2021年12月1日
毎年、この時季になると、決まってやっていることがある。冬支度の一環として、春から外に出してあったシンビジウムの鉢の大移動である。“大移動”などとは少々大げさ過ぎるが、実際のところ最短で約5m、最長でも10mほど移動させるだけだから、移動距離にすれば全く大したことはない。ただ、シンビジウム以外の観葉植物も一緒に移動させていて、今年初めて越冬に挑戦する胡蝶蘭の2鉢を含め、何だかんだ15鉢ほどと結構な数になる。これを、玄関先に設けた狭い風除室に仕舞い込まなければならず、意外と時間が掛かり、あーでもないこうでもないと頭も使うのだ。むやみやたらに置くと、風除室に入りきらないものが出て仕舞い、結局外に置いたまま枯らせてしまうことになる。そうしないための工夫が必要で、移動距離は無いに等しいが、僕にとっては大移動なのだ。
その風除室には、家族7人分+αの傘や、屋外に止めてある車の屋根やフロントガラスに降り積もった雪をどかす道具(スノーブラシというらしい)を3台分、除雪用のスコップなど、雪国特有の道具も入れなければならず、鉢を置けるスペースはごく限られてしまう。入りきらないと諦めてしまえばそんなものなのだが、それぞれの観葉植物には愛着があって、今も諦めきれないでいる。特にシンビジウムは、4人の子供たちそれぞれに違う種類の株を買い揃えたものや、妻の友人から譲ってもらった珍しい色や形の花もあって、それぞれに思い入れがある。また、我が家の中では冬の寒々とした景色の中で華やかな彩りを添えてくれる貴重な花でもあり、おいそれと枯らす訳にはいかないのだ。
しかも、我が家に来てからずっと咲かせ続けているから、今更枯らせてしまったら、との強迫観念じみた思いもある。そうした思いがある一方で、実を言えば、僕は、この“大移動”以外殆ど世話をしていない後ろめたさも持っている。咲き続けてくれてはいるものの、シンビジウム自身の強さと妻のお世話に、おんぶに抱っこ状態なのだ。それでも、それぞれのシンビジウムを身近に感じることもある。それが、今回の“大移動”と春の“逆大移動(外に出す時)”、そして咲いた花を妻と愛でる時だ。そんな年3回ほどの機会に、妻から“花が家に来た謂われ”と“思い出話”を聴くのが、ここ最近の恒例となっている。
シンビジウムの花は比較的花持ちが良く、どの株も大体春いっぱいまで楽しむことができる。お蔭で、白黒の世界と揶揄される、灰色の雲が低く垂れこめるどんよりとした北陸の冬でも、我が家の玄関先は、毎年シンビジウムの花が華やかに飾ってくれている。朝出かける時も帰宅する時も、観るだけで気分が良い。そんな光景を脳裏に浮かべ、鉢の外側を洗いながら花芽を再確認しているのだが、毎年妻の説明を聴きながら愛でている筈なのに、鉢と花芽を見ただけでは、どんな花を付けるのか思い出せない。妻の説明を聞くと、「あーそうだった!」となるのだが、一向に覚えられないでいる。
記憶するのが苦手ということもあるが、大移動と逆大移動の時しか関わっておらず、思い出と紐付いていないという点が覚えられない最大の理由なのだろう、と勝手に決め込んでいる。片や妻は、一番の古株だと30年近くにもなり、その間ずっと世話を続け、しかも枯らさずに咲かせ続けているのだから、思い入れは僕より遥かに強い。また、花芽が出て立派な花を咲かせる様子を我が子の成長になぞらえているのではないか、とも思う。花が咲く度に思い出が蘇り、花が終わってからも欠かさず世話を続けている訳で、毎年紐付けを再確認していることになる。負け惜しみではないが、これだけ紐付けが強ければ、「これは、誰それのこんな花」と記憶にしっかりと残る筈である。
そう考えると、毎年今頃の時季になって花芽を確認した時は、嬉しさもひとしおなのではないかと思う。僕でも、見つけた時には「オッ、出てるな!」と嬉しくなってしまうほどだから、妻の喜びは推して知るべしだ。そして、嬉しい事に、今年もまたたくさんの鉢が“花芽”を付けてくれた。このまま順調に生育してくれれば、今シーズンの冬も華やかな花を楽しむことができる。今から本格的な冬を迎え、鬱陶しい天気が続く北陸だが、この花芽たちの成長を楽しみながら乗り切ることにしよう。もう少し待てば、奇麗な花が咲く!
ところで、話は全く違う方向に飛ぶが、最近、「ヒトの花芽も大事だな」と気付かされるスポーツイベントを観た。プロ野球の日本シリーズだ。石川県出身の奥川選手の活躍もあって、久しぶりに中継を観ていた。すると、まさに僕らと似たような思いで若手選手を育ててきたんだろうなと思えるような選手起用と、その起用に答えた若手の大活躍だ。見事な花を咲かせ、見せてくれた。そして、試合そのものも手に汗握る接戦で、若手の活躍が一層輝いて見えた。プロの選手にそんな言葉は失礼だとは思うが、ヤクルト、オリックスの両チームに、楽しみな花芽をたくさん見つけられた、良い日本シリーズだった。これから暫くは、両チームとも優勝争いに必ず絡んでくる、そんな予感をさせる戦いでもあった。そして、ヒトの花芽も大事にしないといけないな、とつくづく感じた次第である。
最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間11月30日17時の時点で、世界全体の感染者数は2億6218万人を超え、亡くなった人は521万に迫っている(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。
(※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/)
【文責:知取気亭主人】
ピンクかな? 黄色かな?
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