2021年5月26日
5月ももう終盤に差し掛かっているのに、5月特有のすがすがしい晴れ間が続くことが少なく、もう梅雨に入ってしまったかの様なジメジメとした天気が続いている。例年に比べて、日照時間も随分と少ないように思う。確かに「五月雨(さみだれ)」という雨にちなんだ言葉もあるにはあるが、“風薫る五月”と言われる様に、5月は爽やかな晴天の元、瑞々しい若葉の香りを運んでくれる風が心地よい日が多い、とこれまで信じて疑わないでいた。なのに今年はどうもはっきりしない。先週には梅雨末期の豪雨を思わせる大雨が西日本を中心に降り、うっかりすると、まだ5月であることを忘れてしまう。コロナの影響ではあるまいが、どーも天候が不順でいけない。これも地球温暖化の影響なのだろう。
だとすると、地球温暖化が叫ばれてもう随分経つし、近年とみに激しい気象現象に見舞われることが増えてきていることを考えると、古くから慣れ親しんできた季語や季節の文学的表現は、もう見直す時期に来ているのかもしれない。見直すことは無理だとしても、最早通用しなくなった表現があることを認識する必要はありそうだ。そうした文学表現に比べると、科学的に観測された気象データは、どう統計処理するか、その方法や期間を見直すことは容易に出来る。気象の世界では、そうした定期的(10年ごと)に見直しが行われる制度は既に取り入れられていて、つい先週、統計処理の見直しが10年ぶりに実施された。
梅雨入りの時期などを過去と比較して○日早いとか、△日遅いかなどと発表する時に使われる「平年値」が、更新されたのだ。「平年値は過去30年間のデータの平均値として求める」と定められていて、これまでは1981〜2010年のデータが使われていた。それが、5月19日からは、1991〜2020年のデータから算出された平年値が使われることになる。温暖化の影響が今より少なかった10年間が対象データから外れ、より強く影響を受けた昨年までの10年間が加わる訳で、近年の温暖化による影響をより反映した平年値になったのではないかと思われる。
そこで今回は、日頃から馴染みの深い気温と降水量に着目し、新旧の平年値を比べて見ることにする。先ず、気温について、次の表-1,表-2を見ていただきたい。尚、観測地は私のご当地、金沢である。
表-1、2に示したように、気温に関しては、温暖化の影響がハッキリと出ている。日平均気温に関しては、いずれの月とも新しい平年値が0.1〜0.6℃高く、年平均で見ると0.4℃高くなっている。また、日最高気温の月平均値も、12月が唯一“変化なし”となっているものの、それ以外の月では0.3〜0.7℃も高くなっている。年平均では0.5℃である。こうしてみると、気温に関しては、この10年間(2011年〜2020年)で凡そ0.5℃程度上昇している勘定だ。体温が平熱から0.5℃も上がれば体調に異変が生じるのと同じ様に、平均気温がこれほど上昇すれば、地球の健康状態にも異変が生じるのは道理だろう。
その異変の一つが、豪雨の多発だ。冒頭にも書いたが、本来そんなに強い雨が降らない筈のこの5月にも、大雨警報が発令された地域があった。そこで、温暖化の影響がどこまで降水量に表れているのか、新旧平年値で比べてみた(表-3)。
表-3を良く見ると、旧に比べて増えた月もあれば減った月もあり、月の降水量だけでは、温暖化の影響は読み取れない。年間降水量でも、僅か2.6mmしか増えていない。この現象は、比較的豪雨災害の少ない金沢ならでは、なのかもしれない。しかし、現実には、金沢でも降雨強度の強い雨が増えている様な気がする。そこで、金沢の特徴である雪のシーズン(12月〜2月)に着目してみた。金沢は県庁所在地の中で最も雨が多く、太平洋側の都市との年降水量の違いは冬の“雪やみぞれ”であり、豪雪も温暖化の影響に依るものだからだ。
四方山話の第909話『それでも雪は降る』で書いたように、日本海の海水温と大陸から送り込まれる寒気団の温度差が大きいほど大雪なる。温暖化が進むと日本海の海水温は高くなり、結果的に、大雪は海水がまだ冷え切らない初冬に多発するようになるという。果せるかな、厳冬期の1月、2月の降水量は減っているのに、初冬に当たる12月は増えていて、年間を通して唯一300mmを超える降水量となっている。そのことが大雪によるものなかどうかは詳らかではないが、そうした傾向が顕在化してきている様に思える。金沢における冬季の降水量は、ほぼ降雪量と読み替えても良いからだ。それに対して、1月、2月の本格的な冬は、降雪量が少なくなってきていることがうかがえる。25日の北陸中日新聞朝刊には、年降雪量が新平年値では157cmとなり旧から124cmも減少した、と報じられていて、そのことを裏付けている。
さて、今回は気温と降水量だけに着目して新旧を比べたが、降雪量など他の項目も更新されている。興味ある方は、気象庁のホームページに掲載されている「各種データ・資料」のコンテンツ(https://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html)をご覧になることをお勧めする。お住まいの地域の平年値を確認するのも一考である。
最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間5月25日20時の時点で、世界全体の感染者数は1億6732万人に迫り、亡くなった人は347万人を超えた(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス)。同じ時点での日本の感染状況は、(NHKのまとめによれば)感染者数が前日より3901人増えて72万6829人に、亡くなった人は同じく105人増えて1万2525人となった(いずれもクルーズ船含む)。このままのペースでいくと、8月上旬には、感染者数は100万人に、死者は2万人に達してしまうことになる。そうならないことを祈るばかりだが…。
【文責:知取気亭主人】
ヤマボウシ(やはり開花時期は早まるのかな?)
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