2021年3月17日
我が家には、猫の額ほどの庭に分不相応な木が植わっている。と言っても、高価で貴重な木が植わっている訳ではない。大きすぎるのだ。家を建てた際に樹木に対する知識などないくせにあれやこれやと植えた結果、想像以上に成長してしまい、今はそのお世話に往生している。毎年剪定して小ぢんまりとさせておかないと、お隣さんの裏庭に枝がはみ出してしまうのだ。中でも、キンモクセイ、ツバキ、コブシ、ビックリグミ、の4本に手を焼いている。土地が肥えているのか、どの木も枝の伸びっぷりがすこぶる早い。しかもどの木も葉が多く、茂るに任せておくと茶毒蛾など害虫もつきやすい。落葉樹もある。そんなあれやこれやを考えると、毎年の剪定は必須となっている。
ところが、一口に剪定と言っても、これがなかなか難しい。特に、剪定のタイミングが重要で、下手な時期にやると花が咲かなかったり、実がならなかったりする。ネットからの情報によれば大きく刈り込み過ぎてもダメらしいが、そこはエイヤッと適当にやることにしていて、時期だけはネットの教えを忠実に守っている。教えによれば、キンモクセイの剪定時期として推奨されているのが、今の時季、3月である。この時季を逃すと花が咲かないのだという。「折角あの香しい匂いのする花を楽しみたくて植えたのに、花が咲かないのでは困る」ということで、今頃の時期になると毎年欠かさず剪定をしている。
14日の日曜日も、俄か庭師となって剪定鋏を握った。丁度屋根雪が落ちる位置に植わっているので、随分と枝が折れている。まだ雪の残る2月の時点で折れた大きな枝だけは片付けておいたのだが、今こうして改めて間近に見ると、枯れた小さな枝も結構残っている。そうした折れた枝を片付け、伸びすぎた枝を剪定していて、ふと昔の教えを思い出した。『人も植物と同じで、丹精を込めて育てれば、期待通り立派に成長する』という教えだ。こうやって必要な時に手を掛けてやらないと植物はダメなんだよな、とそんな教えに思いを馳せていると、「アレ、だとすると木の剪定と同じ様に人の成長も十人十色、千差万別、一人ひとり個性があって、教えや手助けを必要とする時期にも違いがある筈なのに、進級も卒業も就職も皆一律、それっておかしくない?」との疑問が湧いてきた。そうなると、剪定鋏の手は止める訳にはいかないのだが、心ここにあらず、である。
そんな思いが湧いたのには理由がある。極最近テレビで、コロナ後の景気回復を見込み来年春の新卒採用を大幅に増やした企業がある、とのニュースを見たからだ。確か大企業2社がニュースに取り上げられていて、2,000人の採用計画をしているとの内容だったと思う。しかし、先の剪定になぞらえれば、画一的に一斉採用してしまえば、丹精を込めても期待道理成長しない新人もいることになる。新人教育のやりやすさなど、主に人事管理のしやすさから一斉採用としている大企業が多いのだろうが、日本人得意の「皆さんそうされるようですよ」の右へ倣え精神や前例主義に、未だに翻弄されている様にも見える。
もっと柔軟に考え、「一年中募集しています」とか、「四半期ごとに募集します」などの採用方法を取ったらどうなのだろう。中々新卒が応募してこない中小企業は、「一年中募集」を既に実践しているところが多いと思う。そうしなければ、採用できないからだ。硬直した就職戦線は、もうそろそろ見直す時期にきていると思う。植物を育てるのと同じ様に、人にもそれぞれグンと成長する時期や旬の時期があって、そうした個々人の違いにもう少し柔軟に対応できる発想や仕組みが必要なのではないだろうか。「硬直した発想では世界から取り残される」という厳しい現実を、このコロナ禍で嫌と言うほど見せつけられた筈だ。植物を育てるのと同じ様に、柔軟にそして臨機応変に対応することこそが、環境変化の激しい現代の中で生き残っていく術なのだと思う。
そう言う意味では、植物を育てるうえで必要不可欠な肥料や水に相当する、物心両面にわたる指導や教育のやり方も重要だ。ただ与えれば良いというものではない。また、与え過ぎてもいけない。家庭菜園で失敗をしながら覚えた諸兄も多いと思うが、肥料として施す「肥料の三要素」と呼ばれるチッ素(N)、リン酸(P)、カリ(K)も、その植物にあったバランスの良い与え方をしないといけない。土が乾いていて可哀そうだからと、必要以上に水を遣っても逆効果になる場合があると聞く。まるで甘やかして育てた子供は、独り立ちする年齢になっても手が掛かるようになるのと同じだ。少し水不足を経験させると根を十分に張って強くなる、とも聞く。私の持論、子供に物を与えるなら少し不足ぐらいで丁度良い、と相通じるものだ。
いずれにしても、人間を育てるには片手間ではダメだ。植物と同じように、しっかりと観察し、手間暇かけて世話をすることが肝要だ。適時適切な世話をしないと、花を咲かせる時期になっても、花が咲かない可能性もある。人も植物も、そう心得て育てることが必要だ。剪定をしながら、そう納得した次第である。
最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による新型コロナウイルスの感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間3月16日午後3時の時点で、世界全体の感染者数は1億2022万人に迫り、亡くなった人は266万人を超えた(NHK NEWS WEB)。やっとワクチン接種が始まったと思っていたら、日本でも変異ウイルスの感染がじわりと広がり始めているらしい。17日の朝には、世界ではPCR検査をすり抜ける変異株まで見つかった、との情報も流れて来た。人類とこのウイルスとの戦いは、長引きそうだ!
【文責:知取気亭主人】
春だ!
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