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知取気亭主人の四方山話
 

『生涯現役』

 

2019年11月13日

我々高齢者の周辺が、何かとかまびすしい。やれ「年金生活に入って老後破綻しないためには2000万円必要だ」とか、「やがて人生100歳時代を迎えるから70歳までは働かないといけない」とか、「イヤイヤ後期高齢者などと失礼なネーミングをしてしまって申し訳なかったが、せめてその75歳ぐらいまでは働いてもらわないと」だとか、我々高齢者からの声というよりは、外野からの「年金制度の破綻を防ぐためには」という視点からの声が、耳障りになるくらい頻繁に聞こえてくる。

「いらぬお世話だ!」と啖呵を切ってやりたいが、残念ながら、威勢よく言い放ったとしても尻すぼみになってしまいそうだ。と言うのも、我々自身が「できるだけ長く働いていたい」と思っているからだ。「体が動くうちにリタイアして老後はのんびりと暮らしたい」と常々思っていた私も、齢を重ねる度に「より長く」の思いが強くなってきた。背景には、長生きになった故の悩みが、ハッキリと見えるようになってきたからだ。特に、同年代の友人たちと久しぶりに会って近況報告を交換し合うと、その思いは尚更強くなってくる。つい先日も、そんな思いを再認識した集いがあった。

ここ1ヶ月の間に、2回、同年代の友人たちと会う機会を得た。1回目は大学時代の友人たちと私を含め6人で、2回目は高校時代のクラブの仲間たちと10人で、昔話に花を咲かせる機会に恵まれた。集まった仲間は、数え年で言えば全員が70歳以上である。70を過ぎた男が集まれば、卒業以降に過ごした時間や場所が違っても、必然的に似たような話題に落ち着いてくる。今どんな状態にいるかという意味でお互いを直ぐに理解できるのは、何といっても健康に関する情報だろう。

これまでにこんなひどい手術をしたとか、こうして治したとか、あるいは血液検査の値はこうだとか、今こんな薬を飲んでいるとか、同級会の筈なのに、一旦その話題に入ってしまうと、いつの間にやら“病歴の自慢話をする会”と化してしまう。それほど、この歳になると、ほぼ全員が何らかの病を抱えている。まったく病院の厄介になっていない仲間は、殆どいない。いたとしても、もう病院通いをやめてしまった、という手合いが多い。ガン、高血圧、糖尿病、心臓疾患など、その病歴は様々だ。ただ、共通して多いのが、前立腺肥大に伴う頻尿の悩みである。

夜に何回トイレに起きるとか、どんな薬を飲んでいるだとか、たわいもない話題のように聞こえるが、罹患したことのある者にとっては、結構深刻な悩みなのだ。高校時代の仲間の中には、男性用の尿漏れパットを体験した者までいた。その彼曰く、パットに使用している薬剤と尿とが化学反応を起こすためなのか、近くに来た人でも分かる位の嫌な匂いがして、直ぐに使うのをやめたという。今も頻尿の悩みは抱えたままでいるため、自分の都合でトイレに行けないバス旅行などは、大の苦手だという。その声に、多くの仲間が「分かる!」と賛同の声を上げた。もう一つ、賛同の声を挙げた話題があった。「生涯現役」である。

ほぼひと月の間に都合14人の仲間と会ったが、全員に共通していたのは、常勤や非常勤、或いは自営業など、働き方はそれぞれ異なっていても、いまだに働いているということである。仕事の内容も、これまでの仕事を延長して働き続けている者、リタイアして全く別の職業に再就職した者、最近になってパートを始めた者など、様々だ。詳しくは聴いていないが、その経緯や目的、或いは思いも様々らしい。しかし、そうした思惑は個人個人異なっていても、どうやら、“老いへの抗い”と“認知症になるのではないかという不安”は、全員が共通して持っているらしい。

この歳になると、ほぼ全員が自分の親を見送っていて、その時の体験が、上記の“抗い”と“不安”に引き継がれているのだろう。私もそうだ。ただ、“老いへの抗い”、中でも体力的な衰えは、歩いたり運動したりすることで、何とか遅らせることはできる。実際、どれ程の効果があるのかこれから徐々にその効果が表れてくるのだとは思うが、私も日々僅かばかりの努力を重ねている。ところが、認知症の方は、個人の努力では如何ともし難いところがある。そこが、不安を駆り立てる要因になっているのだ。では、そうした不安を払拭する方法はあるのだろうか。そんな特効薬は情報すら知らないが、不安を和らげる方法ならある。「生涯現役」である。

認知症特集のテレビ番組で良く見るのが、認知症対策として有効なのは幾つになっても「必要とされている」とか「人の役に立っている」とかを感じることだ、という情報だ。そうした充実感を味わうこと、それこそが先の不安を和らげる方法でもある。そして、それを具現化できるのが、「生涯現役」という訳である。それまでは世界各地でスキューバーダイビングを楽しんできたという仲間は、そうした事に気付いて、ダイビングは封印し2年ほど前から区役所の非常勤職員をするようになったという。また、違う仲間は、しばらく前からいろいろなボランティア活動に精を出しているという。いずれも、「必要とされている」という充実感を感じるためにやっているのだという。

必要としてくれるのが、家族なのか、会社の仲間なのか、或いは地域の人たちなのか、そうした違いこそあれ、この世に生まれた限り、幾つになっても必要とされる現役選手でいたい、というのが人情だ。粗大ごみ化しないためにも、「生涯現役」は貫きたいものである。


【文責:知取気亭主人】


もう立冬過ぎたよ!
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