2023年2月8日
いよいよ春がそこまでやってきた。先週の金曜日(2月3日)は、その春の到来を告げる節分だった。当然、次の日(2月4日)は立春だ。節分や立春と聞くと、例えみぞれや雪が降っていても、気分だけは春めいてくるから不思議だ。真冬の頃より日が長くなり、朝晩少しずつ明るくなっていることに加え、もうひと月もすれば北陸特有のどんよりとした冬の天気ともおさらばできる、と分かっているからだ。
既にここ数日、つい先日襲来した寒波の荒れた天気が嘘のように、空の高い青空を拝めるようになって来た。今のところまだ連日スッキリという訳にはいかないが、気分はスッキリだ。もう先日ほどの厳しい寒さの日は無い、と信じて疑わないからだ。そういう意味では、3月上旬までまだいくらか雪模様の日が無い訳ではないが、節分の声を聞いた途端、仰せつかる鬼の役もあって気分は自然と軽やかになり高揚してくる。
節分には、どの保育園や幼稚園などでもほぼ行われている“豆まき”や、最近全国的にうるさくなってきた“恵方巻”を食べる習慣がある。ただ、静岡生まれの我々夫婦には、“豆まき”は小さな頃から馴染み深いものの、もう一つの恵方巻については名前を聞いたことも無ければそんな商品を見た事も無かった。当然、海苔巻きを恵方巻と称して食べるという風習など、全く知らなかったし、金沢に来た当初も聞いたことはなかった。あやふやな事を言って申し訳ないが、確か長男が成人する頃までは聞いたことがなかった、と薄っすらとではあるが記憶している。大手コンビニチェーンの金沢進出と共に、この周辺にも広がっていったような気がしている。コンビニで大々的な広告を見たのが最初だったからだ。恐らく、間違いないと思う。
いずれにしても、恵方巻の出処は大阪で始まりは江戸時代だ、とネットを調べた長男が教えてくれたが、バレンタインのチョコレートと同じ様に、恵方(その年の吉の方向)を向いて海苔巻きをほおばるこの変わった風習は、すっかり商業ベースに載せられ、最早日本全国を席巻してしまっている感がある。そのスピードには驚くばかりだが、大きな恵方巻を無言で食べ切るその作法にも驚いている。
恵方には歳徳神(としとくじん)がいるとされていて、その神様に向かってモグモグ食べる様子を見せることになるこの作法、その意味や意義を知らないからだが、僕には凄い違和感がある。「神様に向かって食べるなんて!」と思うのだ。また、恵方巻を提供する店の過当競争なるが故なのだろうが、「こんなに太くて口に入るの?」と驚くほど太い巻き寿司もあったりして、女性やお年寄りにとっては苦痛だろうな、といらぬ心配をしてしまうほどだ。しかし、そんな心配をよそに、ご近所での恵方巻の人気は凄いらしい。
末の孫娘が通う放課後児童クラブ(以下、学童)の先生から聞いた話だが、(その日がたまたま節分だったこともあって)学童に遊び相手としてアルバイトに来ている学生は、朝の7時から近くのマーケットで恵方巻を作るアルバイトに入ったのだとか。7時でも早いと思ったのに、従業員になると更に早いらしい。何と朝の5時から作業開始だというからビックリだ。各家庭でほおばるのは殆ど夕食だと思われるのに、随分と早い。
ところが、そんなに朝早くからたくさん作り並べても、朝9時半になると奇麗に売り切れてしまうらしい。開店と同時に、列を作って買いに来るのだという。どんなご利益があるのか良く知らないが、ご利益に預かりたいという願望を持った方たちがきっと多いのだろう。それとも、恵方巻さえあれば他の料理を作る手間から解放される、という主婦には願ってもないご利益があるからかもしれない。それにしても、30年ほど前にはその名前さえ知らなかったのに、凄まじい勢いで拡大したものである。そして、驚くべき人気である。
それに比べると、豆まきは昔から馴染み深いものの、恵方巻に比べると少々コマーシャルベースに乗り遅れた感がある。「豆まきにはこんなお菓子をまきましょう」のコマーシャルや入り込みチラシなど、まず見たことがない。恐らく煎り豆をまくのは古くからの伝統で、伝統があり過ぎてこれを破ることはできなかったのではないだろうか。手元にある『二十四節気と七十二候の季節手帖』(山下景子著、成美堂出版、2014)によると、節分は旧暦の大晦日に当り(立春が一年の始まりとされていた)、豆まきは、年越しの行事だったのだというから、一年の内でも最も重要な習わしの一つだった可能性がある。新しい年が始まる前に厄を祓っておく意味も込められている、とのことだから、その可能性はかなり高い。
ネットの調査だけだが、豆まきは奈良時代からという説もある。その信憑性については専門家に譲るとして、恵方巻の風習よりは遥かに古い事は確からしい。『鬼は外、福は内』などと叫びながら煎り豆を撒くその作法は、大きく変わっていない様に思う。大晦日の大事な風習だとなれば、軽々に変えることも出来なかったのだろう。だとすると、これからも続く鬼役を担う我々大人の男性にとっての利益は、ハテ何だろう?
最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間2月7日17時の時点で、世界全体の感染者数は6億7185万人を超え、亡くなった人は685万人に迫ってる(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。
(※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/)
【文責:知取気亭主人】
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(沈丁花の蕾) 春はそこまでやって来た! (椿の蕾) |
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