2021年2月17日
前話(916話)をアップした2月10日は、20年前、愛媛県立宇和島水産高校の実習船「えひめ丸」が、ハワイ沖の太平洋でアメリカの原子力潜水艦「グリーンビル」(以下、原潜)に衝突され沈没、生徒や教員、乗組員、合わせて9人が死亡した、痛ましい事故があった日だ。20年の節目ということもあり、テレビや新聞では、追悼式典の様子が詳しく報道されていた。潜水艦と民間の、しかも高校生が乗った船との衝突という衝撃的な事故だっただけに、(断片的にではあるが)私の記憶にも残っている。
急浮上した原潜に衝突された499トンの「えひめ丸」は、ひとたまりもなく沈んでしまったのだが、事故当時原潜には体験乗船の民間人がいて、急浮上したのはその民間人へのサービスだったのではないか、との疑惑が盛んに取り沙汰されていた。そうした疑惑を素直に信じていた私は、無性に腹が立ったのを覚えている。しかし、そんなサービスなどしなかったとしても、洋上にいる船を探知しこれを攻撃するのが潜水艦の主な使命なのに、「えひめ丸」に気付かず衝突してしまったのは、不注意の何ものでもない。明らかな人為的ミスだ、と思っている。
あれから20年。「えひめ丸」の事故が強烈な教訓となっているから、浮上する潜水艦と民間の船が衝突するような事故はもう起こらないだろう、と思っていた。ところが、追悼式典が行われる僅か2日前の2月8日、20年目の節目の日とほぼ同じこの時期に、高知県の足摺岬沖で、似たような事故が起きてしまった。今度はアメリカ軍の原潜ではなく、海上自衛隊の潜水艦「そりゅう」が香港船籍の貨物船「オーシャン・アルテミス」にぶつかってしまったのだ。20年前の事故とは違い、急浮上ではなかったらしい。しかし、“潜水艦が浮上する時に起こした事故”という意味では同じだ。幸いなことに死亡者は出なかったものの、双方の船が損傷し、自衛官3人が軽傷を負ったという。
その事故に関する情報がネット上にも掲載されていて、洋上の船の探知を主な任務としている潜水艦だが実は浮上する時が苦手だという。これだけ色々なセンサーが開発・利用されている現代でも、苦手があるとは驚きだ。しかも、先端技術の粋を集めて開発・建造された筈の潜水艦なのに、二重、三重の回避策は取られていなかったのだろうか。2月11日の北陸中日新聞によれば、浮上決定までに複数の確認手段があって、一つミスをしても事故に発展する可能性は低いという。となると、調査結果が発表される前に軽々には書けないが、運悪くミスが重なって起こった可能性が高い、と思わざるを得ない。
20年経って同じような潜水艦浮上時の事故、それだけなら「たまにはあるさ」で片づけられるかもしれない。しかし、20年前の事故で非難の的となった人物が、違う原因ではあるが20年後の今再び非難の的となっているとなると、見えない不思議な縁があるのではないかと思えてしまう。しかも、それが国を代表する立場の人で、どちらの時もその地位を辞めざるを得なかった、というのも何か因縁を感じてしまう。私自身は、因縁などというものをあまり信じない方なのだが、今回ばかりはそうでもない。どちらも、非難轟々の中、辞めさせられた感が強いからだ。
20年前も今も話題の中心にいる日本の指導者とは、つい先日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の会長職を辞した森喜朗氏だ。20年前は、当時の小渕総理大臣の急逝によって急遽登板した格好で、第85代の総理大臣に就任していた。密室会談で指名されたと言われ、就任当時からその指名についてはとかく噂が絶えなかった。結局1年余りの短命内閣となるのだが、その森総理就任中に起こったのが、「えひめ丸」と米原潜の衝突事故だった。事故の一報がゴルフ中の森総理に伝えられたのだが、一報を受けた後もそのままゴルフを続けた結果、危機感の欠如だと激しいバッシングを受け、同じ年の4月には退陣を余儀なくされてしまう。石川県出身の総理大臣だったが、地元民すらその対応に苦虫を潰す人も多かった。何だか、今の騒動と妙に重なる。しかも、奇しくも同じ時期に、潜水艦による浮上時の事故が起きている。やはり、因縁?
だとすると、本人辞職後の後釜についても、同じ様な事が起こるのだろうか。20年前、森氏の後を継いだのは、小泉純一郎氏だった。その小泉氏は、麻生太郎、橋本龍太郎、亀井静香の三氏との後継者選びに勝ち、その後5年余り続く長期政権へと繋げていった。今回森氏の後を引き継ぐ人は、安定した長期運営ができるのだろうか(尤も、東京オリンピック・パラリンピックが終われば組織委員会そのものも無くなるのだが…)。その後任選びも、一筋縄ではいきそうもない。一旦は決まるかに見えた川淵三郎・元日本サッカー協会会長への「禅譲案」も、20年前と同じ「密室人事だ」と批判を浴びて白紙になった。しかし、報道を見聞きすると、残念ながら密室人事は改まりそうにない。もうそんな時代ではないのに。ただ、本当に因縁があるのであれば、後釜の安定した運営も似てほしいものなのだが…。
最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による新型コロナウイルスの感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間2月16日午後3時の時点で、世界全体の感染者数は1億916万人に、亡くなった人は241万人に迫っている(NHK NEWS WEB)。欧米より2ヶ月遅れとなるが、いよいよ日本でもワクチン接種が始まる。この四方山話をアップする17日、まずは医療関係者への接種が開始されるという。その効果を期待するばかりだ。
【文責:知取気亭主人】
植物の世界では、世代交代が分かりやすいのに…(ドラセナ)
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