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知取気亭主人の四方山話
 

『今どきの夏休み』

 

2022年7月27日

シンガー・ソングライターの吉田拓郎が、年内をもって音楽・芸能活動の一線から退く意向だという。1946年(昭和21年)生まれの彼の歌を今の若い人が聴いても、『歌っている人は誰?』といった感じなのかもしれない。しかし、我々団塊の世代にとっては、自分たちの青春時代とほぼ重なっていて、20代、30代の頃にはすこぶる人気があった。彼の歌を十八番としていた人も、周りには多かった。スナックに行ってマイクを持つと、必ず『結婚しようよ』や『旅の宿』を謳い上げる友人もいた。そうしたファンにとっても、また同世代の仲間としても、「一線から退く」と聞くと、いつかは来ると分かっていても一抹の寂しさを感じてしまう。

そんな彼が歌った数多くのヒット曲の中に、今の季節にピッタリの曲がある。曲名を、ズバリ『夏休み』という。1972年(昭和47年)にリリースされた、自身の少年時代を懐かしんで作ったとされる曲だ。その中に、「“麦わら帽子”、“たんぼの蛙”を見掛けなくなった」という意味の歌詞がある。リリースされた当時を思い返すと、外で作業している大人は別にして、確かに、子供がかぶっているのを見掛けることが少なくなっていたような気がする。

また、高度成長期の当時は、生産性向上の為に使われる農薬が生態系に及ぼす脅威について知見が足りず、使い続けた結果、たんぼから蛙やドジョウが消えたのも、良く知られた事だ。それは、今必死になって自然増殖に取り組んでいる、国の特別天然記念物「コウノトリ」の日本国内における野生繁殖個体が消滅した一因にもなっている、とも言われている。いずれにしても、我々が遊びまわっていた子供の頃からたった20年やそこらで、多くのたんぼから生き物が消えたのは、紛れもない事実だ。そして、今年でその『夏休み』のリリースから50年、夏休みの風景は、また更に変わってしまった様に感じている。そんな今どきの夏休みの風景を、孫の夏休みを通し、70過ぎの爺ちゃん目線で切り取ってみたい。

7月21日から我が家の孫たちは、一斉に夏休みに入った。20日の終業式の日、1年生の孫娘(以下、下の孫娘)が、学校で育てていたという朝顔のプランターを持ち帰ってきた。家でも世話を続けて下さい、という事らしい。下の孫娘に聴くと、2年生は朝顔ではなくミニトマトを育てている、と言う。どちらにせよ、植物の成長過程を学ぶにはまだ早すぎるから、恐らく、これらを育てることで季節感や生命の不思議、また自然観察の面白さなどを学び取ってほしい、との教育目標があるのだろう。

しかし、我々が子供の頃にはそんな教材は無かった。学校で育てた記憶もない。当時は、田畑も多く、自然の中で遊ぶのが当たり前で、敢えて教える必要も無かったのだと思う。ところが、自然豊かな環境の中で育つ子供たちを除けば、今どきの子供は違う。季節を問わず新鮮な野菜を食べられる上に、自然相手に遊ぶ機会は激減しているから、季節感が乏しくなるのは仕方がない事だ。だから、朝顔やミニトマトなのだろう。便利さと引き換えに失ったモノは実に多い。そう考えると、朝顔以外にも、大量の農薬を使用する前の生態系の豊かさを通して、自然の繊細さも教えてほしいものである。

一方、上の孫娘は、4年生の時から自由研究をしていて、結構頑張っている。ただ、自由研究自体は、我々が小学生の時にもあった。しかし、手っ取り早く昆虫採集や工作でお茶を濁し、後はずっと遊んでいた記憶しかない。それに比べると、上の孫娘は感心だ。自分でテーマを決め、至って真面目に取り組んでいる。爺ちゃんとしての立場もあるから大きな声では言えないが、取り組む姿勢は、僕より確実に上だ。

ただ、そうした個人差は脇に置くとして、研究のやり方や成果をまとめる時のツールには、我々の時代と格段の開きがある。我々の頃は、“やり方”も“成果”も全て手書きで表現しなければならなかった。研究用に装置や道具を使えば、手書きの絵で説明しなければいけなかった。ところが今は、カメラでパシャ、である。しかも、カラーで印刷も出来る。効率的にも見栄え的にも、我々の時代に比べると、遥かに優れている。

また、調べ物があると、我々は図書館のお世話になったものだが、今どきの子はインターネットで簡単に調べることができる。研究に使う器具も、余程特殊なものでない限り、転用できそうな物が簡単に手に入る。総じて、随分便利になった。その分、時間を効率的に使うことができ、昔に比べ突っ込んだ研究が出来るようになったのではないかと思う。ただそれは、失った自然と相反する形で手に入れた便利さ、とも言えてしまうのが辛い。

楽曲『夏休み』の歌詞の中に、「麦わら帽子」や「たんぼの蛙」と同じ様に、いずれ「♪…もう消えた」と詠われる運命にあるのではないか、と心配している風景がある。「畑のとんぼ」と「せみの声」だ。どちらも、昔に比べ遥かに減ってしまった様に感じているのだ。とは言え、「たんぼの蛙」で学んでいるから、「♪…もう消えた」とは言わせない英知が人間にはある筈だ、と信じてはいる。ただ、信じてはいるのものの、孫たちの虫嫌いを見ていると、信じる気持ちも揺らいでしまう。大丈夫なのだろうか?

最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間7月26日17時の時点で、世界全体の感染者数は5億7118万人を超え、亡くなった人は639万人に迫っている(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。

(※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/


メマツヨイグサ

 


【文責:知取気亭主人】


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