみならず、多くの日本人は、「何故前回と同じ10月にやらないだろう」と思っていた筈だ。去年の7月の第784話「日本で開くオリンピックなのに…」で、巨額の放映権料で競技時間さえ思いのままにしてしまうテレビ放送局のことを書いたが、“開催時期の見誤り”から始まって、開催都市東京との事前協議をすることなく突然浮上したマラソン・競歩開催地の変更、この呆れた顛末、お粗末以外の言葉が思い浮かばない。近代オリンピックを提唱したクーベルタンが知ったら、一体何というだろう?
もう一つの「お粗末な顛末」は、大学入学共通テストへの英語民間検定試験の導入についてだ。こちらも随分前から民間試験の導入が決まっていて、実際の運用も目前だったのに、文科省は、突然来年度からの実施を延期すると発表した。同省の船頭である萩生田光一大臣の「身の丈に合わせて頑張って」の発言が引き金になったのか、何の前触れもなく突然発表された。尤も、“準備不足が露呈した身の丈に合った決断”だった、と言えなくもない。
元々、受験料や試験会場への交通費などの費用負担が大きいといった問題に加えて、同じ条件下で行われるべき共通テストに難易度の違う民間の検定試験を導入しようとしたこと自体、早くから問題視されていた。結果的に、導入を見送る大学が多く、11月4日付の日本経済新聞によれば、初年度(2020年度)の入試で利用する予定だった四年制大学は、538校と全体の7割ほどだったという。また、採用試験の対象となった日本英語検定協会などの事業者側から、試験会場などの詳細な情報が10月になっても公表されなかったことなどに、不満と不安が高まっていた矢先だったという。
それにしても、“やるものだ”として準備してきた多くの受験生(50万人以上に上るらしい)にとって、寝耳に水とはこのことだ。「今更何寝言言っているんだ!」と、怒りの一言が聞こえてきそうである。
導入を発表した時から問題が指摘されたにもかかわらず強硬に突っ走り、土壇場に来て当初計画を変更する、そのお粗末な顛末は先のオリンピック問題と見事なまでに重なってしまう。やはり、アスリートや受験生がなおざりにされた結果であることは、疑いようがない。本当にお粗末な話である。
【文責:知取気亭主人】
お向かいの菊師匠によれば、今年の育ちは悪天候の影響で散々だという。 大きくならず、綺麗に開いてくれない(これを“暴れる”と言う)らしい。
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