2021年11月10日
カニ好きには堪らない季節がやって来た。冬の日本海を代表する食材ズワイガニの漁が、11月6日の土曜日、いよいよ解禁になったのだ。新聞に入っていたマーケットの折り込みチラシには、一斉に“カニ漁解禁”の文字がでかでかと印刷されている。カニ大好物の家内の話だと、次の7日の日曜日、近所にあるマーケットの店頭には、チラシどおり今シーズンの初物が並んでいたという。気になって値段を確認したところ、地元で人気の香箱ガニ(ズワイガニの雌)が、小ぶりなもので一匹1280円、と結構な値がしていたらしい。残念ながら、大家族(7人)の我が家では、躊躇なく手が出せる値段ではない。地球温暖化による影響なのか、乱獲によるものなのか、或いはその両方が影響しているのかは定かでないが、いずれにしても漁獲量の減少と共に、暫く前から庶民には高嶺の花になってしまっている。何とかならんものだろうか?
ただ、日曜日に店頭に並んでいたのは、今年の初競りのカニだ。毎年、初競りの時は、「今シーズンの初物」ということで、ご祝儀相場で取引されて通常よりも高値になることが多い。「そのせいで店頭に並んでいたカニも高かったのではないか」と思っていて、晴天が続いて漁が本格化すればもっと安くなるだろう、と淡い期待を抱いている。
ズワイガニに限らず、北陸ではお歳暮として使われることもある寒ブリなども、師走に入るとご祝儀相場になって高くなる。このご祝儀相場なるもの、消費者にとっては遠慮したくなる風習だが、全ての消費財にある訳ではない。「競り」を通さない消費財の多くは、年末になると“歳末セール”と銘打って逆に安くなるところを見ると、ご祝儀相場に乗っかる商品は意外と限られていて、地域でブランド化した一次産品の食材に多い。中には、初競りの時にとんでもない高値で取引される物もある。この初競りの超高額落札は、最近ではブームの様になっていて、その驚きの金額を聴く度に、落札した人はどうやって元を取るのだろう、と他人事ながらついつい貧乏くさい事を考えてしまう。今年の金沢のズワイガニ(雄)の初競りでも、目が飛び出るような、耳を疑う落札額が、話題をさらっている。
その落札額、驚くなかれ、雄のズワイガニ一匹が500万円である。庶民には5千円でもおいそれと手が出ないのに、その3桁も上を行く。7日の北陸中日新聞の記事によれば、お重さにして1.88キロ、甲羅の幅は15.6cmだったという。こう書いてもピンとこないだろうが、石川県漁業協同組合が数年前に定めた雄ズワイガニの石川県ブランド「加能ガニ」、その中でも最高級ブランドとして新設した「輝(かがやき)」に認定された一匹だというから、さぞかし立派なカニであることは間違いないのだろう。しかし、夢のない話で申し訳ないが、甲羅も全て食べられるとしても、1万円当たり3.76gにしかならない。500人分のお吸い物に分けたら、入っていたのかどうか確認も難しい位僅かな量である。
競り落としたのは金沢市郊外の温泉旅館と報じられているが、その気風の良さに感心する一方で、貧乏性の僕など、どんな料理に変身させて何人の口に入るのだろう、とそればかりが気になってしまう。しかし、落札したご当人は、そんなけち臭いことなど、露ほどに思っていないだろう。そんなことを考えていたら、とても競りには参加できない。恐らく、広告宣伝費と考えたら500万円でも安い、と踏んだのではないだろうか。この最高額での落札、地元の新聞の第一面にデカデカと載ったし、テレビでも放映された。恐らく全国放送でも、目出度い話題として流れたことと思う。話題性は抜群だ。だとすると、全国規模での知名度アップのための広告宣伝費、と考えれば500万円はさほど高くはないのかもしれない。要は考え方次第、だと言える。しかし、それにしても思い切ったものである。思い切ったと言えば、このズワイガニ様のその後にも、更に驚かされることになる。
「何人の口に入るのだろう?」と気になっていたところ、8日(月)昼のNHKラジオから、「500万円で落札されたズワイガニが宿泊客に提供され…」の情報が流れてきた。しかし、自転車に乗りながら聴いていたため、情報の一部分しか聞き取れず、一層気になって仕方が無かった。家に帰りネットで調べて見ると、載っていました。北国新聞DIGITAL版(https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/574571)に、『4人家族の地元宿泊客に振る舞われた』と書かれている。どうやら、一匹丸ごと一家に振舞われたらしい。なんて豪気なんだろう。「何人の口に…」、なんて恥ずかしくて、穴があったら入りたいくらいだ。
DIGITAL版には、『他の宿泊客にも解禁日に取れた加能ガニをサービスした』と書いてあるから、他の客にも石川ブランド「加能ガニ」にかなう立派なカニが振舞われたらしい。ファンの心を鷲掴みにしたことだろう。羨ましくもあるが、今を盛りに咲く大輪の菊の花の様に辺りを明るくさせてくれたこのご祝儀相場の話題に、この世知辛い世相を片時でも忘れさせてもらった気がする。明るく途方もない話題に感謝、である。
折角だから僕も宣伝に一役、登場する温泉旅館とは、金沢市湯涌温泉の「金澤湯涌温泉百楽荘」である。
最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間11月9日17時の時点で、世界全体の感染者数は2億5037万人に、亡くなった人は506万に迫っている(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。
(※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/)
【文責:知取気亭主人】
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