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知取気亭主人の四方山話
 

『孫に伝える』

 

2021年8月18日

8月15日は、忘れてはいけない76回目の“終戦の日”だ。丁度日曜日だったこともあり、NHKテレビでやっていた、政府主催の“全国戦没者追悼式”を、孫たちと一緒に見ていた。東京都内には新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出されているため、参列者数は極力抑え、過去最少の185人だったという。テレビ画面には、間隔を空けたまばらな参列者が見える。確かに少ない。これまでの盛大な追悼式を見てきたせいか、コロナ禍とは言え寂しい限りである。

また、コロナ禍に加え、停滞する前線による大雨災害など、緊急性の高いニュースが目白押しだったこともあり、国歌演奏、菅総理大臣の式辞、正午の時報に合わせ1分間の黙禱(もくとう)を捧げた後、令和天皇のお言葉と続いたところで、追悼式の中継はあっけなく終わってしまった。これまでだと、この後に遺族代表が追悼の辞を述べ、参列者が祭壇に菊の花を手向けて、一連の式典が終わる手はずであった。しかし、今年は、追悼の辞以降は中継されなかった。命に係わる災害報道を優先したのは致し方ないのだが、この短い放送で「戦争は二度としません」という不戦の誓いが孫たちに伝わるのか、観ていて不安になって来た。そこで、番組の中でアナウンサーが言っていた、「戦没者約310万人を悼み…」、の310万もの国民が亡くなった事の重みを、小学5年生の孫娘に伝えてみることにした。

ほぼ同じ犠牲者数として直ぐに思い付いたのが、このコロナ禍だ。そこで、『新型コロナウイルスでこれまでに世界で400万人を超える人が亡くなった、と言われているけど、それと同じくらいの数の日本人が戦争で死んでしまったんだよ』、と説明したのだが、どうもぴんと来ないらしい。そのやり取りを横で聞いていた長男(孫娘の父)が、『北陸三県(富山、石川、福井)を全部合わせたのと同じくらいの人が死んだんだよ』と助け舟を出してくれた。この説明は分かり易かったらしく、『嫌だ!』と言って、相当驚いていた。やはり身近なものに置き換える方が捉え易いらしい。ただ、この日本人戦没者数だけで戦争の悲惨さを伝えることは難しい。いや、むしろ不可能と言っても過言ではない、と思っている。

例えば、日本だけではなく交戦国や、戦地となって巻き込まれた周辺国の戦争犠牲者数を網羅することで、先の大戦(日中戦争含む)の全体像とその悲惨さが見えてくるのではないか、そんな思いから、次の表-1を作ってみた。参考にしたのは、吉田裕著『日本軍兵士 ――アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書、2017)(以下、本書)である。

表

凄まじい犠牲者数である。特に、中国、フィリピン、朝鮮を中心とするアジアの人たちの犠牲者数は、日本どころの話ではない。念のため、人間自然科学研究所の『戦争による国別犠牲者数』(https://www.hns.gr.jp/sacred_place/material/reference/03.pdf)(※2)を調べてみたが、似たような数値が示されている。各国の調査・主張によって多少の違いはあるとは思うが、人的被害を概観するには問題ないところだと判断し、表にまとめることにした。こうして改めて整理して見ると、日本人の戦争犠牲者310万人だけでは、戦争の悲惨さ、残虐さを伝えきれないことが良く分かる。戦争の影響を受けた全ての国と、犠牲になった全ての軍人・民衆を全て明らかにしてこそ、『戦没者を悼み…』の言葉に繋がるのではないかと思う。

また、本書では、戦没者310万人の大部分がサイパン島陥落(1944年7月、終戦のほぼ1年前)後だったのではないか、と衝撃的な考え方を示している。書かれてはいないが、これにより米軍による本土空爆が可能になったことが犠牲者を増やした大きな要因の一つであることは、疑いの余地が無い。更に、亡くなった230万人の軍人・軍属の多くが、広義の餓死者と考えられ、藤原昭の研究では61%に当たる140万人が、少ない秦邦彦の研究でも37%がそうだったとしている。良く言われる、日本軍の兵站のお粗末さ故、なのだろう。

こうして本書に書かれている日本軍兵士の実態を知ると、一層、孫子に伝えなければという思いが強くなる。やはり、全国戦没者追悼式を観るだけでは駄目だ。戦没者だけではなく、残された家族の苦労や、孫たちと同じくらいの大勢の子供たちが戦争孤児となり「浮浪児」と呼ばれたことなども、伝えなければいけない。そんなあれやこれやを考えると、戦後間もない頃の日本を多少とも覚えている年寄りの責任として、孫たちには、本書を読ませたり戦争のドキュメンタリー映画を見せたりしなければいけない、と誓った次第である。

最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間8月17日18時の時点で、世界全体の感染者数は2億786万人に迫り、亡くなった人は437万を超えた(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※3)。このままでいけば、第一次世界大戦の連合国側の死者約514万人(※2参照)を超えるのも年内確実の様相だ。

(※3:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/

【文責:知取気亭主人】

日本軍兵士 「日本軍兵士」
―アジア・太平洋戦争の現実

【著者】  吉田裕
【出版社】 中央公論新社
【発行年月】 2017/12/21
【ISBN】 978-4-12-102465-7
【頁】 248ページ
【定価】 902円(税込)

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