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知取気亭主人の四方山話
 

『伝える難しさ』

 

2020年8月19日

今年も8月15日がやって来た。「日本人には忘れてはならない日が四つある」とされているが、8月15日は、その四つ目の最後の日、終戦記念日である。因みに、残りの三つは、一つ目が6月23日の沖縄慰霊の日、二つ目が8月6日の広島に原爆が投下された日、三つ目は8月9日の長崎に原爆が投下された日である。いずれも、平和への願いを込めた戦没者追悼式典が執り行われる、日本人にとっての鎮魂の日である。

これらの日は、第831話『忘れてはならない日』でも取り上げたが、タイトルの通り日本人にとって決して忘れてはならない日だと、私も思っている。「もう二度と戦争はしません」の決意を新たにする、絶好の機会だからだ。ところが、今年で終戦から既に75年。戦地の惨状を実体験した人は勿論、終戦間際の国内の惨状を経験した人でさえ鬼籍に入る人が多くなり、戦争の恐ろしさを語り継ぐ人が減っていると聞く。今の平穏な暮らしに比べると、そのあまりに過酷な体験を、体験者自らが自らの言葉で語るからこそ、未体験者の心にも響き不戦の誓いが生まれるのだが、それができなくなりつつあるという。いずれ伝える人がいなくなってしまう。こんなことで良いのだろうか。今の世界情勢を俯瞰すると、とても不安になる。戦時中や終戦前後の惨状や凄惨な体験を、事あるごとに伝えてきたからこそ、戦争を体験していない我々でも平和のありがたさを実感出来てきたのに、である。

市井の人々もそうだが、政治家にも、先の大戦の経験者はどんどんいなくなっていく。NHKラジオで、大物政治家が「我々戦争体験者がいる間は大丈夫だが、いなくなったら心配だ」と語っていたと聞いたことがあるが、その通りだと思う。戦争を体験した政治家たちは、政治信条こそ違え、また手法や方法は違えども、何れも戦争への動きにブレーキをかけ続けてきたのだと思うし、そう信じてもいたい。しかし、今の国政にそうした国会議員は見当たらない。理由は、冒頭で述べた通り高齢化である。

体験者として悲惨さを語り伝えることができる年齢は、戦時中の記憶が残っているギリギリの年齢(私の体験からすると、5歳ぐらいからの記憶が少しずつ残っている)からすると、恐らく今の80歳以上になってしまうだろう。もっと鮮明な記憶が残っている年齢になると、更に高齢になる。それは、戦争に駆り出されたという確かな記憶を持っている、学徒動員により軍需工場などで働いた経験がある人達だ。学徒動員は今でいう中学生以上からだったとされているから、ほぼ88歳以上になってしまう。更に、学徒出陣で実際に兵士として戦に加わった経験がある人の年齢だともっと高齢化は進み、確実に90歳を超えてしまっている。ところが、今の国会議員の最高齢でさえ、日本維新の会の片山虎之助議員の84歳だというから、終戦当時は僅か9歳だったことになり、戦地での体験は恐らく無い。こうして考えると、ブレーキ役を果たしてきた国会議員は、やはりもういないのだ。

しかし、伝える手段が無い訳ではない。ドキュメンタリー映像・映画であったり、体験を綴った本であったり、紙芝居であったり、反戦映画や劇であったり、或いは戦争遺跡であったりと、手段は色々ある。ただ、体験者の実体験に基づく語りに勝るものはなく、こうした戦争資料もやがて色褪せてしまう。また、色褪せないとしても、それを保存管理していくことは大変だ。お金も必要だし人の手も必要である。それらを保管する施設も必要だ。そして何より、“未来の子供たちのために後世に伝えていこうとする情熱”が必要不可欠だ。

ところがそうした情熱は、必然的に当事者が一番持っていて、代が移っていくに従い薄れていくものだと思う。残念だけれども、それは仕方がないことでもある。その薄れていく情熱を再び高めたり、無関心な人の心に関心を呼び起こしたりするためには、先に述べた資料を色褪せないようにする工夫が必要だ。そのためには、政府など行政の保護も必要になってくる。しかし行政は、そうした保護活動に及び腰らしい。

8月15日の日本経済新聞(以下、新聞)に、『戦争遺跡 進まぬ保存』と題する記事が載った。新聞では、戦争史跡を「無言の語り部」として捉え、文化財保護の視点で記事が書かれている。それによれば、国内の戦争遺跡は数万か所に及ぶとされているのに、2019年7月の時点で、国や自治体が文化財として登録・指定されているのは、僅か296件に過ぎないという。時々ニュースでも取り上げられ全国的にも知られた、「松代大本営」すら指定されていないという。「松代大本営」は、本土決戦に備えて、決戦指揮の中枢を守るために、現長野県松代町に建設された地下壕などの地下軍事施設群を指すもので、戦争遺跡としては極めて重要だと思うのだが、行政の保護の手は差し伸べられていないらしい。

しかも、文化財として保存するための調査に至っては、47都道府県中僅か7県しか実施されていないという、極めて残念な状態となっている。“お国のために”と戦い、“お国のために”と苦難に堪えたのに、その痕跡を保存していくことに、どうも国は消極的だ。新聞によれば、文化財を所管する文化庁の立場は、「調査・保存の判断は、地元でやってほしい」とのことらしい。戦時中の何もかにもが“お国のため”だったのに…。

こうしてみると、戦争の悲惨さや理不尽さを伝えていくのは本当に難しい。戦争は二度と起こさない、という強い意志を持った政治家が増えてくれるのを望むばかりである。

さて、今回も最後に、ジョンズ・ホプキンス大学の集計データを記載しておく。日本時間の8月19日午前3時現在、世界の感染者数は2195万人を、死者数は77万人を超えた(NHK NEWS WEB)。どれだけ犠牲者が出れば治まるのだろう? 考えただけでも気が滅入る。

【文責:知取気亭主人】


サナギ、見つけたかも!
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