いさぼうネット
賛助会員一覧
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
知取気亭主人の四方山話
 

『きょうそう曲』

 

2020年3月4日

クラシックギターをつま弾いたことのある人なら、一度は弾いてみたいと思った曲が一つや二つはあるものだ。学生寮で同室になった先輩が弾いているのに憧れて、入学早々なけなしの金を叩いて安物のギターを買った私にも、ぜひマスターしたいと思った曲がある。「禁じられた遊び」と「アルハンブラの思い出」だ。どちらも、クラシックギターの曲としてはメジャーな曲で、恐らく初心者の誰しもが憧れる名曲だと思う。

遊んでいるうちに「禁じられた遊び」は多少つま弾けるようになったのだが、そのうちにギターよりもアルバイトとパチンコの方が忙しくなり、「アルハンブラの思い出」はついぞ弾けないまま、埃を被ってしまった。そしてもう一曲、「弾いてみたいけど手は出せないな」と早々に諦めた、大好きな曲がある。アランフェス協奏曲である。ギター協奏曲ではあるが、トランペットで演奏されたり、映画音楽に使用されたりして、ポピュラー音楽としても知られている。

交響曲に比べると耳慣れないこの協奏曲、オーケストラとソロの楽器による演奏のことで、イタリア語で「コンチェルト」と言うらしい。ソロの楽器が奏でる主旋律によって作曲者の曲に込めた思いが聞き手に届くことになるのだが、私には交響曲よりも聴きやすく、耳に馴染みやすい。時間が許せばじっくりと聞いていたい曲も多い。しかし、同じ響きの「きょうそう曲」でも、今巷で大流行している「新型ウイルスによる狂騒曲」はいただけない。聞き手の胸に湧き上がるのは、感動などとは程遠い、不安と疑心暗鬼ばかりだからだ。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、ついひと月ほど前まで対岸の火事を決め込んでいた一般市民に、“ヤバイかも知れない”との不安が徐々に広がり始めている。2月27日(木)に政府が唐突に打ち出した小・中・高の春休みまでの臨時休校要請や、講演や学会、果ては入・卒業式や入社式などの集会の自粛要請などが、その不安に追い打ちをかけている。暴動こそ起こっていないが、市民生活は、大げさではなく蜂の巣をつついたような状態になっている。特に、小さな子供たちを抱える共稼ぎ夫婦や、単身赴任家族など一人で子育てをしている親、更には受験生にとっても、青天の霹靂だ。人々の活動が抑制され、それに伴う経済活動の停滞で、企業が受けるダメージも深刻になる一方だ。特に、中小企業にとっては死活問題となっていて、倒産を余儀なくされた企業も出始めている。

また、報道から伝わってくるのは、休校要請を受けた地方自治体や先生方の戸惑いだ。「政府の要請だから…」と責任を放棄した学校や先生はさほどでもないだろうが、子供たちのことを第一に考えている先生たちは、真剣に頭を悩ませていることだと思う。何しろ、余りにも突然すぎる。息子夫婦もそうだが、学童クラブを利用したり、特別支援学校に通わせている児童がいたりすると、困惑するばかりである。我が家も小学3年生以下の幼子を三人抱えていて、7時のニュースを聞きながら、急遽家族会議をしなければいけなかった。週明けの月曜日になって小学校と学童クラブから臨時休校に関する書類が届いたが、やはり腑に落ちる様な書き方ではない。教育現場からしたら「唐突過ぎる」ということなのだろうが…。

不安を抱いているのは、子育て世代や学校関係者ばかりではない。多くの一般民も不安に駆られていて、それは買いだめとなって表れている。店頭からマスクとアルコール消毒液が早々に消えた。あろうことか、今回の新型コロナウイルスに全く関係がないトイレットペーパーとティッシュも、拡散されたデマによって店頭から消えた。トイレットペーパーがこれほどバカ売れしたのは、昭和48年に起こったオイルショックの時以来だろう。あの時も確かに店頭から消えた。実家に帰った時に、母親が押し入れの中にごっそりため込んでいるのを見て驚いたことがある。あれ以来の珍事だ。珍事といえば、家電メーカーのシャープが、政府の緊急要請を受けマスクの生産を始めるという(2月29日、日本経済新聞)。そんなニュースを聞くと、やっぱり足りないのか、と一層不安になってしまう。

そうした不安心理による買いだめ行動は、日本中に広がり始めている。外出の自粛要請ということもあって、インスタントラーメンや米、或いはパスタや缶詰などの食料品にも及んでいるという。ただ、かく言う私も、こうした行為を「浅ましい」と一言で片づけるほど人間はできていない。今は冷静でいられるものの、イザとなったら買いだめに走るかもしれない。恐らく、不安心理はそこまで人間を追い詰めることになるのだと思う。そんな不安心理を突いて、大量に買い占めて高額で転売する、そんなあこぎな真似をする輩もいる。また、こうしたことが起こると必ずいるのが愉快犯だ。デマを拡散して人知れず笑っている。嘆かわしい限りである。

しかし、どれもこれも「新型コロナウイルス狂騒曲」のなせる業である。冒頭のアランフェス協奏曲は、スペイン内戦で荒れ果てたスペインと古都アランフェスの平和への想いを込めて作曲されたと言われている。我々も一度心を落ち着かせ、終息宣言が一日も早く出せる様にとの思いを込めて個々人が徹底して感染予防に努めることが、聴きたくもない狂騒曲を終わらせる最善の手立てなのではないだろうか。


【文責:知取気亭主人】


大手スーパーの棚から消えたトイレットペーパーとティッシュ
大手スーパーの棚から消えたトイレットペーパーとティッシュ

Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.