いさぼうネット
賛助会員一覧
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
知取気亭主人の四方山話
 

『意図』

 

2020年9月16日

9月10日の「Yahoo!ニュース」(https://news.yahoo.co.jp/)を見ていたら、驚きのキャッチコピーが目に飛び込んできた。「本庶佑氏、22億円申告漏れ」というものだ。見た瞬間、「えっ、あの本庶氏が」と、我が目を疑った。ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑(ほんじょたすく)・京都大学特別教授が“所得隠しをした”、と深読みしたからだ。しかし、記事の中身を読んで、深読みは杞憂にであったことを知り、何となくホッとしている。所得隠しや脱税などの悪意があってのことではない事が、本文には明瞭に書かれているのだ。ところが、読んでいるうちに生来のへそ曲がりが、ムズムズと頭を持ち上げてきた。「だとしたらもっと違う表現をするべきではないのか」と、キャッチコピーの表現にいささか不満を覚えたのだ。“キャッチコピーから感じ取れる記事の内容”と“実際の記事の内容”が微妙に違う、と感じたからだ。

キャッチコピーは、一瞬で人の注意を引き付けることが求められている。それは分かる。しかし、キャッチコピーだけ見て、中身を読まない人も大勢いるだろう。他のキャッチコピーと一緒に並んだ中にくだんの文言を見つけた時、一瞬ではあったが、私もその部類に入りそうになった。そうした人達にとって、小野薬品工業(以下、小野薬品)とオプジーボに関する特許の使用対価で争っている、「ノーベル賞受賞者の“あの本庶氏”が所得隠しをした」とも取れるキャッチコピーは、強く印象に残ったに違いない。しかも、悪い印象として。その上、SNSなどで事実を確認もしないで噂だけで批判めいた情報を拡散する人たちが引きも切らないことを考えると、キャッチコピーとは言え、もう少し書き方に工夫が必要だったのではないか、そう思えてしまう。

例えば、「本庶佑氏、申告漏れを指摘される」とか、「本庶佑氏、供託金も課税対象と指摘される」などと書くことだ。こうした表現だと、敢えて金額を書いていないから、本文を読まないと何のことだか分からない。「22億円の申告漏れ」という文言だけに飛びついて、事実も確認しないで拡散する手合いには、本文を読まざるを得なくする有効な書き方だと思うのだが如何だろう。こう書いてあれば、私も躊躇することもなく本文を読んだと思う。

その問題の記事本文の概要はこうだ。「本庶氏と小野薬品との契約では、オプジーボの特許使用対価として販売額の一部を支払う内容であったが、本庶氏は、対価が低すぎるとして受け取らなかった。このため、小野薬品は対価を法務局に供託していたところ、国税局はこの供託金も本庶氏の所得になると判断したとみられる」というものである。しかも、税理士、弁護士とも相談の上、既に修正申告をし、納税も済ませている、とある。

だとすると、ここで読者に伝えるべきは、「ノーベル賞をもらう様な立派な学者が、22億円もの巨額な申告漏れをしていた」という、やや批判的でミーハー的な話題ではなく、「受け取りを拒否しているのに、供託されている金も所得と判断され、課税対象になる」という国税庁の判断の方であるべきだと思う。税理士と弁護士も納税した方が良い、と判断したのだから、“国税庁の判断は税法上特に問題なし”ということなのだろうが、「受け取ってもいないのに所得になるのか?」位の疑問を呈しても良かったのではないか、と思う。でも、そう書かなかった。それは何故か?

この辺りになると私の推測ばかりになってしまって申し訳ないが、恐らくだが、「金額を明示しないで『…指摘される』と書くより、『本庶佑氏、22億円申告漏れ』と書いた方が、インパクトがあって人目を引くし、第一間違ってはいない」、と判断したのだと思う。「間違ってはいないのだから、読者がどう感じ取るかは自由」との立場もあっただろう。ただ、どうしても、「読者がどう感じ取るかは二の次で、話題性をアピールしてクリック数を増やすのを最優先したい」という、記事を掲載した側の「クリックしてもらってなんぼ」の意図を感じてしまう。こうした意図、これが結構曲者なのだ。

全ての表現物には、作者や著者の意図がある。芸術作品はその典型だろう。そうした芸術作品は、作者自身の訴えたいことを表現しているから、どんな意図の下に制作されていようと問題にならない。ところが、第三者が絡む報道になると、意図は俄然重要になってくる。真実は一つなのに、報道の仕方一つで、端的に言えば意図一つで、一般大衆を全く違った方向に誘導することができてしまうからだ。例えば、テレビのニュース番組で、インタビューに答えた人の文言を、報道する側の意図に都合の良い部分だけを切り貼りして流し、批判されることが良くある。これなどその典型だろう。

ごく最近の例で言えば、自由民主党の総裁選挙の際にメディアで流された、菅義偉新総裁に関する「秋田県の高校を出て東京の企業に就職するものの数ヶ月でやめ、アルバイトで学費を貯め法政大学に入学…」の文言。苦労人や庶民派をアピールする意図が、はっきりと透けて見みえる。それが悪いとは言わないまでも、意図されたイメージが剥がれる結果にならなければいいが、と同じ団塊の世代だけに心配で仕方がない。「庶民派、改革派」のイメージ通りであることを望むばかりである。

さて、いつものように、最後にジョンズ・ホプキンス大学集計による新型コロナウイルスの感染状況を記載しておく。日本時間9月16日午前3時の時点で、世界の感染者数は2,936万人を、死者数は93万人を超えた(NHK NEWS WEB)。そろそろ北半球が夏の終わりを迎え始めている。感染がこれ以上急拡大しなければいいのだが…。

【文責:知取気亭主人】


この季節らしい爽やかな空(この空に意図はない)
この季節らしい爽やかな空(この空に意図はない)

Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.