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知取気亭主人の四方山話
 

『ライト』

 

2022年11月30日

ドイツの文豪ゲーテは、臨終の間際に、『もっと光を!』と言ったとされている。実際そんな短い言葉だけだったのか、真相はどうも詳らかではないらしい。『もっと光が入るように、寝室のよろい戸を開けてくれ』と言った、との話もあるという。日本医事新報社による『ゲーテの最後の言葉「もっと光を!」(Mehr Licht!)をめぐって[エッセイ]』と題したコンテンツには (https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=277) 、その辺りの事が詳しく述べられている。いずれにしても、どうやら『暗いからもっと明るくしてくれ』という意味らしい。

元々人間は、ゲーテならずとも暗いところが苦手で、闇に対して恐怖心がある動物だ。恐らく、人類は遥か昔から食物連鎖の頂点に君臨していたわけではなく、地球上に誕生して間もない頃は、肉食獣の餌食になることも度々あったに違いない。闇に紛れて襲われる、そんな事も長い間繰り返され、その時の恐怖心が深層心理として今も残っているのだろう。僕は勝手にそう解釈している。暗いと目で安全を確認できない、そういった不安も大きい。遥か昔に比べ格段に安全になった現代でも、暗闇が苦手な人は多い。子供は典型だし、僕もどちらかと言えばそっちの部類に入る。特に、歳と共に暗さに弱くなった最近では、とみに苦手になって来た。そういう意味では、ゲーテが『もっと光を!』と発した時の気持ちは、痛いほど良く分かる。

そんな僕にとって、今必需品となっているのが、ライトである。自転車を購入した時に一緒に買い揃えたライト、そして末の孫娘をお迎えに行く時にひと月ほど前から使い始めたライト(俗に言う懐中電灯)、どちらもこれまでになく頻繁に使っている。そして、ライトの性能にこれほど一喜一憂したことも、これまでにないことだ。何しろ、最近は持病もあって加齢による視力の衰えを実感する毎日で、若い時に比べて随分暗さに弱くなっている。必然的に、明るいライトが必需品となっているのだ。先にも書いた様に、明るくないと見にくくて、安全確認が難しくなってしまう。天敵に襲われるという恐怖は全くないのだが、進む先の状態が良く確認できないのは、何とも不安でしょうがない。事実、つい2週間ほど前の会社からの帰り道、自転車に乗っていて転んでしまった。

17日の木曜日、会社の仲間と雪囲いをした。昨年からずっと気になっていた作業だ。思った以上の仲間の技術に歓声を上げながら作業をしていたのだが、グリーンキーパーとしては、帰りの時間が少し遅くなってしまった。自転車に乗り会社を出た直後に、ライトを点けないといけないほどの暗さになっている。直ぐにライトを点けた。交通量の多い道路の歩道を走っている時は車のライトに助けられてそれ程難渋しなかったのだが、車道と離れた河川敷の自転車道は、自転車のライトだけが頼りで、薄暗く路面が見にくい。

暗い自転車道を抜けて、再び交通量の多い繁華街に出た。暫く明るい歩道を走り、やがて家迄あと数百メートル地点の大きな交差点に着いた。辺りは暗い。横断歩道を急いで渡り、直ぐに左折した。その瞬間、街路樹の縁石に乗り上げ、横転してしまった。縁石など、全く気が付かなかったからだ。転んだ拍子に、右膝をしたたか打ってしまった。ズボンをたくし上げ膝を見ると、擦り剥けて血が滲んではいるが、大したことはない。

家に帰り、翌日取り付けてあるライトを確認してみると、400ルーメンとある。ネット情報によれば、凡そ300ルーメン以上あれば、「夜間走行中に10メートル先の状況が確認できる明るさ」の基準を満たすという。どうやら、性能的には問題が無いようだ。だとすると、僕の目と電池残量が問題なのかもしれない。これを書き終えたら、充電してみることにしよう。それで明るくなってくれればいいのだが…。

孫娘のお迎え用ライトにも難渋した。問題となったのは、前から家にある、僕の手に収まるサイズの、小型だけれど結構明るいライトだ。家を出る時に点灯することを確認し、お迎えに行った。孫娘と並んでの帰り道、夜道で初めて点灯してみると、随分と暗い。近くを照らすのだが、足元も凝視しないと良く見えない。『これだと犬のうんち見えないね、電池が少ないのかもしれない』と話しながら帰宅し、電池を換えてみた。すると、接触不良なのか、明るくなったり暗くなったりする。そこに帰ってきた孫息子、『貸して!』と言って、何だかんだいじっているうちにパッと明るくなり、その後何度点けたり消したりしても暗くならない。明るいままだ。さすが孫息子だ!

ところが、である。翌日の夕方使ってみると、一向に明るくならない。暗いままだ。点けたり消したりしているうちに、とうとう点かなくなってしまった。仕方なく、新しいライトを買うことにした。明るい方が孫娘も安心するだろう、ということで7500ルーメンと、とてつもなく明るいライトを購入した。数値だけなら、先の自転車用ライトの20倍近くもある。手元に届き、孫娘と一緒に使い初めをしたが、驚くほど明るい。目の薄くなった僕でも十分な明るさだ。孫娘は、懐中電灯片手の夜の歩行が楽しいらしく、今も喜んでライトを持ってくれている。やはり文豪は違う。ゲーテは核心を突いている!

最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間11月29日17時の時点で、世界全体の感染者数は6億4166万人に迫り、亡くなった人は663万人を超えた(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。

(※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/


【文責:知取気亭主人】


菊
ライトに浮かぶ仲間力作の雪囲い (撮影・写真提供:J.I氏)

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