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知取気亭主人の四方山話
 

『15%』

 

2021年9月1日

4月から会社専属のグリーンキーパーを任じていることは、既に書いた。私一人しかいないが、シルバー人材ならぬ「シルバー善哉」というお遊びの名前も勝手に付け、半日週3回を目安に草取りをしている。その名の通り、丹念に草を抜き取っている。“鎌で刈り取る方法”では直ぐに伸びてきて、とても一人では追いつかないからだ。ただ、草取りだと時間が掛かる。それでも、地道に続ければ効果は表れるもので、こんなスローペースでどうなることかと思っていた4階の中庭も、少し前から目に見えて変化が分かる様になってきた。

伸び放題になっていた草を相手に根気よく作業を続け、凡そ全体の10〜15%ぐらいを抜き取ったころで、ちょくちょく様子を見に来る会社の仲間が、『オッ、奇麗になって来た!』と声を掛けてくれた。私自身も、それまでは「いつまで掛かるのかな?」と気が重くなっていたのだが、(当てずっぽうだが)全体の10%ほど進んだと思われる頃から、手ごたえを感じ、先の見通しが立つようになってきた。更に進んで、(これも当てずっぽうだが)15%ほどの面積が奇麗になってくると、それまで庭全体を圧倒していた雑草の勢力が、心なしか弱まった様に思えてきたから不思議だ。

どうやら、大体これくらいの比率まで変化すると、この変化がやがて全体に波及していくことが、容易に想像できるようになるらしい。そういう意味からすると、組織や社会の意識の変化なども、15%ぐらいの人が変わり始めると、傍目にも「オッ、変わって来たぞ!」が感じられ、そこからは一気呵成に変わっていく、そんなプロセスを辿るのではないだろうか。だとすると、この15%という数字、極めて感覚的ではあるが、結構意味のある数字に思えてきた。

組織を変革しようとすると、変革に情熱を燃やし続ける人が5%いなければ上手く行かない、と物の本で読んだことがある。いわゆる種火だ。種火が5%に満たないと、折角点いた変革の火も、“無関心派”や“関わりたくない派”、それと火消しに走る“現状を変えたくない派”などの残りの勢いに飲み込まれ、やがて消えてしまう。ところが、バーベキューの火おこしで経験した人もいると思うが、僅かな種火でも、根気良く、丁寧に扱えば、やがて徐々に周りに燃え広がり、少々のことでは消えなくなる。それと同じで、組織や社会の構成員の意識がある程度同じ方向(変革)に向くと、その勢いを止めるのは難しくなり、やり続ければやがて変革は成し遂げられる。変革に勢いをつけるのに必要な意識量の目安、それが、今回草取りで感じた全体の15%ぐらいなのではないかと思う。

嵩としては少しでも、熱量の高い種火が、まず“無関心派”に燃え移る。“無関心派”にある程度燃え移った時点で、15%は軽く超えるだろう。勢いを得た火は更に燃え広がり、徐々に大きな炎となって“関わりたくない派”に燃え移ろうとする。“関わりたくない派”は“無関心派”に比べると少々燃え難く、火が点くまでに時間は掛かるが、“現状を変えたくない派”ほど頑なではないから、やがて燃え移り大きく広がっていく。この時点では、余程のことがない限り、もう変革の火が消えることは無い。“現状を変えたくない派”は、いずれは懐柔されたり、組織から去って行ったりすることになる。このようにして、組織や社会の人々の意識改革は、進められていくのだろうと思う。

なぜこんなことを書いたかと言えば、東京2020パラリンピックの開会式や競技をテレビ観戦していて、多くの国民が感銘を受け、障害者に対する理解の火が燃え広がっているのに違いない、と思ったからだ。とかく日本人は、障害者に対し我関せずの人が多いように思う。日本にいる時に障害のある我が子を水泳教室に入れようとしたら断られたのにイギリスでは直ぐに受け入れられた、との話をネットで読んだが、パラリンピック発祥の地であるイギリスと日本では、障害者に対する意識が随分と違うのだと思う。

日本には、車いすが通行するには不便な段差のある歩道、車椅子の人が一人で乗り降りできない電車、盲目の人にとっては危険なプラットフォーム、盲導犬と一緒の入店を断る店、車椅子のまま利用できるトイレが少ない公共施設など、思い付くまま挙げても、これだけ障害者に優しくない施設が多い。施設設計の段階から、“社会は障害者と共にある”という発想が欠けているのだと思う。随分前からバリアフリー化が叫ばれていたにも拘らず、である。

ただ、そういう状況にあっても、障害者支援に携わってきた人達は、熱量の極めて高い種火として、ずっと情熱を傾け続けてくれていたのだと思う。その燃え続けてきた種火が、今回のパラリンピックで見事に燃え広がった。そう信じたい。開催に反対する意見もあるし、民放では殆ど放映されていないから、NHK嫌いの人たちは観ていないかもしれない。しかし、例えそういう人たちがいたとしても、パラアスリートの躍動感溢れる活躍に感動した国民は、15%を下らない筈だ。各選手の競技する姿は、それほど感動的だ。また、アスリートの能力を引き出すために良く考えられた競技やそのルールにも、本当に感心させられる。感動として受けたこうした意識変化の火は永遠に燃やし続けてほしい、と切に願っている。そして、「障害者に優しい素敵な日本」、そんな日が必ず来る、と信じてやまない。

最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間8月31日17時の時点で、世界全体の感染者数は2億1712万人に迫り、亡くなった人は451万を超えた(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。
      (※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/

【文責:知取気亭主人】


中能登で見つけた奇麗な蛾(名前は何だろう?)
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