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知取気亭主人の四方山話
 

『紐付ける』

 

2022年9月21日

今から12年前の2010年9月20日、我が家から目と鼻の先にある住宅で火災があった。直線距離にして50mほどしか離れてない、本当にご近所の火事だ。幸いケガ人は出なかったものの、この火事で二棟が焼失した。事の顛末は第377話『火事だ!』(2010年9月22日)に書いたが、何故12年も前の事を正確に思い出せるかと言えば、誕生を今か今かと待ちわびていた初孫が絡んでいるからだ。出産予定日を一週間ほど過ぎていた嫁の体力作りにと、たまたま散歩に出かけた長男夫婦が異変に気が付き消防に一報、すぐさま駆け付けた僕が不審者と間違えられながらも初期消火活動を行ったということもあって、その火事は我が家と切っても切れない縁があるのだ。

そして、その大騒動があった2日後の22日、待ちに待った初孫が生まれた。可愛らしい女の子だ。折しもその日は、その火事の事を書いた第377話を「いさぼうネット」に公開した日でもある。そんなこんなで、初孫である孫娘の誕生日を迎える度に、我が家ではその火事の話題が必ず出る。誕生の2日前ということで、日にちは勿論、発見した大体の時間も状況も鮮明に覚えている、という次第なのだ。しかも、嫁が見たという夢の中での話だが、早々に出ようとしていた孫娘に『もう少し入っていて』とお願いしたところ、『分かった!』と言ってお腹に戻ってくれたという。火事騒動に合わせてくれたような、何とも微笑ましい逸話がある孫なのだ。その“聞き分け(?)の良かった孫娘”が22日、12歳になる。ということは、あのご近所の火事は12年前だった、と知ることが出来るのだ。

この様に、二つ以上の事柄の間に何らかの関連を持たせることを、「紐付ける」と言う。気にせず使っているが、手元にある『新村出編 広辞苑 第四版』(岩波書店、1991)と『国語辞典 第八版』(旺文社、1992)を調べたところ、どちらにも説明されていない。2冊とも30年も前の辞典だということを考えると、比較的最近になって使われるようになった言葉らしい。我が身を振り返ってみても、パソコンでデータ処理をする際などに良く使うようになった気がする。多分、当たらずも遠からずだと思う。

正確な意味の説明は兎も角として、我々人間が何かを覚えようとする時に、覚えやすい別な事柄と紐付けしておくことは、極めて理に適った方法だ。くだんの火事の“驚くほど正確な記憶”でも分かる通り、単独で覚えているよりは格段に記憶強度は上がり、容易に思い返すことができる。いくつかの事柄を一つ一つ覚えるより極めて効率的なのだ。例えば、これも個人的な紐付けで申し訳ないが、6月23日は、日本人なら忘れてはならない日の一つ「沖縄慰霊の日」だが、僕にとっては強烈な紐付けがある。父の命日なのだ。そして、命日は僕が4歳の時と教えられているから、何年前に亡くなったかもすぐ分かる。こうした紐付けのお蔭で、「沖縄慰霊の日」のニュースが流れるようになると、「そうか、親父の命日ももう直ぐだな」と気付くことができるのだ。

ただ、こうした紐付けも意図してやらないと記憶に留める効果はないのだが、意図する紐付けを国がやって効果を上げている例が、実は我々の身近なところにある。9月1日だ。9月1日は、国が定めた「防災の日」だが、二つの意味が紐付けられている。平たく言えば、9月1日を防災の日とした理由である。

防災に関心のある人はご存知だと思うが、一つは関東大震災が発生した日(1923年9月1日11時58分頃)であり、今一つは、9月1日が暦の上では「二百十日」に当たり(8月31日の時もあれば9月2日の時もある)、台風が襲来したり強風が吹いたりし易い日とされているからだ。1960年(昭和35年)の閣議で了解・制定されたもので、前年に襲った「伊勢湾台風」によって甚大な被害を被ったことも契機になっているという。また、少し脱線するが、真偽はともかくとして「立春から数えて二百十日頃になると強風が吹きやすい」とされてきたのは、9月1日から3日にかけて行われる、富山市八尾地区(旧八尾町)の「(越中)おわら風の盆」が風鎮めの祭りだということからも分かる。いずれにしても、「防災の日」を迎える度に、関東大震災に思いを馳せ、台風シーズンの到来だなと気付くことができる。

しかし、地震災害にしても台風災害にしても、国民の記憶に残る様に紐付けられた日は、「防災の日」以外に無い。関東大震災と共に“大震災”と名付けられた、阪神・淡路大震災(1995年1月17日)も東日本大震災(2011年3月11日)も、その日が近づくと報道は盛んになるが、未来に向け教訓にしようとする動きを僕は知らない。このままだといずれ忘れられていくのではないか、と危惧している。これらの発災の日が、関東大震災と同じ様に100年後も人々の教訓として生かされる為には、「防災の日」のような仕掛けが必要だ。

それには紐付けが良い。例えば、建物の倒壊による圧死が多かった阪神・淡路大震災の1月17日は「耐震強化の日」だとか、また3月11日は「津波防災の日」だとかに制定して、国を挙げて訓練や行事を行うのだ。そうすれば、防災に関する日は都合年3日になるが、火災、倒壊・圧死、そして津波と、地震を直接の原因として発生したタイプの違う3つの大震災を脳裏に刻む事が出来る、と思っている。如何だろう?

最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間9月20日14時の時点で、世界全体の感染者数は6億1241万人に、亡くなった人は653万人に迫っている(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。

(※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/


【文責:知取気亭主人】


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