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知取気亭主人の四方山話
 

『目線を変える』

 

2021年4月7日

桜の開花と共に、草花の芽吹きが目に映えるようになって来た。そんな春の陽気に誘われて、先日、家内と春休み中の孫娘の三人で、近くを流れる浅ノ川へ散歩に行ってきた。右岸の堤防は、約2Kmにわたって桜の木が植えられていて、近所では人気の散歩コースになっている。3月の下旬から暖かい日が続いた事もあって、既に満開だ。そんな中、咲き誇る桜ばかりに気を取られていたのだが、ふと花びらが舞い落ちる先に目をやると、『桜だけじゃないぜ』と言わんばかりに、雑草が勢い良く伸び始めている。しゃがんで良く見ると、ツクシが、イタドリが、ドクダミが、ヨモギが、ススキが、その他名前も知らない多くの雑草が、ニョキニョキと顔を出している。

コンクリートで覆われていない河畔だけに、雑草は生え放題だ。つい先週、我が家の庭で摘んだ僅かばかりのツクシで料理を作ってくれた孫娘は、桜の木の根元付近に顔を出している一面のツクシを見て、歓声を上げている。猫の額ほどの我が家の庭と比べたのだろう。無理もない。目に入る桜の花もツクシも、圧倒的なボリュームだ。暫くして『下から桜並木を眺めてみよう!』と声を掛け、川原に下りると、今度はヨモギが伸び始めているのを見つけ喜んでいる。“押し花”ならぬ“押し葉”を作ると言ってしゃがみ込み、形の良い葉を摘み始めた。久しぶりの川原で目に入る全てが新鮮らしい。

かと思うと、孫娘の脇を通って水辺に近づいた、山菜取りの大好きな家内が、同じ様にしゃがみ込んで何かを摘み始めた。『何見つけたの?』と言いながら近寄ると、『セリじゃないかな?』と言って、摘んだ野草を見せてくれた。確かにセリだ。というかセリに見える。しゃがんで目線を下げ、目を凝らさないと見つけられないくらいに、周りの雑草に溶け込んでいて、背丈もまだ低い。『毒セリがあるから気を付けないと…』と言いながら、私も少し摘んでみた。水辺と言っても水が引いて少し湿っている程度だから、水田で摘んだ時と違って冷たい水の感触はない。しかし、何年振りかで味わう山菜取りの感覚が懐かしい。

孫娘も満喫しているらしく、ヨモギ摘みに余念がない。『もうそろそろ帰ろうか?』と声を掛けると、やっと重い腰を上げた。並んで歩きながら、学校の友達と自然相手に良く遊んでいるのか、『この草の葉を取った茎の臭いはキュウリに似ているんだよ!』と、落ちていた雑草を拾い上げ、茎から葉っぱを取り始めた。そして、『ほら!』言いながら、私の鼻先に茎だけになった雑草を近づけてきた。しかし、私には『?』だ。感性と一緒に嗅覚も衰えてきたのか、キュウリとは違う青臭い匂いしかしない。ただ、そんな遊びをやり始めた孫娘に、今頃の雑草が持つ瑞々しさと逞しさを、重ねた一瞬でもあった。

しかし、こうして桜以外に春の息吹を楽しめたのも、しゃがみ込み目線を彼らにグッと近づけたからだ。立ったまま眺めていたら、少しは目に入るのだろうが、足元の雑草と戯れることなど恐らくしなかっただろう。ましてや、周りに溶け込んでいる背丈の低いセリなどは、気が付かないまま見過ごしてしまうのが関の山だ。身の回りの物事や出来事に注意を払い、これを楽しむには、対象物や目的に合わせ、目線を変えることが肝要だ。今回、家内や孫娘を見ていて、改めてそのことに気付かされた。興味を持ち楽しむ方法を知っていればこそ、なのかもしれないが、二人には目線を変えることに躊躇が無い。目線を変えれば、今まで見えていなかった物が見えたり、見落としていた物に気が付いたりして、新たな発見に繋がることが良くあるのだが、無意識のうちにそれができるのも感性の一つかもしれない。

今回の浅野川での散歩の場合は、目線を下げたお陰で、いろいろと楽しめた。しかし、“目線を変える”ということは、下げるばかりででなく、鳥のように上から目線で見ることも時には必要になる。最近はドローンで撮影した上空からの映像を良く見掛けるようになったが、まるで自分が空を飛んでいるかのように臨場感があり、しかも広い範囲が見渡せるため、全体の状況把握にはもってこいだ。正に、鳥のように俯瞰できるのだ。こうした目線のバランス良い組み合わせが、対象物を正確に把握するためには必要である。

遊びも、勉強も、仕事も、行政や政治も、すべからく同じなのだと思っている。目線を下げたり上げたり、グッと近づいて見たり遠く離れた全体を見たり、そうすることで目的のものをより正確に把握することができるのだ。ところが、今世界を翻弄している新型コロナウイルスの対応を巡る、日本の行政や政治の迷走ぶりを見ていると、目線を変えているのか甚だ疑わしい。4月3日の北陸中日新聞に、日本や英国、米国、ドイツなど、20カ国のワクチン接種者の割合が掲載されているのだが、イスラエルの60.4%(1回目)を筆頭に日本以外は全て10%を超えている。しかるに、日本は僅か0.65%で、1%にも満たない。その上、地方自治体の困惑ぶりも聞こえてくる。何で?どうしてこうなってしまうんだ?

最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による新型コロナウイルスの感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間4月6日午前3時の時点で、世界全体の感染者数は1億3155万人に、亡くなった人は286万人に迫っている(NHK NEWS WEB)。そんな中、やっと日本でも、来週から高齢者へのワクチン接種が始まる。友人から『一杯やろうぜ』とのお誘いが入るのだが、お互いに『ワクチン接種後に!』と言って、電話を切っている。『喜んで!』と答えられるのは、連休明け頃かな、それとも新盆の頃、もうちょっと遅れて旧盆の頃か。まさかとは思うが、いくら何でも秋の彼岸頃までには言えるよね?

【文責:知取気亭主人】


浅ノ川河畔の桜(撮影:孫娘)
浅ノ川河畔の桜(撮影:孫娘)

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