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知取気亭主人の四方山話
 

『冷蔵庫で芽生えた栗のドラマ』

 

2022年6月15日

今、金沢では色とりどりの花に交じって、栗の花が咲いている。下の孫娘のお迎えの時通る歩道から山手を見ると、遠目からでもそれと分かる白っぽい花が、木を覆いつくさんばかりに咲いている。ススキの穂の様に咲くその白っぽい花は、実は雄花だという。まだ確認した事は無いのだが、その穂の根元に雌花がひっそりと咲くらしい。その雌花が匂うのか、大量の雄花が発するのかは定かでないが、栗の花が咲くと、辺り一面に独特の匂いが漂う。余り好い香りではないのだが、沈丁花や金木犀などと同じで、風に乗って運ばれてくると直ぐそれと分かり、「あっ、近くに栗の木があるな!」となる。

匂いも含めさほど注目されない花に比べ、秋に収穫される実は、その逆でほぼ間違いなく万民に愛されている。渋皮煮にしたり、焼き栗にしたり、栗ご飯を炊いたり、甘露煮にしてお菓子に利用したりと、日本人は、あの手この手で楽しんでいる。また、昔能登半島の栗園に栗拾いに行った事があるのだが、栗は収穫の喜びも味わうことができる。そんな栗が、ひょんな事からドラマの主人公になった。脚本を手掛けたのは、妻である。

僕の姉の嫁ぎ先、そのまた親戚に沢山の栗の木があって、世話をしている姉たち夫婦が、毎年立派な栗を送ってくれる。よく渋皮煮にしていただくのだが、数年前、頂いたものを冷蔵庫に保存したまま失念してしまった。そのまま一年が経ち、冷蔵庫を開けた妻が、何と芽が出ている栗があるのに気が付いた。驚きの声を上げたものの、直ぐに遊び心に火が点いたらしく、面白いことを思い付いた様子だ。“そもそも論”から言えばこの失念からなのだが、ここからいよいよドラマが動き始める。

台所から聞こえてくる話の様子では、卵のパックに芽の出た栗を入れ、4年生になったばかりの孫娘に、学校に持っていくように勧めている。どうやら、理科の教材として使ってもらおう、という魂胆だ。冷蔵庫の中で栗が芽を出した事など、我が家でも初めてだ。当然普通の人は栗の実から芽が出てそれが育っていく過程など見た事ないだろう、だから教材として面白いのではないか、と考えたらしい。2年前の事である。

それが今年、突如、学校から『成長した栗の木を引き取ってもらいたい』との連絡がきた。孫娘の話では、『栗は虫が付くので、学校ではこれ以上育てられない』というのが理由らしい。そうは言われても、折角2年間も育てたのに、「はいそうですか、では処分してください」ではつまらないし、学校に持たせた妻の脚本(意図)とは明らかに違う。

孫娘の担任が長休みには家に持ち帰って世話をしてくれていたと聞いていて、このまま処分してしまうには忍びない、と考えたらしい。また、孫娘に対しても、せめて実がなるまでは関心を持たせておきたい、とも考えたのだろう。『どこか植えるところない?』、と僕に聞く。ただ、我が家には植える場所がない。あれこれ思いあぐねた末に、我が家の墓があるお寺が児童養護施設を運営していることを思い出し、お寺に聞いてみようということになった。養護施設の新しい園舎が我が家と小学校の中間に出来たばかり、その上同じ小学校に通う園児もいる、という縁も決め手の一つだ。急展開となる第二幕の始まりである。

早速住職に電話を入れ、事の次第を説明した。『検討します』という前向きな返事をもらい、結果を待つことにした。待つこと凡そ2週間、園の工事をした造園業者に確認したところ“植えても大丈夫”と言われた、との嬉しい連絡がきた。それを聞いた妻の喜び様はない。最近では見た事も無いくらい、テキパキとした段取りをしている。住職と小学校に矢継ぎ早に連絡を入れ、その日のうちに、移植する日時を決めてしまった。

いよいよその当日、我々も移植の現場に立ち会った方が良いだろうということで、夫婦して小学校に出向いた。事務の方から『これですよ』と示されたのは、中くらいのプランタに植えられ、高さ50センチほどに育った2本の栗の木だった。てっきり地に植えられていると思い込んでいただけに、造園業者も肩透かしを食らった格好だったが、にこやかに運んでくれた。我々も後を追うと、あれこれ場所を探している様子だったが、正面の階段を挟んで両側にスペースがあり、そこに1本ずつ植えることにした、と教えてくれた。見ると、実がなるまでに成長しても大丈夫そうな、主役の栗にとって安住の地になってくれそうな場所だ。一安心である。そして、ここから、この先に続く第三幕の場面へとなっていく。

芽を出したばっかりに捨てられる運命だった栗が、冷蔵庫を出て小学校で育てられ、2年の歳月を経て安住の地に辿り着き、そして運が良ければ花を咲かせ結実させることができるかもしれない。ドラマのような話だ。住職から頂戴した手紙に、「…ご縁頂いた木がどんな風に成長し、どんなドラマを生み出していくのか、期待に胸を躍らせています」と書かれていたが、そんな風に見てくれる人に巡り合えるとは、栗も幸せである。

第三幕の脚本は無いが、「桃栗三年柿八年 梅は酸くとも…」と言われているだけに、近いうちに新たな展開が見られるのではないか、と期待している。これから暫くは、孫たちとその成長を見守ることができる。この先どんな展開になるのだろう、楽しみだ!

最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間6月14日17時の時点で、世界全体の感染者数は5億3575万人を、亡くなった人は631万人を超えた(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。

(※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/


【文責:知取気亭主人】


移植された栗の木(右近も左近も栗)
移植された栗の木(右近も左近も栗)

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