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知取気亭主人の四方山話
 

『人財という視点』

 

2022年9月14日

手元に、昨年1月に亡くなった半藤一利(1930−2021)が著した本、『昭和史1926-1945』(平凡社、2004)がある。昭和史というタイトルにはなっているが、太平洋戦争を中心に書かれていて、高度成長期など戦後の昭和については触れられていない。戦前・戦中のターニングポイントとなった事件や出来事を分かり易く説明している本で、学校ではほぼ教えてもらえない内容である。帯に認められた「読者の声」に「小説のように読みやすい歴史書」とあるが、僕の感想も同じだ。同書の「あとがき」を読むと、編集者など戦後生まれの3人にもう1人を加えた4人の生徒に、終戦までの昭和史を授業したのが下敷きになっていることが分かる。読みやすいのも納得である。今年2月のロシアによるウクライナ侵攻以来、世界全体が何となくきな臭くなってきた今、もう一度読み返してみたいと思っている。

読み返すのはこれからとして、その『昭和史1926-1945』の第十三章「大日本帝国にもはや勝機がなくなって…」に、特攻隊出撃に至る流れが書かれている。そこを読むと、神風特別攻撃隊も回天特別攻撃隊も、“命令ではなく志願によった”、とされているのだという。いくらお国の為とは言え、全ての特攻隊員が志願したなど、あり得ない話だ。生きて帰ることができない人命軽視の無茶苦茶な作戦なのに、責任者があやふやにされている。責任回避の極みだ。こんな上層部の下で戦い、命を落とさなければならなかった特攻隊員は、本当に気の毒だ。まるで消耗品の様に使い捨てにされた。

パイロットを一人前に育てるには、時間が掛かる。しかも、誰も彼も能力があるとは限らない。それを考えれば、特攻隊員は皆かけがえのない財産、所謂人財である。その人財をないがしろにすれば、どんな組織であれ、衰退していくのは自明の理である。しかし、旧日本軍には、兵士を人財とみなす視点が欠けていた様に思う。十分な兵站を計画せず、食料は現地調達を旨として南方に送り出され、直接の戦闘ではなく飢餓で亡くなったと言われる多くの兵士がいた事を考えれば、そんな視点は毛頭なかったのかもしれない。負けるべくして負けた戦争だった、とも言える。そんな、旧日本軍の人命軽視の考え方が、いま再びあぶり出されている。きな臭い事態に対峙している自衛隊の実態が明るみに出始めたからだ。

令和5年度防衛費予算の大幅アップ議論の中で、その使途に注目が集まっている。9月7日の日経新聞電子版に、『自衛隊、劣悪環境で人材難 「人的資本」軽視のツケ』という記事があった。それを読むと、自衛隊の置かれたお寒い状況が見えてくる。エアコンが無い施設があるというのはまだいい方で、防衛省が所有する隊庁舎などの建物の4割(約9800棟)が、築40年以上経つ旧耐震基準で建てられたもので、その8割は既に耐用年数を過ぎているという。確かに、陸上自衛隊金沢駐屯地にも、年代物と思しき木造隊舎がいまだに見受けられる。9800棟のうち耐震改修済みは300棟あまり(約3%)だというから、ほぼ手つかずと言ってもいい。大規模災害が起こる度に出動要請を受け、被災地で活躍してくれている自衛隊だが、彼らが日々生活している隊舎の安全性が心許ない状況にあることは、我々国民は殆ど知らない。恐らく、隊員自体も知らないのではないだろうか?

加えて、同じ日経新聞電子版の記事には、陸上自衛隊の13.6%もの隊員がトイレットペーパーを自費で購入している、という驚くべき調査結果も書かれている。また、在日米軍の軍用車両が施設間移動で有料道路を利用する際には無料となるのに、本家本元の自衛隊は災害派遣時を除くと料金を払わなければならない、と「ここは米国か?」と勘違いしてしまいそうな捻じれた実態も明らかにしている。しかし、そういった情報は、これまであまりニュースには登場してこなかった。その一方で、イージス艦の建造だとか、最新式の潜水艦が進水したとか、高額な装備品はその都度ニュースにもなっている。注目度が違うからなのだろうが、巨大戦艦武蔵や大和の建造に国中が沸いた昭和の戦中時代を彷彿させる、と感じるのは僕だけではないだろう。どうも日本人は、ソフトに対する関心が低い様に思う。

そこにいくと米国はしっかりしている。在日米軍には、基地で働く従業員らの給与や基地の光熱水費などを日本側が負担する、いわゆる「思いやり予算」があって、ソフトに対して手当てできるようにしている。高度成長期真っただ中の1978年(昭和53年)、当時の金丸信防衛庁長官の一言で決まったもので、結構な額になる。2022年度からの5年間では、総額1兆551億円で日米政府が合意したと報じられているが、単年度当たりに直せば約2110億円にもなる(東京新聞 TOKYOWeb:https://www.tokyo-np.co.jp/article/150279)。これだけあれば、トイレットペーパーは有り余るほど買えるし、有料道路も料金を気にせず利用できる。しかし、悔しいかな、自衛隊に向けられた予算ではない。

読売新聞オンライン(https://www.yomiuri.co.jp/politics/20211220-OYT1T50340/)では、合意した内容だと米軍基地内に隊舎や管理棟などを整備する「提供施設整備費」も増額した、とある。「自国の整備はそっちのけで…」とならないことを祈るばかりだ。「失敗は繰り返さない」を肝に銘じ、武器などハードな装備品ばかりでなくもっとソフトに気配りをして、人命優先を徹底してほしいものである。繰り返すが、必要なのは“人財”という視点である。

最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間9月13日17時の時点で、世界全体の感染者数は6億0912万人を超え、亡くなった人は652万人に迫っている(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。

(※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/


【文責:知取気亭主人】


「昭和史 1926−1945 「昭和史 1926−1945」

【著者】  半藤 一利
【出版社】 平凡社
【発行年月】 2004/02
【ISBN】 9784582454307
【頁】 512ページ
【定価】 1,760円(税込)

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