2021年6月9日
年は取りたくないものである。ただ、子供の時には、そんなこと露ほどにも思ったことがない。しかし、成人して社会に出ると、誰しもがそんな感想を持つ。自分の親や先輩達が衰えていく姿に、自らの行く末を重ねるからだろう。但し、あくまでも他人事だ。ところが、いざ自分が高齢者の仲間入りをすると、体力の衰えは如何ともしがたく、否応なしに実感するようになる。私の経験から言えば、65歳になって高齢者の仲間入りを知らせる通知「介護保険被保険者証」が手元に届くと、まず「そんな年になったのか!」を実感させられる。体力の衰えを認めざるを得なくなるのもこの頃からである。
まず、階段上りに現れる。72歳になった今でも、4,5階はノンストップで上れるが、そのスピードは年を追う毎に落ちてきている。気だけは若いつもりでも、体力は正直だ。スクワットやウォーキングで脚力の衰えは多少遅くできても、心肺機能に負荷をかける運動をしていない分、そちらの方の衰えにブレーキが掛けられていないのだ。「これはマズイ!」と昨年の春ごろから腕立て伏せを日々の運動に加え、多少なりとも心肺に負荷を加える様にしているが、今のところ効果は実感できないでいる。また、先週からは折り畳み自転車による通勤も始め、自転車こぎによる効果も大いに期待しているところである。
こうして、体力低下に抗う手段としては、あれやこれやと運動を取り入れているのだが、それ程気にかけてこなかったのが歯である。若い時に診てもらった歯医者に、『歯並びは良いし、頑固な歯をしているから良い歯をお持ちですよ』と褒められたことを良いことに、60歳ぐらいまで歯のケアに殆ど注意を払ってこなかった。しかし、因果応報とは良く言ったもので、60歳の声を聞く辺りからあれこれとガタが出始め、“放っておいた付け”を今頃になって払わされている。つい先日も、夕食を食べている最中に、ギョッとする様な騒動を惹き起こしてしまった。周りも本人もびっくりだったが、それを見ていた5歳になったばかりの孫娘の優しい一言に、ほっこりした気分にもさせられた。
5月の上旬、左上の奥歯に野菜の繊維が良く挟まるようになってきた。抜歯した所を両側からブリッジで治療してある箇所だ。1週間ほどすると頻繁に挟まるようになり、挟まる物の大きさも段々と大きくなって来た。いよいよ放って置けなくて、20日の日、歯医者に行ってきた。ブリッジを外してみたところ、土台となっている奥の方の歯が虫歯になっていて、そこに隙間ができて物が挟まるのだという。ブリッジを外し、虫歯を治療した後、新たなブリッジを作り治療しましょうという。ブリッジができるまでは、真ん中は完全に歯が無い状態、そして両側の土台となる歯は削られている分短くなっていて、下の歯との嚙み合わせができず、治療が終わる迄物が噛めない状態となってしまった。必然的に右の奥歯で噛むことになったのだが、実は、それが騒動の発端であった。
何事もない時には、いつもの癖で、ほぼ左側ばかりで噛んでいた。その左側が使えない。そのため意識して右側で噛んでいたのだが、治療の僅か二日後の夕食中に、ドッキリあり、笑いあり、ほっこりありの、ギョッとする騒動を惹き起こしてしまった。胡桃煮を食べていた時だ。噛んでいた右の奥歯で、突然何やら硬いものが舌に当たり出した。ガシャガシャと、聞き慣れない音もする。舌でまさぐって見ると、こなれていた胡桃より遥かに硬くて大きく、そして明らかに食べ物ではないと分かる異物が動く。思わず、左手に吐き出した。するとどうだ、よく言う「銀歯」がぼろぼろと出て来るではないか。都合、小さいのも合わせると五つも出てきた。隣で見ていた家内も、息子夫婦も、『何それ!』とビックリしている。そして、歯を手の平に吐き出す私を見ていた5歳になったばかりの孫娘が半泣きしながら言った一言が、タイトルにもした『お爺ちゃんが歯抜けになっちゃった!』である。
生粋の自分の歯ではないにしろ、口からこんなにぼろぼろと歯が出てくるとは、本人もビックリだ。このままでは、前歯だけで食事をするしかなくなってしまう。吐き出した銀歯をティッシュに包み、次の日、急ぎ歯医者に行ってきた。すると、5本分のブリッジが途中で折れたのだという。思い返しても、銀歯が折れるほど力を入れて噛んだ記憶は無い。ただ、食べた胡桃煮は飴状のタレが絡めてあった為、硬さと粘り気の両方があって、既に痛んでいたところにダメ押しを与えたのだろう。いずれにせよ、殆どの人は経験することがない、チョット変わった、ドキッとする経験であった。
ただ、もう懲り懲りだ。近年は歯の磨き方など褒められているものの、如何せん“これまでの付け”が大きすぎた。「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動を聞いたことがあるが、今のところギリギリだ。今回の一件で、何とか付けは払い終わったことにしてくれないかな、と願っている。こんな騒動もこれで最後にしたい。ただ、孫娘の可愛い一言をもう一度聞いてみた気もするが…。
最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間6月8日17時の時点で、世界全体の感染者数は1億7363万人を超え、亡くなった人は374万人に迫っている(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス)。このままのペースで感染拡大が進むと、東京オリンピック・パラリンピックの期間中には2億人を超しそうである。それでもやっぱりやるのかなぁ…。
【文責:知取気亭主人】
紫陽花
|
|