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知取気亭主人の四方山話
 

『驕れる人』

 

2022年11月16日

NHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が、もう直ぐクライマックスを迎える。貴族と結びつき絶大な権力をほしいままにした平家、その平家を亡ぼした源氏と、本格的な武家政権による統治が始まった鎌倉時代初期に焦点を当てた歴史ドラマである。三谷幸喜氏脚本によるドラマだけに何かと話題になることが多いが、奇しくも、丁度その頃の出来事を(もちろん誇張や想像も含まれるが)記録していたのではないかと思われる、有名な物語がある。皆さん良くご存知の『平家物語』だ。

平家滅亡から鎌倉幕府誕生までを、敗れた側の平家に力点を置いて描かれた、鎌倉時代前半(13世紀前半ごろ)に作られたと言われている物語である。我々の学生時代には教科書にも取り上げられていて、『平家物語』というタイトルそのものは、日本人にとって大変馴染み深いものになっている。また、詳しい中身は知らないまでも、その出だしの次の一節は、あまりにも有名で、「試験に出るから」と言われ、覚えさせられた人も多いだろう。僕もそうだ。お蔭で、半世紀以上前の事なのに、今でもそらんじる事が出来る。

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理(ことわり)をあらはす。驕れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵におなじ。

しかし、こうやって今読み返しても、七五調を基本にしたリズムは、日本人にとって極めて聞き心地が良い。だから耳に残り易い。しかも、(定かではないが)凡そ700年以上も前に作られたと言われる作品なのに、現代でも十分に通じる真理を言い当てているから驚きだ。逆に言えば、700年以上経っても“驕る”という人間の本質は、もう少し過激な表現を借りれば我々日本人の驕り易い本質は、一向に変わっていないということなのかもしれない。我々日本人には先人が示してくれたこの『平家物語』があり、それを教科書として学んだ筈なのに、である。

700年後の今も、相も変わらず同じ様な失敗を繰り返し、民衆の非難の的となっている。しかも、失敗するのは、政界・財界・教育界などに身を置く、極めて影響力のある御仁たちだから情けない。コロナ禍以前も数えきれないくらいあったとは思うが、特に最近は、権力を笠に着てのやりたい放題騒動が多く、「驕れる人も久しからず」を地で行くようなことが数多く報道されていて、うんざりしている。そうした報道を聞く度に、そんな連中が日本の国のけん引役としてのさばっているのかと思うと、ほとほと悲しくなってくる。

最近も、驕りとしか思えないような発言をして、大臣を更迭された御仁がいる。葉梨元法務大臣だ。更迭の直接の原因となった死刑執行を巡る失言ももっての外だが、『金になる、ならない云々』など、これほど有権者を馬鹿にした話はない。国家を論じる気持ちなど露ほどもないことを如実に言い表している。国会議員になったことで、『先生、先生』と呼ばれ、自分は偉くなったとでも勘違いしたのだろう。政治家で言えば、葉梨元法務大臣の前に更迭された山際前経済再生担当相も、旧統一教会を巡る、質問者や国民を小ばかにしたような答弁は、驕り以外の何物でもない。かくなる上は、有権者が人を見る目を養う必要がある。しかも、今すぐに!

一方、教育界に目を転じれば、昨年の11月29日に、日本大学のトップとして権勢をほしいままにしていたと言われる田中英寿前理事長が、巨額の所得を隠し脱税した疑いで東京地検特捜部に逮捕された。日本大学と言えば、約7万人の学生数を誇る日本最大のマンモス校だ。歴史もある。そして何と言っても教育界での不祥事だ。加えて、司直の手が伸び始めたあたりから、田中氏を巡るあまり宜しくない噂が、報道される様になった。取り巻きのヨイショ、もう少し辛辣に言えばおこぼれを頂戴する同じ穴の狢、がそうさせていったのだろうが、田中氏は“日大のドン”として「誰も逆らえない」状況を作り上げてしまっていたという。もし田中氏に今でも教育者としての矜持があるならば、『平家物語』の出だしを噛み締めて欲しいものである。

また、国民の耳目を集めた国家的事業でも、「驕れる人も久しからず」を地で行く事件が世間を騒がせている。東京オリンピック・パラリンピックをめぐる汚職事件だ。どこまで司直の手が伸びるか、後ろめたい人たちは戦々恐々としてることだろう。綺麗サッパリと膿を出し切ってほしいものだが、トカゲの尻尾切りで終わらないことを祈るばかりだ。そんな中、係わった会社の社長らが贈賄の疑いで逮捕された。中でも、大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者は、4度逮捕されていて、“身内でやりたい放題をやっていた”の感は拭えない。国家的事業であるにも拘らず、である。

子供のころ教えられた「実るほど頭を垂れる稲穂かな」を実践できる人に、この日本を引っ張っていってもらいたいものである。驕れる人は、真っ平だ。

最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間11月15日17時の時点で、世界全体の感染者数は6億3553万人を、亡くなった人は661万人を超えた(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。

(※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/


【文責:知取気亭主人】


孫との帰り道で見つけた晩秋
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