いさぼうネット
賛助会員一覧
こんにちはゲストさん

登録情報変更(パスワード再発行)

  • rss配信いさぼうネット更新情報はこちら
知取気亭主人の四方山話
 

『黄砂』

 

2023年4月19日

最近、黄砂に往生している。青空駐車の車は汚れるし、洗濯物が外に干せない日が増えている。北陸ではお日様を滅多に見ることができない冬がやっと終わり、少しずつ外に干せる日が増えて来たところなのに、この有様である。いつ頃からこんなに酷くなってきたのだろう。テレビの天気予報でも、黄砂情報が頻繁に流れている。黄砂の粒径が花粉よりも小さくて厄介だとか、黄砂が花粉にぶつかると「花粉爆発」と呼ばれる現象を惹き起こして花粉中に含まれているアレルゲン物質が微細化して花粉症を深刻化させるだとか、とにかく人体に害を及ぼすという情報が頻繁に流れてくる。ネット上でも然りだ。これだけ騒がれると、気にするなと言っても、気にならない訳がない。

黄砂は、中国大陸内陸部のタクラマカン砂漠やゴビ砂漠、そして黄土高原などで巻き上げられた土壌・鉱物粒子が、偏西風に乗って東に運ばれ、中国国内は勿論、朝鮮半島や日本列島に押し寄せる。黄砂とは、舞い落ちる砂そのものだと理解しているが、広義の意味でその現象を指すこともあるらしい。いずれにしても、便利な生活に慣れきってしまっている現代人にとっては、何とも厄介な代物だ。その厄介者の発生源・供給源である上記中国大陸内陸部の乾燥・半乾燥地域に対して、これまで抱いていた憧れにも似たイメージが、繰り返し襲ってくる黄砂によって、劇的に変わってしまった。

僕が抱いて来たイメージは、その昔都のあった長安(現在の西安)から、乾燥・半乾燥地域に点在する敦煌(トンコウ)や吐魯番(トルファン)、そして烏魯木斉(ウルムチ)などを通ってローマまで通じていた、東西を結ぶ交易路シルクロードへの憧れに似た思いだ。昔、高校で習った世界史と地理の授業内容が、歴史に誘う旅のロマンとして、強烈に残っている。荒涼とした砂漠や荒れ地をラクダで移動し、やっとたどり着くオアシスで、異文化に出会い一息をつく。そんな隊商が経験したであろう、満天の星や、昼間と見紛う明るい満月など、厳しい旅よりもロマンチックな情景が浮かんできてしまうのだ。

それには、授業内容もさることながら、もう一つ理由がある。童謡『月の沙漠』(作詞:加藤まさを、作曲:佐々木すぐる)の存在だ。その旅情溢れる詩とメロディーが、僕の中での砂漠に対するイメージを決定付けていたように思う。中でも、森繁久彌の声や歌い方が何とも味わいがあって好きだったのだが、受験勉強中にラジオから流れてくるのを良く聴いていた影響も大きかったと思う。『♪月の沙漠を はるばると 旅の駱駝が ゆきました 金と銀との鞍置いて…♪』と朗々と歌う森繁節は、間違いなく、乾燥大陸というものにロマンを感じさせてくれた。

そんなロマンさえ抱いていた地域が、近年の厄介者黄砂の発生源・供給源となってしまっているのだ。急激に進む温暖化・乾燥化が拍車をかけているのは疑いの余地のないところだが、黄砂が花粉症を悪化させるとか、免疫力の低い人たちの体に悪いなど、人体に悪影響を及ぼすから注意する様にとの情報が繰り返し流れてくると、自身の生活が温暖化の片棒を担いでいる事など忘れて、仇の様に思えてしまう。

何しろ、我が家には、春の訪れとともに鼻詰まりが酷い上の孫娘を筆頭に、今年から鼻がズクズクし始めた家内や、少し前から何となく目が痒い僕など、花粉症を患っている家族が複数いる。そして、まだ体力が無く免疫力が十分育っていない小児もいる。爺婆の我々夫婦も、小児とは逆だが、体力は衰え免疫力は弱っていく一方だ。そうした事を考えると、どうしても気になってしまう。洗濯物の外干しはどうしても控えてしまうし、歩いて登下校している孫娘二人も気掛かりで仕方が無い。僅か片道15〜20分程度だが、黄砂が舞う中を通わざるを得ないからだ。一人は重度の花粉症だし、もう一人は我が家で最も体力がないとなれば、気になっても不思議ではないだろう。

しかも、結構ひどい黄砂が押し寄せて来るのだ。それがどれほどか、ほぼ同じ場所から金沢市内を写した下の2枚の写真を比べると良く分かる。左の写真は1月28日に、右は4月13日に撮ったものだが、1月の写真では、ほぼ中央の高いビルがくっきりと見える。ところが、今月13日の写真では、そのビルが霞んでしまっている。地図上で測ると、撮影地点とビルの距離は約2.3kmだから、視程は凡そ3kmほどだったのではないだろうか。黄砂情報では、視程2km以下が赤色で、2km〜5km未満は黄色、5km〜10km未満が青色、10km以上が水色の4段階で注意勧告するが、13日の金沢は上から2番目に酷い状況であることが分かる。写真撮影前日の4月12日はもっと霞んでいて、太陽が黄色く見えたほどだ。

卯辰山から金沢市内を望む(1月28日)
同(4月13日)

改めてこうやって写真を見比べると、その酷さにゾッとする。気象情報で注意喚起をするのも頷ける。しかし、これからこんな日を一体何回経験しなければいけないのだろう。ひょっとすればこの黄砂は、「早く、真剣に、温暖化防止・乾燥化防止に向けた行動を起こさなければえらい事になるぞ!」との神の啓示なのかもしれない。

なお、黄砂について知りたい方は、環境省の『黄砂ってなに?』が分かり易く書いてあるのでお勧めだ(https://www.env.go.jp/air/dss/kousa_what/kousa_what.html)。「黄砂パンフレット」や「黄砂問題検討報告会報告書」もダウンロードできる。興味ある方は是非どうぞ。


【文責:知取気亭主人】


Copyright(C) 2002- ISABOU.NET All rights reserved.