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知取気亭主人の四方山話
 

『予言』

 

2020年4月1日

今日は4月1日、世に言うエイプリルフールである。この面白い風習に関しては、アメリカのラジオ番組で「火星人が地球に攻めてくる」という冗談を放送したところ、真に受けた市民がパニックに陥ったという有名な話がある。そこまで手の込んだ冗談は如何なものかと思うが、この日だけは軽い嘘なら許される、とされている。世界中がそうなのかは知らないが、少なくとも日本では広く知られている事だ。「それに絡めて今回の話は…」と言いたいところだが、意図した嘘はこの場に馴染まない。そこで、嘘であって嘘ではない実しやかなSF小説を紹介したい。併せて、予言書として、ある研究報告書も紹介したい。

ある事が起きる前に予測して言う、「予言」という言葉ある。予言の内容がその時代の知見では余りに荒唐無稽だと、例え科学的根拠があったとしても、嘘として取り合ってくれない場合がある。有名なところでは、天動説が信じられていた時代に唱えられた地動説などがその典型例だろう。他方、科学的根拠は乏しいのに、「ノストラダムスの予言」の様に、(日本だけかも知らないが)多くの人に興味を持ってもらえるものもある。そうした有象無象も全て含めて「予言」だと定義すれば、将来こういう事が起こるであろうとか、或いはこういう事が起こったら面白いな、という視点で創作されたSF小説や漫画や映画なども、「予言」の範疇に入るのかもしれない。例えば、アイザック・アシモフや手塚治虫、或いはアーサー・C・クラークなどが描いた未来の世界は、予言の代表と言えるのだろう。

今のコロナ騒動に関しても、地動説に当たる科学的な研究報告もあれば、予知していたのではないかと思えるようなSF小説もある。研究報告は今回の流行を予見して注意喚起をしていたという点では紛れもない予言書であるが、小説の方は読んだ人の主観に依るところが多く、予言だと言い切るには悩ましい。しかし、今回紹介する小説は、同じウイルスを題材にしていることや、今の騒動と重なるところが多々あることから、預言書の範疇に入るだろうと思っている。どちらも予言書だとして、まず研究報告から紹介しよう。

3月24日の日本経済新聞朝刊の「真相 深層」欄に、『コロナの「予言」生きず』のタイトル記事が載った。2年前の2018年に米ジョンズ・ホプキンス大学がまとめた研究報告書『パンデミック病原体の特徴』が、今起きていることの多くを予想していたというのだ。呼吸器系に感染して、症状が軽いのに感染力がある、コロナウイルスなどに注意を…、と書かれていたらしい。正に、今回の騒動の犯人であるウイルスを的確に言い当てている。

ところが、こうした研究報告があったにも関わらず、その警告は生かされなかったという。花形の研究ではない、というのが根底にあるらしい。特に日本はこうした分野の研究で欧米に比べて見劣りしていて、この報告書作成に当たり聞き取り調査をした120人以上の専門家の中に日本人は含まれてない、というから心配になってしまう。日本では感染症の研究は民間任せのところがあって、現在取られている対策も台湾やドイツなどの後塵を拝していると思えるのも、そうした理由からくるのだろう。まことに心細い限りである。

と愚痴ったところで、さて小説だ。今回紹介する小説は、『日本沈没』で有名な小松左京の『復活の日』(角川文庫、改版、平成30年)である。初版は昭和50年(1975年)とあるから、45年も前に書かれたものだ。ネットに「コロナ騒動の予言書」として紹介されていることを知り、早速買い求めて読んでみた。凡そ半世紀も前に書かれた、コロナ騒動と同じ「バイオハザード(微生物災害)」を扱ったSF小説だが、今の騒動と重なるところが可成りあり驚いている。予言書として紹介されているのも頷ける。ストーリーをかいつまんで説明するとこうだ。

宇宙空間に漂うウイルスから作られた細菌兵器が、イギリスの軍事施設で秘かに開発された。この細菌兵器を持ち出そうとした飛行機がアルプス山中に墜落し、カプセルが破損してしまう。そこから、原因不明のポックリ病が静かに広がっていく。このウイルスは、宇宙空間から採取されていたこともあり、紫外線に強く、特効薬を開発することもできずに瞬く間に広がり、世界中を恐怖に陥れる(今回の世界の混乱ぶりを文字に起こしたような臨場感だ)。4月に発災したその疫病は、僅か数か月後の夏には全世界を壊滅させ、極寒の南極大陸に残された1万人足らずが人類唯一の生き残りとなってしまう。残された1万人とは、各国が南極大陸に設置した基地の隊員たちである。勿論、日本の昭和基地も登場する。

エピローグも良い意味で期待を裏切ってくれる。壮大なのだ。冷戦時代に米ソが配備した核爆弾が誤発射され、両陣営に着弾してしまうのだが、どちらも中性子爆弾であったことが幸いして、「成す術無し」と思われたウイルスが中性子によって死滅していく。年月が経ち、やがて南極に残された最後の人類が、南米大陸へと旅立っていく。まるで我々の祖先がアフリカを旅立ったのと同じように…。

以上が大まかなストーリーだが、未知のウイルスに翻弄される姿は、今の我々そのものだ。そして、凶悪なウイルスが音もなく広がっていく様は、新型コロナの感染拡大を見ているようだ。また、「非常事態宣言」を出すかどうかで迷っている官邸の姿は、今の安倍内閣と重なってしまう。予言書なのか否かは読者に任せるとして、自宅にいることの多い今、是非お勧めしたい一冊である。


【文責:知取気亭主人】


復活の日 「復活の日」

【著者】 小松 左京
【出版社】 KADOKAWA
【発行年月】 2018/08/24
【ISBN】 978-4041065815
【頁】 464ページ
【定価】 760円 + 税

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