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知取気亭主人の四方山話
 

『風船爆弾』

 

2020年9月2日

8月30日、新型コロナウイルスによる世界の感染者数が2,500万人を超えたという。7月22日のこの四方山話第887話で、「日本時間の7月22日午前3時現在、これまでの感染者数は1,477万人を、死者数は61万人を超えた」と書いているから、ざっくりだが凡そ40日間で1,000万人増え、単純計算すると毎日25万人増え続けたことになる。年末まで残り凡そ120日、このままのペースでいくと、恐ろしい事だが更に3,000万人も増える計算だ。総計すると5,500万人、下手をすると6,000万人を超えるかもしれない。

また、毎回引用しているジョンズ・ホプキンス大学のデータによれば、日本時間9月2日午前3時の時点で、「世界の感染者数は約2,556万人、死者数は約85万人」(NHK NEWS WEB)とあるから、計算される致死率は約3.3%となり、2020年末での死者数が200万人を超えると言われても、さして突拍子な数値とも思えない。しかも、北半球が冬を迎える頃には日本や欧米などで再び大規模感染が起こるのではないかと言われていて、まだまだ予断を許さないのが実情だ。そうなっては欲しくないが、ひょっとすると、春頃には感染者数1億人、死者数300万人などの、驚くべき数字が飛び交っているかもしれない。

世界を震撼させているこの新型コロナウイルス、トランプ大統領や一部の人から、「中国が秘かに開発していた生物化学兵器を撒いたものではないか」とか、「誤ってその生物化学兵器が漏れてしまったのではないか」など、実しやかな話が出回っている。兵器の一つとしてペスト菌や炭疽菌などの危険生物を使うのは、太平洋戦争中の日本軍でも「731部隊」が生物化学兵器を研究・開発していたことでも知られていて、国際条約では禁止されているものの、実際には、テロ対策もあって今も各国で研究されているのが実情だろう。もう25年も前になるが、オウム真理教が惹き起こした松本サリン事件と地下鉄サリン事件、更には数年前に北朝鮮の金正男氏がVXガスで暗殺された事件からも、そうしたことはうかがえる。

今回の新型コロナウイルスがそうした生物化学兵器であったかどうかについては詳しい方(?)に譲るとして、国際条約で禁止されていることから分かるように、(人間を殺める兵器に人道的、非人道的な区別があること自体おかしな話だが)生物化学兵器は非人道的な兵器であるとされている。ところが、太平洋戦争末期に、当時の女学生が関わった日本の“ある兵器”にもそうした生物化学兵器の使用が検討されていた、と知って驚いている。アメリカの報復を恐れて使用には至らなかったものの、検討はされたらしい。

その情報を教えてくれたのは、潮ジュニア文庫の高橋光子著『ぼくは風船爆弾』(潮出版社、2018)である。8月11日のNHKラジオ(第一放送)で放送された風船爆弾に関する話題を聞いて、あれこれ調べて辿り着いた(購入できた)本だ。著者の高橋光子氏は、正にラジオから流れていた愛媛県の川之江女学校に在籍していた一人で、実際に風船爆弾作成に従事されていた経験があり、この本は自身の実体験に基づいて書かれている。小説の体裁で書かれてはいるが、内容は殆どノンフィクションだろう。

本書は、少年少女向けに書かれた小説である。小学校高学年でも読めるようにと、漢字にはルビが振られていて、子供でもすらすらと読めそうだ。風船爆弾を擬人化して一人称の「ぼく」と表し、女学生の手で風船爆弾が作られるところから、完成し箱詰めにされた後、茨城県の大津海岸に設営された「放球基地」から放たれ、その後偏西風に乗ってアメリカ西海岸にたどり着き、「オレゴンの悲劇」と呼ばれる“戦果”を挙げるまでの物語を、「ぼく」が語っている。短かった夏休みは既に終わってしまったが、折を見ての読書感想文用にお勧めの一冊である。親子で読み、戦争について語り合う良い教材になると思う。何しろ実体験の書である。古希を過ぎた私でも初めて知ることばかりの内容だ。

風船爆弾については、そんな兵器がアメリカ本土を狙って作られ、飛ばされたことは知っていた。ただ、詳しいことも知らず、当時の敵国アメリカと日本の国力の差を客観的に知っているからこそではあるが、武器として真剣に“竹やり”訓練をしていたのと同じように、荒唐無稽なことを考える人たちがいたものだと、半ば呆れ、半ば感心していた。しかし、その詳細について、例えば“作り方”や“大きさ”、どうやって飛ばすのか、そして実際アメリカ本土まで到達したのか、戦果はあったのか等々、殆ど知らないことばかりだった。さらに言えば、学徒動員により作成に携わった女学生の、心の声も聴いたことがなかった。そうした“知らなかったこと”や“聴いたことがなかった全て”が、本書には書かれている。

本書によれば、風船爆弾は、楮(こうぞ)の木から漉いた丈夫な和紙を、コンニャクイモで作った“コンニャク糊”を接着剤として何枚も張り合わせて直径10mの風船を作り、耐水性を高めるために油を塗り、これに水素ガスを充てんして、焼夷弾と爆弾を吊り下げたものだったという。今から考えれば「何と稚拙な!」とは思うが、手に入れられる資源で考えられた精一杯の兵器だったのだろう。それを思うと悲しくなって来る。終戦までに9300個が放球され、アメリカ、カナダ、メキシコで確認されたのはたった361個だったという。そのうちの1個が、先の「オレゴンの悲劇」と呼ばれる“戦果”を挙げた「ぼく」である。日曜学校の5人の子供たちと、妊娠5か月の牧師の奥さんの計6人が犠牲になった。現場には、ミッチェル・モニュメントと呼ばれる記念碑が建てられているという。忘れないためだ。

日本でも数多くの市民が犠牲になった。忘れないようにしているのは、敵への憎しみではなく、戦争の悲惨さ、戦争を始める愚かさであってほしい、と願うばかりである。


【文責:知取気亭主人】


ぼくは風船爆弾 「ぼくは風船爆弾」

【著者】 高橋光子
【出版社】 潮出版社
【発行年月】 2018/10/20
【ISBN】 978-4267021589
【頁】 208ページ
【定価】 926円 + 税

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