2023年3月8日
日本人にはあまり良いイメージのない「失敗」という言葉、実は諺では意外と前向きな表現がされていて、「失敗は成功の母」とも「失敗は成功のもと」とも言われている。また、かの発明王トーマス・エジソンが『私は決して失望などしない。何故なら、どんな失敗も新たな一歩となるからだ』と語り、特殊相対性理論を発表したアルベルト・アインシュタインは『一度も失敗したことがない人は、何も新しいことに挑戦したことがない人である』と述べ、米国の第26代大統領セオドア・ルーズベルトは『失敗は問題だ。しかし、成功しようとしないのはもっと問題である』と看破した。「失敗」という漢字たった二文字のこの短い単語に関して、最近SNS上で思わぬバトルが勃発した。
2月17日に打ち上げられる予定だったH3ロケットが予定通り打ち上げられなかった事を、「中止」と表現するのか、それとも「失敗」と言うのか、著名人を巻き込んで激しい議論が繰り広げられたのだ。過去形で記したのは、(後で述べるが)やり直しとなった再度打ち上げが昨日(3月7日)に行われたことと、事の発端が17日の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が行った記者会見の席上での記者とのやり取りであり、その日から日にちが経ち、盛り上がったバトルもやや沈静化した感があるからだ。ところが、沈静化した一方で、僕自身は未だに喉に小骨が刺さっているかのように気になって仕方が無い。激しいバトルを繰り広げるほどこだわる必要があるのかな、と思うからだ。
「予定した打ち上げが原因不明の不具合によりできなかった」という点を捉えれば、僕自身は、「失敗」が妥当ではないかと思う。しかし、「いやいや、“失敗”という表現はイメージが悪いから“中止”を使って!」と言うならば、それでも構わないと思う。ただ、想定外の不具合が発生した事、そのため予定通り実施できなかった事を、「上手く行きませんでした」と、まず素直に認めることが重要だ。それが無いと、失敗を克服しようとする次の行動への動機づけが弱まってしまう。したがって、安全装置が異常を検知して機体を損傷させることなく打ち上げを止めることが出来た事を持って、「これは失敗ではなく、あくまで中止だ」とし、「失敗」という言葉に対して持っている負のイメージを和らげようとしているならば、如何なものかと思う。
冒頭に示したように、世界の賢者は、「失敗」は良くあることだ、と言っている。また、それを乗り越えて成功させることがより重要だ、とも言っている。要するに世界の賢者は、「失敗」という言葉に、マイナスのイメージだけではなく、「難しいことに挑戦したからだ」というポジティブなイメージも持っているのだ。だから、恐らくだが、彼らに「失敗」という言葉を使ってインタビューしたとしても、さほど気にしないのだと思う。「残念ながら失敗してしまいました。でもこれで一歩成功に近づく事が出来ます」などと、答えるのではないかと思う。そこには失敗しても何度でも再挑戦出来る雰囲気も社会的な理解もあって、社会全体が「失敗」に対するネガティブなイメージを日本ほど持っていないから、ではないだろうか。
ところが、国民性と言ってしまえば語弊があるのかもしれないが、多くの日本人も日本の社会全体も、諸外国に比べネガティブなイメージを強く持ち過ぎている、と事ある毎に感じている。そしてもっとまずいのは、“失敗の原因”を突き止めるよりも、“責任の所在”を明らかにすることに注力してしまう傾向が強い事だ。要するに、犯人探しに一喜一憂して、肝心の原因究明がおろそかになってしまっている、と思われるのだ。それは、日本社会全体にはびこっている病巣である、とも言える。そして、そのことが日本経済停滞の元凶の一つになっているのではないか、とさえ思っている。そのことを端的に表す事象がある。
端的な事象の一つが、近年良く言われている、中国や韓国などの近隣諸国に比べ海外に留学する学生が少ない事だ。大志を抱いていた人が多かった昔に比べ、近年は随分減ったらしい。もう一つの事象としては、アメリカなどに比べ起業する若者が極端に少ない事を上げたい。どちらの事象も、失敗を恐れ縮こまっていて挑戦する勇気が持てないからではないか、と思う。それは、日本の社会に、再挑戦を良しとする、もっと言えば、再挑戦の機会を与える度量も制度も不足しているからだ。日本が以前の様に輝くためには、失敗を恐れない若者を増やすことが鍵なのに…。冗談抜きに、「犯人を見つけて一件落着」というネガティブ思考からもうそろそろ卒業しないと、本当に世界から置いて行かれてしまう。今回の実りの無い空虚な、それでいて激しいバトルを傍で観ていて、そう思った次第である。
ところで、H3ロケット打ち上げの再挑戦だが、7日の昼前に試みられたものの、二段目エンジンには点火せず、地上からの指令によって破壊され失敗した。多くの国民が、「今度こそ!」と願っていただけに、誠に残念な結果となった。ただ、冒頭にも書いたが、挑戦には失敗が付き物だ。失敗の原因を突き詰め、完全に取り除いて、次はぜひとも成功してほしいと願っている。恐らく、バトルを繰り広げた人たちもそう願っている筈である。
最後に、いつものジョンズ・ホプキンス大学による感染状況の集計結果を記載しておく。日本時間3月7日14時の時点で、世界全体の感染者数は6億7608万人を超え、亡くなった人は688万人に迫っている(NHK 特設サイト 新型コロナウイルス:※1)。
(※1:https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/world-data/)
【文責:知取気亭主人】
春だ!
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