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知取気亭主人の四方山話
 

『譫妄』

 

2023年11月1日

読者の皆さん、今回の題字、読めただろうか。初めて見たという方が殆どだと思う。この単語、「せんもう」と読む。僕は読めなかった。というか、実は知ったのは順序が逆で、「せんもう」という単語を聞き『どんな字を書くの?』と尋ねたところ、この漢字を教えてもらったのだ。我々一般人が知らなくても不思議はない。医学の専門用語だからだ。何冊か調べてみたが、良く使う机上サイズの国語辞典には載っていない。分厚い『広辞苑[第四版]』(新村出編 岩波書店 1991)を調べると、「錯覚や幻覚が多く、軽度の意識障害を伴う状態。アルコールやモルヒネの中毒、脳の疾患、高熱状態、全身衰弱、老齢などに見られる」(原文ママ)とある。また、『新版 漢語林』(鎌田正・米山寅太郎著 大修館書店 1994)によれば、「譫(せん)」の漢字一字で、「たわごと。うわごと。病気などで意識がはっきりしないときなどにいうとりとめもないことば」(原文ママ)、と説明されている。

そんな小難しい単語を誰に言われたのか、と不思議に思われたことと思う。実は25日から入院していて、ひと月ほど前にその手続きをする際、全身麻酔の注意事項として言われたのだ。『「せん妄」についてご説明します』と題する説明用パンフレットも渡され、よく読んでおいてくださいと言われた。そこには、「せん妄は、脱水・感染・貧血・薬物など、からだに何らかの負担がかかった時に、脳にも負担がかかることでおこる脳の機能の乱れ(意識障害)です。」(原文ママ)と説明されている。ただ、初めて聞く単語だ。そこで、パンフレットを受け取りながら、『“せん”てどんな漢字を書くんですか?』と尋ねてみた。そして冒頭に繋がるのだ。

突然の質問に困惑しながらも、表題の難しい漢字を教えてくれた。しかし、説明する病院職員も受けたこちらも、何となく自信が無い。帰ってから調べようと生半可に分かった風な返事をし、パンフレットを流し読みしていると、気になる文言が目に飛び込んで来た。「せん妄のときの変化や特徴」を列挙した項目の最後に、「見えないものが見える(虫、小さな動物、小人)」と書かれていたのだ。それを読んだ時、突然ある人を思い出し、思わず二度読みしてしまった。思い出したのは、14年前に亡くなった義母のことだ。

義母は末期癌で金沢の病院に入院していた。亡くなるまで毎日お見舞いに行っていたのだが、症状が進むにつれ痛みが激しくなったらしく、体も徐々に弱り、痛み止め用のモルヒネを投与する間隔が少しずつ短くなっていった。それにつれ、病室の壁や天井に何かがいる、と言う様になった。言われる度にその場所を探すのだが、何もいない。認知症になっている訳でもなく普通に会話できるだけに、なんなんだろうと不思議に思っていた。しかし、「せん妄」の説明文を読んだ今思うと、義母のあの症状が正に「せん妄」だったのだ、と腑に落ちる。激しい痛みとモルヒネの影響で、脳にかなりの負担がかかっていたのだろう。入院前まではとてもしっかりしていただけに、その苦痛はいかばかりだっただろう。それを思うと、今でも心が痛む。

そんな義母のことを思い出し、では僕の場合はどうなるのだろう、と興味が湧いて来た。「せん妄」の説明をしてくれたということは、義母のような症状が出る可能性があるということだ。しかも、「せん妄になりやすい人」の説明に5項目示されているのだが、当てはまりそうな項目が2つある。「高齢」と「お酒を飲む量が多い」だ。さて、この2項目が悪さをするのかしないのか、興味津々でその時を待っている。

ところで、僕が受けるのは、前立腺肥大の手術で、「経尿道的前立腺レーザー蒸散術」という術名だ。3時間ほど麻酔が効いているらしい。26日の午後受けることになっていて、説明を聞くと、暫くはパソコンに向かえそうにない。そこで、ここまでは入院前日までに書き、事の顛末は、術後椅子に座っていられる様になってから書き上げることにした。こうすることによって、初めての貴重な体験談を、いつもの水曜日にアップできると踏んだのだ。どんな内容になるのか全く想像もできないが、僕自身へも含め乞うご期待である。

目が覚めました。さすがプロフェッショナル医師団、ほぼ予定通りの時間に目が覚めた。聞き慣れた声に目を開けると、妻の顔が見える。麻酔から覚めたばかりで、ボーッとしている。さっき手術室に入ったばかりの感覚しかしないのに、『もう病室に戻って来ているよ』と言う。続けて、妻はベッドの横で一生懸命話しかけてくれる。ところが、それに応えようとするのだが、自分でもビックリするほど呂律が回らない。しかも凄く眠い。半分寝ている状態だ。それでも、「せん妄」が気になり辺りを見渡す。しかし、変な物は見えない。そのうち、直ぐにまた眠りに落ちた。

その後、手術日のその晩も、翌日も、病室のあらゆる所をキョロキョロするが、入院した時と同じで変わったものは一向に見えない。どうやら、「せん妄」の症状は表れなかったらしい。気掛かりだった「高齢」と「お酒を飲む量が多い」も、悪さをしなかったらしい。これで一安心だ。エッ、何が安心かって? 勿論、退院後大手を振って酒が飲めるからに決まっているじゃないか!


【文責:知取気亭主人】


夕日に照らされて見える化された送電線(病棟より)薄っすら見える細かな編み目は網戸の金網
夕日に照らされて見える化された送電線(病棟より)
薄っすら見える細かな編み目は網戸の金網

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