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知取気亭主人の四方山話
 

『当たり前』

 

2022年10月19日

今の日本に暮らす我々は、“当たり前”の中にどっぷりと浸かっている。スイッチを入れれば明かりが点き、様々な電化製品を“当たり前”の様に使っている。そうした様々な家電の恩恵によって、家事労働に費やす時間は大幅に軽減された、と言われている。大幅に軽減されたのは、移動に費やす時間もそうだ。交通網の整備によって、半世紀前に比べ格段に高速化が図られている。移動手段の選択肢も多岐に渡り、余程のことがない限り、行き先や移動する目的に合わせ選ぶ事が可能だ。そして、やはり“当たり前”の様に好きな移動手段を選んでいる。交通網が未整備の国では、こうはいかない。

また“当たり前”と言えば、日本では、蛇口を捻るだけで安全な水を飲む事も出来る。開発途上国の女性や子供たちにとって最も過酷な労働だと言われている水汲み、そうした過酷な労働から解放され、しかも水道水をそのまま飲めるのだ。多くの日本人はそれを“当たり前”だと思っているが、実は水道水をそのまま飲める国や地域は、世界を見渡しても極僅かしかない。国土交通省が発表した『令和元年版 日本の水資源の現況 第7章 水資源に関する国際的な取組み』(https://www.mlit.go.jp/common/001315700.pdf)によると、水道水をそのまま飲めるのは、ドイツやアイスランドなど日本を含め8カ国のみとなっている。世界から見れば、蛇口を捻るだけで安全な水を飲む事が出来るのは、決して“当たり前”などではなく、極めて稀な恵まれたケースなのだ。

水道水に限らず、特段意識することなく享受している“当たり前”は、様々なインフラが整備され、しっかりと維持管理されているからこそであり、その維持管理がおぼつかなくなれば、一夜にして“当たり前”でなくなる恐れがある。猛暑の今夏に危惧された大規模停電然りであり、災害により生活道路が遮断された場合も然り、豪雨災害により静岡市で続いた断水騒ぎ然りである。5月に大規模な漏水問題で世間を騒がした明治用水も、“当たり前”と思っていた用水利用が出来なくなった結果の騒ぎである。

“当たり前”と思うかどうかは、基本的には個人の感受性に帰するのだが、人間はとかく便利で楽な方に流れがちで、そうした状況に長年浸っていると、それが“当たり前”だと思う様になってしまう。何の違和感もなく、それが普通だと思ってしまうのだ。結果、俗に言う「茹でガエル現象」と一緒の症状に陥り、危機感は乏しくなり、変化への対応力は衰えてしまう。

そうした“当たり前”の思いは、良きにつけ悪しきにつけ、実は日々の暮らしの中で知らず知らずのうちに身に付いてしまっている。便利さばかりの中に身を置いて生活していると、いつの間にか日々の生活そのものが“当たり前”になってしまうのだ。ところが、実はそうした“当たり前”は、先にも述べた様に、様々な条件が揃って初めて享受できるもので、実際は砂上の楼閣と同じで決して盤石ではない。自然災害、事件・事故、紛争や戦争など、“当たり前”である為に必要な条件を一瞬にして失わせる脅威は、至る所にある。

少し大上段に構えてしまったが、こうした“当たり前”と思う思考は、幼い子供にも当てはまるのではないかと思っている。我が家の孫たちにも、である。便利な生活を満喫し続ければ、それを“当たり前”と感じるのは仕方が無い事だ。しかし、孫たちには、「茹でガエル現象」に陥らない為にも、「“当たり前”の有り難さ」を学んでもらいたい、と願っている。そこで重要となってくるのが、便利な生活から時々で良いから距離を置くことだ。実は、少しずつだが実践し始めている。

今年の春から、末の孫娘(小1)のお迎えをするようになった。第984話『道草』にも書いたが、放課後に通う「放課後児童クラブ(以下、学童保育)」へのお迎えだ。大多数のお迎えが車で行われている中で、なるべく徒歩で行くようにしている。僕の知る限り、徒歩でのお迎えは5軒だけだ。しかも、我が家以外は皆近く、4軒とも学童保育とは100mと離れていない。小1の足で凡そ15分掛かる我が家とは雲泥の差だ。そうした事を知ってか知らずか、当初喜んで歩いていた孫娘が、夏頃から時々愚図る様になった。どうやら、車に乗ってサッと帰っていく友達が羨ましいと見える。

『爺ちゃんは、こうやって○○ちゃんと手を繋いで帰るのが大好きなんだ!』とか、『今日は違う道を通って大冒険しよう!』などと声を掛け、何とか歩かせようとしている。すると、歩き始めは愚図っていたのに、暫くすると道すがらの話に気を奪われるのか、愚図りもせずに帰宅してくれる様になった。途中で聴こえる鳥や蝉や虫の声、草花や木の実、雲や夕焼けなど、更には途中で見つけた犬のフンまでをも総動員して、関心を惹いている。そのお陰か、たまたま車で行った時など、『今日は冒険して帰りたかったな!』と言う様になってきた。しめしめ、である。

実は、孫たちには歩くことを厭わない大人になってほしい、と強く願っているのだ。“当たり前”の有り難さを感じる為にも、環境の為にも、健康の為にも、そして懐の為にも、である。

最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間10月18日17時の時点で、世界全体の感染者数は6億2523万人に、亡くなった人は657万人に迫っている(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。

(※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/


【文責:知取気亭主人】


ここはルート外だが、こんな景色も話題にしている
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