2021年4月28日
パソコン用ソフトウェア(以下、ソフト)を開発・販売し始めた頃、互いに開発に携わっていたにも拘らず、顧客の立場から見る私とプログラミング担当者との間で表現の違いが良くあり、苦労した経験がある。当時(30年ほど前)は、ペーパーレス化が進む今の時代と違って、殆どの商品の取扱説明書類は、紙媒体だった。その大事な取扱説明書類の表現が、互いに違うのだ。方やパソコンに疎い私は“自分が理解できる表現で”と主張し、他方プログラマーは“自分たちが良く使う言葉で”表現しようとする。
伝えたいことは、勿論両者とも同じである。しかし、使う言葉や表現方法、言い回しが少し違う。プログラマーは、どうしても横文字を使いたがる。元々、IT関連の用語は横文字が殆どで、使い慣れているからだ。今の若い人も、恐らくそうだと思う。IT関係の仕事に従事していなくても、ITリテラシー(おっと、私も思わず使ってしまった)が高く、IT機器を難なく使いこなしている。
ところが、30年前の日本は、パソコンの黎明期で、周辺のIT機器がちらほら出始めた頃だ。しかもソフトの顧客は土木関連の技術者ばかりで、技術者とは言え、ITに関しては専門外である。多くのIT以外の分野の技術者がそうだったように、土木分野の技術者も、一部の先駆者以外のITリテラシーはヨチヨチ歩き程度、と言っても過言ではなかったと思う。当然私もで、専門外の横文字を多用されると、チンプンカンプンな事が多かった。昨年の緊急事態宣言の時に小池東京都知事が多用した横文字の類、と言えば、分かっていただけると思う。必然的に、私としては、『書く側の自己満足ではなく、顧客が理解できる様に書こう。私ならこう書く』と、顧客目線の修正案を示すことになる。
表現者はどうしても自己満足に陥り易い。しかし、芸術作品の様に共感を得る表現物は別にして、説明書の様に理解を深めるための表現物は、理解してもらわなければ目的が果たせない。したがって、表現者自身の自己満足は二の次として、顧客目線で書くことが肝要である。取扱説明書やパンフレットなどは、その最たるものだと思うし、ビジネスの世界では常識だろう。ところが、その常識とは裏腹の、よく言う常識外れの、首を捻る書類が送られてきて、家族総出の謎解きとなってしまったものがある。今話題の、新型コロナウイルスのワクチン接種券である。
先週の水曜日(21日)、「新型コロナウイルスワクチン接種券 在中」と朱書きされた封書が届いた。今か今かと待っていたものだ。封書の中には、接種券(クーポン券)が印刷されている①「新型コロナウイルスワクチン接種のご案内」、接種の際にクーポン券を貼り付けて提出する②「新型コロナワクチン接種の予診票」(要するに問診票)、注意書きに相当する③「新型コロナワクチン予防接種についての説明書」、政府から出された「ワクチン接種までの流れ」と副題の付いた④「新型コロナワクチン接種のお知らせ」、そして裏に「ワクチン接種の流れ」と④と似たようなタイトルが印刷されている⑤「<金沢市からのお願い>ワクチン接種を受ける際の注意事項」の、都合5枚もの印刷物が入っている。
封を開け中身を一瞥したが、多すぎて、何から読めばいいのか直ぐには理解できない。何が同封されているのか、ビジネスの世界では当たり前になっている、“送付案内”が無いからだ。また、下線で強調したように、書類によって表記が違う、うっかりミスも目立つ。どれを読んでも予約開始日が明記されておらず、封書が届いた日には、金沢市に問い合わせの電話が殺到したという。さもありなんである。先の取扱説明書ではないが、担当者の自己満足で終わってしまっている感が否めない。そこで、“私だったらこうする”の観点から、(間に合わないのは承知の上で)ちょっとした改善を提案したい。
まず、送付案内を同封しよう。そうすることによって、同封書類の過不足が直ぐにチェックできる。次に、その送付案内の書類名の後ろか下段に、何のために、或いはどんな時に必要な書類か箇条書きしておく。例えば、①であれば、(接種の時に必要です。接種後も必要です。失くさないでください)などと書いておく。次に、ワクチン接種の流れについては、国と金沢市で重複している部分があって、それが分かり難さを助長している様に思われる。そこで、一般的な事しか書かれていない国のものは同封しない。その分、地方自治体の書類に足りない部分(予約受付開始時期、接種会場など)を加筆する。それらがまだ決まっていない場合は、テレビ、新聞、ネットなど、可能な限り多くの媒体を使って、状況や結果を住民に知らせることも必要だ。そして、必ずそうした伝達方法を明記しておくことだ。
細部にこだわれば、もっと改善できる点はある。しかし、上記を改善するだけで随分分かり易くなると思う。ただもう一つ敢えて改善するとすれば、シンプルに書くことだろう。例えば、②以外に全て書かれている「接種費用は無料」など、送付案内にその旨を記載すれば事足りる。そうすれば、殊更強調しているのではないか、との穿った見方も湧かないのだが…。
最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による新型コロナウイルスの感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間4月27日17時の時点で、世界全体の感染者数は1億4787万人を、亡くなった人は312万人を超えた(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス)。このデータが示すように世界を俯瞰すると一向に減る様子は無いが、日本も、である。また、緊急事態宣言が東京、京都、大阪、兵庫に出され、まん延防止等重点措置も、都合7県に拡大した。いずれも連休明けの5月11日までの短い期間とは言え、これだけ繰り返されると、経済的な困窮もさることながら、精神的な脆性破壊が心配だ。
【文責:知取気亭主人】
問題の封書
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