いさぼうネット
賛助会員一覧
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
知取気亭主人の四方山話
 

『史実が知りたい』

 

2021年12月15日

今、ホテル住まいをしながらこれを書いている。昨年の年明け早々から始まったコロナ禍以来、3度目のホテル住まいである。昨年の丁度今頃に1度目、今年の春に2度目、そして今回が3度目である。病院勤めをしてる息子夫婦の職場の決まりで、いずれも飲食を伴う宿泊をした後の1週間ほどの“隔離目的の宿泊”なのだが、まさか1年の間に3度もホテル住まいになるとは、思ってもみなかった。去年の今頃は、「年が明けて夏になれば…」と期待していたのだ。と言っても、ホテルに泊まること自体は、コロナ禍になる前には月に1、2度は出張していたから、そんなに苦痛ではない。

ただ、このコロナ禍のホテル住まいは、それまで経験した出張の時と違って注意を払わなければいけない事が多く、何となく気が抜けないでいる。いつもマスクは手放せないし、地元金沢での宿泊に加え、行きたい場所に自由気ままに出歩けられない、という制約があるのだ。周りは見慣れた景色ばかりだし、その上、二次感染の防止が目的であるから、当然のことながら夜の街に繰り出す訳にもいかない。そうすると、当然ホテルで過ごす時間が増え、テレワーク以外の時間を持て余すことになる。ネオンや提灯にも目もくれず、持て余した時間を有意義に過ごさなければいけない訳だが、読書好きを自認している自分としては、実はまたとないチャンス到来、と秘かにほくそ笑んでいる。今まで部屋の片隅に積んでおいた本を、まとまった時間掛けて読めるからだ。

ということで、前の2回と同じ様に、今回も“気になりながら読めずにいた本”を持参した。今回の四方山話は、その持参した4冊の中から、一気に読み終えた“ある本”を紹介したい。ネットで書評を読み、面白そうだと買い求めてあった本である。期待にたがわぬ面白い内容に、これはぜひ紹介しなければ、となった次第である。タイトルもさることながら内容も結構過激で、気に入らない明治の英傑を一刀両断する辺りは、ある種心地良い反面、「そこまで言い切っても大丈夫?」と心配になるほどだ。その本とは、原田伊織著『消された「徳川近代」明治維新の欺瞞』(小学館 2019)である。作者の原田伊織氏は、(僕自身まだ読んだことはないが)「明治維新の過ち」三部作の著者として、明治維新好きには知られているらしい。

一言で言うと、教科書で学んだ「日本近代の始まり=明治維新」は間違いで、「実質的に近代をもたらしたのは江戸末期徳川幕府の英傑たちであった」と力説している本である。そして、史実はこうだった、と(僕の記憶に残っていないだけなのかもしれないが)教科書にはほとんど顔を出さないその証拠を詳らかにしている本でもある。書かれている内容が本当だとしたら、我々は間違った歴史を学んできた、いやもっと辛辣に言えば、特定の人たちに忖度して間違った歴史を学ばされてきたことになる。どこかで聞いたような話である。

表題の一部に「明治維新の欺瞞」とあるように、本書では、日本人が教科書で学んだ「明治維新」には登場してこない徳川幕府の英傑たちが実はこんなにもたくさんいて、そうした英傑たちが何故歴史の表舞台から消えていったのか、消されていったのか、そこに明治新政府の中心となった薩長の欺瞞が渦巻いている、と熱く語っている。勿論、本書の内容に間違いのないことが前提だが、少なくとも、勝海舟や坂本龍馬など歴史の表舞台で英傑扱いされている維新の偉人と言われる人物への“ぼろくそ評価”を別にすれば、幕府英傑が成し得た業績についての賛辞は、史実を丹念に調べ上げてのことだと思われる。歴史が、史実が、不当に歪められていることに余程腹立たしさを覚えるのだろう。自らが言う「欺瞞」を白日の下に晒すべく、本書や『明治維新の過ち』三部作を発表することによって、明治新政府によって意図的に歴史の表舞台から引きずり降ろされた徳川幕府の英傑たちに改めて光を当て、歴史の表舞台に立たせよう、と奮闘していることがうかがえる本である。

今NHKで放映されている大河ドラマ『晴天を衝け』の主人公、渋沢栄一も幕臣であった。そうした事実も考え合わせ、冷静になって考えると、徳川幕府から英傑が出ていたとしても、何ら不思議はない。咸臨丸の航海長として日本人初の太平洋航海を果たし、現代に繋がる鉄道網を構想していた小野友五郎、日米双方の貨幣の品位を測定して実際の金の含有量を下に為替レートを決定させ、横須賀造船所を造り日露戦争の勝利に大きく貢献したと言われる小栗上野介忠順(ただまさ)など、本書で取り上げられている徳川幕府の英傑は枚挙にいとまがない。我々が学んだ歴史では、咸臨丸=勝海舟であったが、それはどうも眉唾らしい。

小栗は、その他にも日本初の本格的洋風ホテルの建設・営業を推進するなど、発想豊かな英傑であったが、惨殺されている。後に、大隈重信が「我々が今やっていることは小栗の模倣に過ぎない」と語っているという。だとすると、ますます史実が知りたくなってくる。やはり、三部作読んでみるか!

最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間12月14日17時の時点で、世界全体の感染者数は2億7078万人を、亡くなった人は531万を超えた(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。

(※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/

【文責:知取気亭主人】


消された「徳川近代」明治日本の欺瞞 「消された『徳川近代』明治日本の欺瞞」

【著者】 原田 伊織
【出版社】 小学館
【発行年月】 2019/2/20
【ISBN】 978-4093886529
【頁】 320ページ
【定価】 1430円(税込)

Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.