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知取気亭主人の四方山話
 

『条件反射』

 

2022年11月9日

心理学の世界に「パブロフの犬」という言葉がある。聞いた人も多いだろう。「パブロフの条件付け」とも言われていて、1890年代、ロシアの生理学者イワン・パブロフ(1849〜1936年)が発見した、犬がエサに関連して見せる生理現象のことだ。犬の唾液分泌について研究していた彼は、偶然にもエサを持ってくる飼育係の足音などを聞いた途端に、犬のよだれ(唾液)の分泌が多くなることに気付き、そこでその事実を確かめるために、ベルを鳴らしてからエサを与えて唾液の分泌量を測定する、という実験を行った。その結果、確かに、ベルの音を聞くだけでも唾液の分泌量が増えることを確認したのだ。これがいわゆる「パブロフの犬」、条件反射である。

もう少し平たく言えば、条件反射とは、動物が訓練や経験によって後天的に獲得した反射行動のことだ。勿論、我々人間にもある。日本人なら分かると思うが、酸っぱい梅干を食べた事のある人が梅干を見ただけで唾が出てくるのは、その最たるものだろう。また、俗に「白衣高血圧症」と呼ばれる症状も、条件反射の一つではないかと思っている。血圧を気にしている人が、家などで測定すると正常であるにもかかわらず看護師や医師などを前にして測ると高い値になる、そんな人たちの症状の事だ。原因は、緊張することで自律神経の乱れがおこり、交感神経が優位になるなどで一時的に高血圧になる、と考えられているらしい。僕も、今はほぼ正常値だが、昔140mmHgを超えていた時など、冗談めかしに『白衣高血圧かなあ?』ととぼけていたものだ。相手にはしてくれなかったが…。

先の梅干しに見られるように、犬ほどではないにしても人の食欲も、結構様々な条件に反応(反射)しているのではないかと思う。今は聞かれなくなったが、焼き芋の移動販売の声が聞えてきたり、夜中に屋台ラーメンのチャルメラの音が聞えてきたりすると、途端に食欲中枢が刺激され食べたくなったのも、同じ様なものなのだろう。また、そうした食欲と間接的に関連していることで言えば、僕は特異な、考えようによってはかなり優れた条件反射を獲得しているのではないか、と自信を深めていることがある。夕飯のおかずが刺身だったりおでんだったりすると日本酒が欲しくなり、BBQと聞けばビールが恋しくなり、和洋折衷の時にはワインを友として、それ以外の時には食事酒として泡盛や焼酎とお付き合いをしたくなるのだ。家族からは『ただの酒好き!』と一笑されそうだが、こうした僕の特異思考や行動も、条件反射と言えなくもないのではないだろうか?違うかな…。

とまれ冗談はさて置いて、僕には上記に述べた飲食以外にも変わった条件反射があって、実は最近、それで悩ましい事態に陥っているのだ。正確を期せば、「条件反射がある」というよりは、「最近身に付いてしまった条件反射がある」と書くべきだろう。同じ条件反射を早い時期から身に付けていた妻に言わせれば、『私の言っていた事分かるでしょう!』となる。恐らく、女性の読者なら、或いは高齢の男性でも、『良く分かる!』と同調してくれるのではないか、と思う。それは、水道の蛇口から流れ出る水の音を聞くとトイレに行きたくなる、というちょっと気恥ずかしい条件反射である。

4、5年前には、トンと縁のなかった反射である。前立腺肥大が進むにつれ、頻尿が激しくなり、夜間トイレに起きる回数も増えてきた。そんな現象が身に起こってくるのと同時並行的に、いつの間にか「水の音⇒尿意」の条件反射が出来上がってしまった。女性の場合そうした条件反射が良く起こる、とは随分前から聞かされていたが、実感できない分、「女性はトイレが近いからそんなものかな」位にしか思っていなかった。しかし、いざ自分がなってみると、その見事なまでもの反射に、思わず笑えてしまう。ただ、そうした反射が出た時は結構急を要する時が多く、冗談めかしに伝える「今こんな状況!」も思わず早口になる。妻の前でそんな様子を見せると、笑いながら『早く行ってきて!』と言う。代わりに行ってもらう訳にもいかず、言われるまでもなくトイレに駆け込む訳だが、何とも凄い条件反射を獲得してしまったものである。自分でも驚いている。

ところで、この条件反射、最近更に敏感になって来ているのではないか、と心配している。以前反応していたのは、炊事場の蛇口だけだったのだが、最近は浴室のシャワーの音にも時々反応するようになって来ているのだ。風呂に入る前には必ずトイレに行くよう心掛けているから、滅多にないのだが、時々膀胱に残尿があるらしく、突然尿意を催してくる。今のところ我慢できないほどではないが、膀胱の容積を半分ほど減らしていると言われている前立腺の肥大が、センサーをより敏感にしているらしい。他の感覚は歳と共に衰えていくのに、このセンサーは一向に衰えないらしい。尤も、衰えてもらっても困るのだが…。

いずれにしても、一緒に入ることの多い孫の手前、醜態は見せられない。「パブロフの犬」ならぬ、「風呂場の爺」と冷やかされないよう、気を付けなければ…!

最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間11月8日14時の時点で、世界全体の感染者数は6億3294万人を、亡くなった人は660万人を超えた(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。

(※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/


【文責:知取気亭主人】


菊が美しい花を咲かせるにもいろいろな条件がある。

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