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知取気亭主人の四方山話
 

『奥様は免許皆伝?』

 

2023年10月4日

まだ子供だった頃、赤堂鈴之助の映画を嬉々として観ていた60年以上も前、テレビ放送がまだ開始される前の、随分と古い話である。当時の男の子の多くは、NHKラジオでも放送されていてヒーローだった赤堂鈴之助を筆頭に、巌流島で戦ったという宮本武蔵と佐々木小次郎、或いは柳生十兵衛や千葉周作等々、良く知られた剣豪に憧れ、夫々が勝手にその剣豪を名乗って、チャンバラごっこで遊んだものだった。映画や漫画など子供が得られる限りの情報を頼りに、誰が一番強いか、それぞれ一押しの剣士を名乗っていたのだ。小生の一押しは、塚原卜伝だった。

初めてその名を聞く人もいるだろうが、塚原卜伝は、戦国時代の剣豪で、とにかく強かったと漫画には書かれていた。食事をしている時に、尋ねてきた剣豪が突然切りかかったところ鍋蓋でその一撃を防いだなど、嘘か誠かはついぞ調べたことはなかったが、色々と出てくるその強さの逸話は、チャンバラごっこ大好き少年の心を鷲掴みにしてしまった。そして決定的になったのが、飛んでいる蠅を持っていた箸で挟んで捕まえた、という逸話だ。『そんなことができるのか?』と、子供の頃からずっとチャンスがある度に挑戦しているのだが、ついぞ成功したことはない。それどころか癪に障ることに、どんくさい動きをばかにしているかの様に、わざわざ箸を持っている手に止まる事すらあった。やはり蠅にも、剣豪と凡人の腕の違いが分かるのだろうか。

その蠅絡みで言えば、箸に比べると大分見劣りもするのだが、新聞紙などもっと大きな武器で退治しようとしても、一筋縄ではいかないことが多い。我が家でも、大の大人が四人がかりで奮闘しても、なかなか仕留められない。そんな時、話題として出てくるのが、義母の凄技だ。家内の話だと、『お母さんは蠅をひょいっと手で捕まえてしまう特技を持っていた』と言う。勿論、飛んでいるのを捕まえるのではないらしい。“蠅たたき”や新聞紙などで叩くのと同じ様に止まっている蠅に狙いを定め、広げた手の平を素早く動かし、飛び立つ瞬間に握って捕まえてしまうというのだ。家内も小生も何度か挑戦しているのだが、一度たりとも成功したことがない。こうしてみると、どうやら義母は、塚原卜伝とまではいかないまでも、手で蠅を捕獲してしまうという一風変わった奥義を極めていたらしい。

そんな義母の血を受け継いだのか、家内もなかなかの手慣れた技を持っている。特に、孫達がワーワー、キャーキャー言って騒ぎ立てる、突然部屋の中に侵入してくる招かざる虫への対応は、結構な度胸と技術を見せてくれる。攻撃してくることのある蜂などにも沈着冷静に対応していて、毎回事なきを得ている。小生も蜂など虫への恐怖心は全くと言って良いぐらい無いのだが、その対応の良さには一目置いている。女性には虫嫌いが多く、男性でさえ苦手な人が結構いるだけに、口には出していないが、『お主なかなかやるな!』といった心境だ。子供の頃に、自然豊かな環境で育ったことが、手慣れた技の習得の素地になっているのだろう。そうした虫への対応は、“免許皆伝”と言っても良いぐらいだ。それは、男女を問わず毛嫌いされる、あのゴキブリにも発揮されている。

二週間ほど前に、台所にゴキブリが出た。孫娘が、近くにいた小生に、恐る恐る小さな声で、『ゴキブリがいる!』と言う。言われた場所を見てみると、あの茶褐色の虫が、ジッと動かないでいる。しかし、近くにあった新聞紙に手を伸ばした瞬間、サッといなくなった。途端に、孫娘が“キャー”と叫び声を上げた。その大きな叫び声と小生の発する並々ならぬ殺気に危険を感じ取ったのだろう、その日はそれっきり姿を見せなかった。ところが、後日またお出ましになったらしい。今度はゴキブリも運が悪かった。対峙したのが、“虫処理免許皆伝”の家内だったからだ。家内の話をまとめるとこうだ。

一瞬叩こうと思ったのだが、ジッと動かないでいるのが新聞などの武器が使えない場所だったらしく、思わず手を止めたという。そして思い出したのが、台所用洗剤を吹きかけると界面活性剤の作用で呼吸できなくなり退治できる、という情報だ、以前友達に教えてもらっていたらしい。ただ、吹きかける方向と場所に工夫が必要だったらしい。洗剤の容器を手に持ち、逃げ道を塞げる様に噴射出来る位置にそろりそろりと移動して、噴射決行!見事に退治。これが事の次第だという。

よく考えると、台所用洗剤の容器に付いている噴射器は、そんなに遠くまで噴射できるものではない。精々30〜50cmが良いとこだ。したがって、自身がかなり接近しなければ届かない。かと言って近づき過ぎれば、危険を察知して逃げられる公算が大きくなってしまう。ところが、そんな条件下で見事退治できたということは、敵に気付かれずにそこまで近づく技量を持っていた、ということに他ならない。殺気を消し、気配さえも消していたのかもしれない。殺気や気配を消すなど、剣豪でも達人しかできない領域だ。素人ができるものではない。ひょっとすると、表題通り、「奥様は免許皆伝?」なのかもしれない。


【文責:知取気亭主人】


ニラの花(花言葉は、「多幸」「星への願い」だとか)
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