2022年8月17日
2月24日のロシア軍による突然のウクライナ侵攻によって、何となく絵空事の様に思っていた戦争が、いともたやすく惹き起こされるものだということを思い知らされた。そして、直接戦っている当事国でなくても必ず影響を受ける、ということも教えられた。この地球上に暮らす以上、例え遠く離れた地域で惹き起こされた戦争であっても、人や物が地球規模で行き来する現代に於いては、“我関せず”を決め込み係わりを持たないでいることはできないのだ。それだけ世界の国々は、経済的に何らかの繋がりを持ち、意図するしないは別にして、共存しているということである。我々はそれを特に意識せず暮らしてきたが、今回のウクライナ侵攻によって、図らずも、意識せざるを得ない状況に晒されている。
意識せざるを得なくなったのは、戦争が世界に及ぼす影響ばかりではない。その悲惨さや残虐性もそうだ。情報技術が格段に進歩した現代では、戦地の情報はリアルタイムで発信される様になり、悲惨な状況は瞬く間に世界を駆け巡っている。そうした優れた情報技術によって、遠く離れた日本にいても、戦況はかなり詳しく伝えられている。同時に、ウクライナ一般市民の被害状況も、である。戦争の被害者は、いつの時代も女性や子供、そして老人などだ。現地からの情報には、意図して攻撃したと思える病院や商業施設などの悲惨な被災映像もあって、胸が痛む。そういう点に於いて、我々日本人は、先の大戦時よりも遥かに正確な戦況や悲惨な状況を知ることができ、そして目の当たりにしていると言える。また、そうしたウクライナの状況を目にすることによって、多くの人が戦争の悲惨さや残虐性を強く意識するようになった、と思っている。
ウクライナに侵攻したロシアは、先の大戦では戦勝国になっている。しかし、それは甚大な犠牲を払って得たものだ(旧ソ連として、戦死者1450万人、民間人の犠牲者700万人以上:英タイムズ社「第二次世界大戦歴史地図」による)。軍人と民間人を合わせた犠牲者は、世界で一番多いと言われている。そんな悲惨な体験をした国が、何で再び戦争を始めたのだろうか。プーチン大統領が抱く、偉大な祖国ソ連への郷愁がそうさせた、とも言われている。仮にそうだとしても、侵略戦争反対の世論が湧き上がらなかったのは何故だろう?「自由に意見を言えない」という事情があるとも聞くが、根本的には、戦勝記念はするものの、大きな犠牲を払った負の側面を伝えてこなかったからではないか、と勝手に思っている。やはり、「戦争とは悲惨なもので、断じてやるべきではない」が国民に伝わっていない為、戦争反対の世論が湧き上がらなかったのではないだろうか。そういう意味からすると、日本も甚だ心許ない状況に思えてくる。
今年で戦後77年が経った。総務省の人口推計によると、戦争の記憶が多少なりともあると思われる80歳以上の人口は2022年7月時点で約1230万人と、10年前の2012年6月時点の70歳以上人口の約2160万人から約900万人余も減った。その上、1230万人の中でどれ程の人たちが、「語り部」として戦争の悲惨さを伝えているのか、さほど多くはないだろう。8月9日に行われた長崎原爆の日の長崎平和記念式典をラジオで聴いていたが、これまで同式典で歌声を披露してきた、被爆者でつくる合唱団「被爆者歌う会『ひまわり』」も、今回が最後だと言っていた。高齢化などにより団員が減ったことが大きな理由らしい。
同様に、広島・長崎の平和記念式典で「戦争反対、ノーモア広島、ノーモア長崎、原爆禁止」を訴える被爆者の生の声は、いつまで続けられるのだろうか。いずれ被爆者二世に引き継がれるとは思うが、その時の為政者はほぼ全てが戦争を知らない世代になっているだろう。だとすると、言葉の上でいくら戦争の悲惨さを説いても、真剣に「戦争反対、ノーモア広島、ノーモア長崎、原爆禁止」に取り組む為政者の言葉でない限り、空虚に聞こえてしまう。「無条件降伏」という日本人にとっては屈辱的な史実がいつの間にか霧散し、「敗戦」が「終戦」に言い換えられるようになってしまった今は、戦争の負の記憶も霧散しかねないのではないか、と心配している。
この四方山話の第831話『忘れてはならない日』でも書いたが、6月23日の「沖縄慰霊の日」、8月6日の「広島に原爆が投下された日」、同9日の「長崎に原爆が投下された日」、そして15日の「終戦記念日」の4つの日は、タイトル通り日本人として忘れてはならない日だと思っている。しかし、同話にも紹介しているが、街頭インタビューで明らかになったのは、忘れられていく現実だ。記憶の風化は予想以上に進んでいる。
では、どうしたらその風化を食い止めることができるだろうか。“手始め”として思っているのが、上記4つの日を休日にすることだ。全ては無理だとしても、せめて8月15日だけでもそうして欲しい。名前は「平和の日」でどうだろう。全国民が、戦争で犠牲になった全ての御霊を慰霊するのだ。そして、国民の命と財産を守り、平和を守り、戦争を避けるためにはどうすべきか、それを真剣に考える一日にすべきだと思っている。そうしなければ、風化を食い止め歴史を伝えていくことは難しい。この先、日本の世論は戦争回避の力を発揮できるのだろうか?『出来る!』と断言したい。でも…。
最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間8月16日14時の時点で、世界全体の感染者数は5億9119万人に、亡くなった人は644万人に迫っている(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。
(※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/)
【文責:知取気亭主人】
テッセン
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